ノマドスタイルとPublickeyとひとりで起業すること

2009年7月6日

佐々木俊尚のネット未来地図レポート

ITジャーナリストとして知られる佐々木俊尚さんは、有料のメールマガジン「ネット未来地図レポート」を毎週発行されています。佐々木さんは著書「グーグル 既存のビジネスを破壊する」や「フラット革命」などをはじめ、ネットが社会をどう変えていくかを鋭い視線で分析した言論活動を行っており、ネットでもブログ「佐々木俊尚 ジャーナリストの視点 - CNET Japan」で注目される情報発信をされています。

さて、その佐々木さんのメールマガジン「ネット未来地図レポート」で今日発信された号「ノマドライフスタイルの未来はこうなる!?」で、実は僕へのインタビューをまとめた内容が掲載されていました。僕がなぜ個人でPublickeyを立ち上げたのか、その理由をうまく書いていただいてるので、少し長いのですが引用します。

「ネット未来地図レポート」から引用

(引用ここから)

パブリックキーというIT分野の専門的なニュースサイトβ版を、個人で開発している新野淳一さんにしばらく前に取材した。

パブリックキー
http://www.publickey.jp/

新野さんは元ITメディア執行役員。しかし、もともとフリーライターだった新野さんは、管理職の仕事は自分の本分ではないと考え続けていた。公開企業になったことで、株主に対する責任も生まれ、そのためには毎年成長し続けていかなければならない。まだ40歳になったばかりなのに、こういうマネジメント中心で肩書きだけが偉くなっていく人生を50歳、60歳になるまで続けたくない――。そこで新野さんは、すっぱりと会社を辞めることにしたのだという。上場で若干のキャピタルゲインを得ることもできたので、数年間は暮らせるぐらいの貯蓄もあった。

そうして新野さんはフリーに戻り、以前から考えていたあるプランを実行に移すことにした。

そのプランというのは、こういうものだ――フリーランスのライターは、自分でメディアを持っていない。だがマスメディアが収縮していくこれからの時代においては、メディアを自前で用意して活動していくフリーランスが現れてくるのではないか。だったら自分でその試みを行い、自前のメディアから収入を得て生計を立てていってみようじゃないか。

1990年代ごろまでは、個人で自前のウェブメディアを立ち上げ、運営するというのは夢物語でしかなかった。サーバ、光ファイバー回線、データベースソフトなどいずれも価格が非常に高く、まとまった資本が必要だったのだ。おまけにメディアを運用するアプリケーションも自前で用意しなければならなかった。ところがいまやサーバや回線などは極限にまで低価格化していて、ブログベースのメディアを運用するCMS(コンテンツ管理システム)も安価に使えるようになっている。

つまりはメディアの事業立ち上げコストが極限まで小さくできるようになったわけだ。

これはメディアビジネスを一変させる新たなパラダイムであるのと同時に、大がかりなメディアビジネスでさえもたった一人の個人がノマドワークスタイルによって維持することが可能になってきたということである。

新野さんは「もっとフリーランスが増えればいいのに」と考えているという。いくつものベンチャー企業を経験してきた彼は、個人と組織は対等の関係だととらえている。その考えは、まだ20代の会社員だったころも、執行役員になってからも変わらなかったようだ。「いつでも会社を辞めてやるよ」という覚悟があって、しかし会社から「辞めないでほしい」と考えられているような会社員が理想型だ。

とはいえ、そうなるためには自分自身の能力を磨かなければならない。いつフリーになっても大丈夫という裏付けがなければ、社員と組織の関係は対等にはなっていかない。しかしいまやクラウドやウェブメディアの普及によって、フリーランスであることは以前よりもずっと簡単になった。フリーランスで仕事をしている人が格段に増え、フリーランスの名刺を持っていても、敬遠されるようなことはなくなった。みんなが大企業の肩書きに頼るような時代は、ついに終焉を迎えようとしているのだ。ウェブメディアは、そうした個人のフラット化を加速させている。

(引用ここまで)

個人で起業したからといって成功する確率が高まるわけではない

僕が紹介されている部分は、上記の引用させていただいた部分に続く佐々木さんの予想「会社などという古くさいシステムは姿を消して、もっと違うかたちで人と人とがつながり、コラボレーションして仕事をするような社会が現れてくるだろう。」を補強する材料となっています。

「会社などという古くさいシステムは姿を消して」というほどすっかり会社がなくなることはないと僕は思いますが、おおむね佐々木さんの予測には同意しています。個人にとって圧倒的な強者であった会社や組織は、これからはもっと個人と対等の立場に近づくことになるはずですし、そうなってほしいと思います。ネットやテクノロジーの存在がそうした動きを促進してくれているはずです。

著名なブロガーの江島健太郎氏が「LingrとRejawサービス終了のお知らせ」で、ベンチャー的なソフトウェア開発は4人でも大所帯だった。個人で十分だったかもしれない、と反省の弁を書いたのも、サイボウズの創業者であり米国でLUNARRというベンチャーを立ち上げ、先日撤退を決めた高須賀宣氏がITproの記事「もう起業に会社はいらない,とサイボウズ創業者は言う:ITpro」で、タイトル通りもう起業は個人で十分にできると主張したのも、個人が組織に対して十分な能力を持ち始めたということを表しているはずです。

僕は会社を辞める決心を3年前にして、実際に会社を辞め個人で起業の準備を始めたのが昨年。佐々木さんのインタビューを受けに自宅へ遊びに行ったのは昨年末のことでした。最近になってこうした著名なお二人の発言や、佐々木さんの記事など、僕が考えて実行しようとしていることが徐々に大きなトレンドになろうとしていることは大いに励みになります。

ただし、たしかに個人での起業は以前より容易になり、企業にとって脅威になりはじめてはいますが、個人で始めたからと言って成功の確率が高まるわけではありません。単に失敗しにくくなるだけです。個人ではベンチャーキャピタルなどから投資を受けて「他人のカネで勝負する」ことを選ぶことは難しいでしょうから、失敗すれば自己資金を食いつぶしていきます。個人での起業にはそうした負の面があることも同時に示していかなければならないでしょう。

ですから正直に言うと僕も「本当にこれで食えるようになるのか? 何年かかるのか?」と自問しながらの毎日です。

一方で僕は、そうした個人による起業の実験体としての役割を率先して演じているつもりでもあります。毎月ページビューを発表している理由はそのためでもあり、今後は可能な範囲で売上げなども少しは明らかにしていこうと考えています(いまはゼロです)。そして数年後にうまくいったらマネしてもらってかまいませんし、失敗したらその教訓を分析してもらえばいいと考えています。

僕自身はあまり自分について語るのを得意としないので、こうしてPublickeyについて他人に説明してもらえる機会があるのは大変嬉しく思います。アルファブロガーである樋口理氏の「ブログメディア事業のフレームワークを探す旅 [Publickey]」にも、Publickeyを立ち上げた理由や目的について上手に説明していただいています。

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Junichi Niino(jniino)
IT系の雑誌編集者、オンラインメディア発行人を経て独立。2009年にPublickeyを開始しました。
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