PaaS市場のリーダーはセールスフォース・ドットコム。マイクロソフトが2番手、3番手以降はだんご状態。ガートナーの調査より

2014年1月16日

米調査会社のガートナーが、エンタープライズ向けのPaaS型クラウドベンダを分析した「Magic Quadrant for Enterprise Application Platform as a Service」を公開しています。これは市場における各ベンダの位置づけを「ビジョンの完全性」(Completeness of Vision)と「実行能力」(Ability to Execute)の2つの軸で評価するものです。

Magic Quadrant for Enterprise Application Platform as a Service

2つの評価軸の両方ともトップだと評価されたのがセールスフォース・ドットコム。これは同社がPaaS型クラウド市場でリーダーであることを意味します。そして同じく2つの評価軸のどちらも2番と評価されたのがマイクロソフトです。

マイクロソフトに続いて実行能力は3番と評価されたのがGoogleですが、もう1つの軸であるビジョンの完全性では下位に位置づけられ、一方でビジョンの完全性ではマイクロソフトに次いで高い評価だったIBMは、実行能力については全体の下位に位置づけられるなど、3番手以下はSAP、Engine Yard、Red Hatなどほかのベンダーも巻き込んでだんご状態になっています。

日本企業としてはNTTコミュニケーションズが3番手グループの中に入りました。

元の記事「Magic Quadrant for Enterprise Application Platform as a Service」では各ベンダの位置づけの図と詳細なレポートが読めますので(英語ですが)、そちらも参照してみてください。ここでは、主要ベンダの評価をかいつまんで見ていきましょう。

Salesforce.com、Microsoft、Google、それぞれの評価

Salesforce.com

Salesforce.comがPaaSとして提供しているのは、Force.comとHerokuです。

The vendor is by far the largest provider in the enterprise aPaaS market, with fast-growing revenue and a fast-growing user base and application count, combined with the longest strategic and successful presence in the cloud application and platform markets. This gives salesforce.com the name recognition and reputation that, for many prospects, translate to a safe choice in the otherwise immature and unsettled PaaS market.

同社はエンタープライズaPaaS(Application Platform as a Service)において断然トップを走るベンダであり、売上げの面でもユーザーベースの面でも急速に増大しているし、アプリケーション数も増えている。このことが同社の認知度をや評判を高め、多くの潜在顧客にとって未成熟なPaaS市場における安全な選択肢となっている。

また、継続的な革新によってモバイルやソーシャルと言った幅広い機能を用意していることや多様なAPIが提供されていること、数多くのISVなどによるエコシステムなども高く評価されています。

一方で、プロプライエタリなForce.comに対するベンダーロックインの心配、HerokuとForce.comという統合されていないプラットフォームの存在などが弱みとして指摘されています。

Microsoft

マイクロソフトのPaaSといえば、Windows Azureです。

Windows developers and those familiar with .NET languages and constructs find Azure a comfortable, compatible environment to work in. This brings opportunities for millions of developers and is a natural target for established Windows ISVs.

Windowsや.NETに慣れた開発者はWindows Azureの開発を快適だと感じるはずで、両者の互換環境はうまく機能している。これは何百万もの開発者にとってチャンスとなると同時に、多くのWindowsを得意とするISVにとってはWindows Azureがクラウドにおける自然なターゲットとなる。

同社のインメモリやメッセージングやBPMやメッセージングやIaaS、SaaSなど包括的なクラウド戦略も強さとして評価されており、また.NET以外にNode.jsやJava、PHP、Pythonといった言語のサポートも有望だとされています。

一方で現在のところ同社のリーダーシップが失われようとしている点(次期CEOを探している状態)や、IaaSからPaaS、SaaSまであまりにも幅広い範囲を自社でサポートしようとする難しさなどが課題として挙げられています。

Google

GoogleはGoogle App EngineをPaaSとして提供しています。そのほかCloud SQL、BigQueryなどのデータベースサービスも提供。

Google's outstanding reputation as a cloud services provider and an early big data innovator lends credibility to Google App Engine and other PaaS offerings for projects that require high elastic scaling, the processing of large amounts of unstructured data and some forms of business analytics.

Googleのクラウドサービスプロバイダやビッグデータのイノベータとしての飛び抜けた評判は、高いスケーラビリティを要求するデータ分析や大規模データ処理などのプロジェクトに対するGoogle App Engineなどの信用を高めている。

エンタープライズ向けのサポートやSLA、計画停止の最小化、オートスケールなども評価され、またAPIレベルでgoogle Appsなどとの連係ができる点、IaaSのGoogle Compute Engineとの組み合わせなどもエンタープライズ市場にとって前向きなものになるだろうとされています。

一方で、エンタープライズ市場においてまだ同社の存在感が小さい点、オンプレミス版がなくオンプレミスとの連係などによるハイブリッドクラウドのソリューションに弱いことが課題とされています。

クラウドネイティブなPaaSか、オンプレミスとの互換性か

このトップ3に並んでいるForce.com/Heroku、Windows Azure、Google App Engineを見ると、オンプレミスのアプリケーションでは大きな存在であるJavaとOracle Databaseの存在感が非常に薄いことに気がつきます。

Javaと並んでオンプレミスで人気のある.NETとSQL Serverについては、マイクロソフトのWindows Azureがカバーしています。一方のJavaについてはHeroku、Windows Azure、Google App Engineでそれぞれ対応してはいるものの、まだオンプレミスのJavaアプリケーションを安心して移植できるほどの実績や互換性が十分あるとはいえません。

Oracle Databaseにしても昨年、マイクロソフトとオラクルが提携をしてWindows Azureでの正式サポートを表明したばかりです。

これは、既存のJavaやOracle Databaseなどのミドルウェアをそのままクラウドに持って行ったとしても、最初からクラウド専用に設計されたForce.comやGoogle App Engineなどと比べると、クラウドの持つスケーラビリティや低コスト、自動化などのメリットをPaaSとして提供することが難しかったためです。

そのために、優れた機能を提供できるクラウドネイティブなPaaSがクラウド市場で先行し、これまで優位な地位を占めることができました。

しかし、オラクルやIBM、そしてSAP、マイクロソフトなど、オンプレミスのソフトウェアで成功してきた企業は自社製品をクラウドでも適切に稼働するように改善をすすめてきており、相次いでオンプレミスとの互換性の高さをアピールポイントとしたPaaSの提供を開始しています。マイクロソフトも.NETやSQL Serverのクラウド最適化を着々と進めています。

クラウドネイティブで先行してきたセールスフォース・ドットコムやGoogleの優位性は、オンプレミスソフトウェアの進化によって少しずつ縮まりつつあります。こうした中で先行するベンダが引き続き革新を続けて優位性を維持し続けられるのか、それともオンプレミスで成功してきたソフトウェアベンダがクラウド対応に成功して先行するベンダに追いつくことができるのか。

先日、Salesforce1/Heroku1を発表してモバイル対応やIoT対応を本格化させたセールスフォース・ドットコムの戦略は、先行者優位を今後も維持するために大胆な革新を続けていくという明確なメッセージでした。

エンタープライズのアプリケーションが本格的にクラウドへ移行するのはこれからです。数年後にはPaaS市場の勢力図が大きく変わっている可能性は十分にあります。

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Junichi Niino(jniino)
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