エンジニアを成長させるためのマネジメントと組織づくりとは~アドテクを中心とする組織の取り組みの例。Developers Summit 2016

2016年5月16日

ソフトウェアによるビジネスを行う組織にとって人材はもっとも重要な資産の1つであり、その人材と組織をつねに優れたものに成長させ続けていくことはマネジメントにとって最大の課題でしょう。

ではマネジメントはどのような考えや方法でエンジニアを成長させ得るのか。2月19日、20日に行われたイベント「Developers Summit 2016」(通称デブサミ)でリクルートコミュニケーションズの阿部直之氏が行ったセッション「エンジニアを成長させるための組織づくり」では、その一例を見ることができました。

この記事では、そのセッションの内容をダイジェストで紹介します。

エンジニアを成長させるための組織づくり

リクルートコミュニケーションズ 阿部直之氏。

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リクルートコミュニケーションズで、エンジニアが成長する環境を作るために取り組んでいることを紹介しようと思います。

エンジニアの成長は、組織の影響を受けるところがあるので、まずはリクルートコミュニケーションズの会社について。

リクルートコミュニケーションズはリクルートグループの会社です。グループの中には、タウンワークやゼクシィといったサービスを運営している事業会社がありますが、リクルートコミュニケーションズは、そうした各事業会社に横断的に機能を提供する機能会社です。

この中でエンジニアはデジタルマーケティングの支援にコミットしています。アドテク部として、クライアントとユーザーのマッチングをオンライン広告の領域で行う、アドテクノロジーに特化したエンジニアの組織になっています。

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50名強のうち大半がエンジニアです。エンジニアが多いだけでなく、プロダクトの開発、推進にコミットするような組織になっていて、ビジネス側から依頼を受けて作るだけでなく、エンジニアからもアイデアを出してプロダクトを大きくしていくこともあります。

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エンジニアは技術的な観点からアイデアの実現性や優位性を考え、プランナーはビジネス面から優位性や販売戦略などを考え、アイデアをぶつけながらプロトタイプを作って、それをもとに見立てがつくなら予算を獲得し、開発し、KPIを設定して仮説検証を繰り返して改善していきます。

こんな組織におけるエンジニアの成長についてお話しします。

エンジニアが成長することで組織の価値を増やす

私はエンジニア組織のマネージャとしてマネジメントをしています。

もともとは独立系SIerでインフラから開発、運用まで、いうなれば何でも屋みたいなことをしていましたが、もう少しカスタマ寄りのWebサービスをやりたいということでリクルートコミュニケーションズに入りました。

最初はアドテクを立ち上げるためにエンジニアとしてプロダクトの開発をしていましたが、継続的デリバリやDevOpsなどが盛り上がってきて、組織のスループットを上げるのが面白くなって、今年度からマネジメントをしています。

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組織のスループットを上げるとは、経営資源によってインプットされたリソースを変換して何らかの組織価値を出すと。

どうすれば組織価値が増やせるだろうと考えると、この変換の部分を構成するのは主にエンジニアなので、エンジニアを成長させることが大事だろうと考えたわけです。

一般に組織の成長とは人が増えることだろうと考えられていますが、僕らが目指しているのは人を増やすのではなく、メンバー自身が成長することで組織の価値を増やしていくと。

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組織にマッチングする人を採用する

ここからは、組織としてエンジニアを成長させるための4つの取り組みについて紹介します。

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まず採用の領域です。採用でいちばん気にしているのは、その人が僕らの組織にジョインして本当に一緒に成長していけるのか、組織とのマッチングです。

採用活動はもちろん人事部と一緒に動きますが、現場の人間も強く採用にコミットするようにしています。

どんな人がリクルートコミュニケーションズにマッチするのかを考えるとき、いま社内で活躍している人がどんな人かを考えてみます。

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つまり、プログラミングでより高度な課題をどんどん解いていくような人は、私たちの組織にマッチングするのではないかなと。それは能力があるだけでなく、そういうことを楽しんでやれる人なのではないかな、と考えてています。

こういう人を採用するために、プログラミング試験というのもやっています。これはどこからか問題をとってくるのではなくて、問題自体を現場のエンジニアが作成し、採点までしています。

なので、現在進行形で組織が求めているスキルを評価できるし、エンジニアの人は分かると思うのですが、コードには性格や志向も出るので、そういうのも一緒に見て、この人と一緒にコードを書いていけるのか、といったところも評価点になっています。

こういう試験を採用のコアに置くことで、現場で相性がいい人を採用できるのではないかなと思います。

目標設定と評価はセットで考える

こうして増えてきたメンバーに対して成長を加速させるために、目標設定や評価にも力を入れています。このとき、目標設定と評価はセットで考えるべきだと考えています。

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目標の設定についてはエンジニア自身が将来どういうエンジニアになりたいか。それに加えて、いま業務課題として何があるか、そのエンジニアはどこで価値を発揮できるかを調べていって、そのなかで目標を設定します。

評価は、目標に対して業務を通してどれだけ成長できたのか、ということを主に評価の軸としています。

評価=査定というより、評価は本人が成長するためのコミュニケーションだと考えていて、もっと伸ばせるところがあるんじゃないかとか、望んでいたのはこういうことじゃないか、みたいなコミュニケーションを、評価をもとにしています。

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目標を設定する、評価する、評価をもとに次の設定をするというループが、大きい範囲だと半期ごと、状況に応じてもう少し細かくもやっています。

そして目標設定、評価を繰り返して目標設定が高くなっていって、本人のなりたい姿に近づいていれば、それが本人にとって成長だと思います。

本人のなりたい姿が目標であれば一生懸命やる、そうすると結果がでる、結果が出る人は好きにやっても文句を言われにくいといった好循環があるので、目標設定は力を入れています。

しかしこれは理想論と言われればそうで、現場をみてみると、本人がやりたいことと業務課題が完全に一致することはないわけです。

ただ完全一致はしなくても、業務の課題も本人のwillもちゃんと深堀をしてみると、業務課題の本質をとらえていくと解決方法は複数あるし、なりたい人になるためのスキルにも幅がある、そこをうまく満たす設定ができるよねと考えています。

そしてメンバーは成長すべきである、マネジメントはそれを促進すべきである、というところから、業務に対してわりと背伸びして、メンバーが一生懸命取り組んでクリアできるかできないかというところに目標を置くと、どんどん成長できると。

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ただ、そういう設定をするのはやはりしんどくて、現在のスキルをよく見なければいけないし、本人のwillはだいたい狭い範囲のもので、そこをどう広げていくかを考えなくてはいけないし、業務課題についてもなにを解決しどういう選択肢があるかをちゃんと見る必要がある。

ただ、これをがんばっていくとメンバーは成長するし、最終的に組織に貢献できるよねと考えています。

成長の幅を広げる

ここまでは業務を通していかにメンバーを成長させていくかについてでしたが、それだけでは成長が業務の幅に収まってしまいます。

そこでいかに幅を広げていくか、飛び地を作っていくかということで、さまざまな機会を提供することも継続して行っています。

業務の外側の機会を提供していくということで、勉強会をやったり機械学習アルゴリズムを戦わせるとか開発合宿とか、国内外のカンファレンスに参加するといったこともしています。

こういった業務外の取り組みでも、エンジニアがわくわくする機会、いまの技術トレンドに取り残されないような機会を提供しようと。

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そしてこういうことも最終的には組織に価値が返ってくると考えています。

例えば、エンジニアのスキルのベースアップにつながるのは当然ですし、業務の中だけでは取り入れられない、最新技術や理論を組織に持ち込むことになりますし、そうすることでビジネスサイドからはなかなか起こりにくい、エンジニアならではのチャレンジやアイデアが発掘されて、それがビジネスにつながることもあります。

まとめ

まとめです。

エンジニアが成長できる組織として、エンジニアが楽しくチャレンジできる業務があり、ビジネスの課題とエンジニアの価値の発揮をうまくマッチングさせようとしています。

そのためにマネジメントはWillと業務課題のマッチングや、業務にとらわれない成長の機会を提供しています。

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こうしたなかで、マネジメントはビジネスとエンジニアのあいだで触媒の役割を果たすことになるかなと思いますし、ビジネスとエンジニアのドメインを横断することで、新しいイノベーションも生まれるかなと思っています。

公開された資料「エンジニアを成長させるための組織づくり

Developers Summit 2016

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