地域活性化でITが果たす役割は。四国地方のサテライトオフィスやクラウドファンディングによる地域創生を見る ― AIIT起業塾#5 ―[PR]

2016年5月12日

2016年1月31日日曜日、産業技術大学院大学主催による「AIIT起業塾」が産業技術大学院大学の秋葉原サテライトキャンパスにて開催されました。5回目となる今回は「地域活性化×IT」をテーマに、それに携わる5人の登壇者を中心に、30名以上の参加者が熱い議論を交わしました。

日本は都市部への経済集中が顕著な国で、それにより地方経済力との格差と人口流出、地域経済意欲の低下という問題を抱えています。これを解決するために地域活性化、あるいは町おこしや村おこしという取り組みが行われてきました。地域活性化ではその地域の特色というメリットを生かしつつ、地方であることによる交通や流通、資金調達の課題をクリアしていく必要があります。

そんな地域活性に対してITによる様々な取り組みがなされています。ITインフラ整備やタブレットによる情報共有、クラウドファンディングという新たなビジネスモデルなどの、「地域活性×IT」による新たな取り組みを、その前線で活躍中の5名の登壇者が講演しました。

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四国地方での魅力的な活動を紹介

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基調講演を行った板倉宏昭教授は、香川大学大学院で教鞭を振るう地域マネジメントのスペシャリストです。香川大学は日本で初の「地域」を冠したマネジメント研究科を持つ大学であり、板倉氏はIBMや数々の大学での地方・マネジメントの研究を行ってきました。

板倉氏の講演では、地域マネジメントとITの例として徳島県神山町の取り組みを紹介しました。神山村は出入り自由で開放的なその土地柄を持っており、それを活かした地域活性化事業として世界からアーティストや第一線で働く人を誘致しています。そしてこの活動を支えるためITインフラが整えられ、利便性が確保されています。2011年、徳島県内全域における光回線網の完備を契機に、神山町ではベンチャー企業が設立され、サテライトオフィスも増えています。また、自然とアート、様々な取り組みよる開放的で活発な雰囲気のあるまちづくりがされてきました。

板倉氏は「地域の活性化には人口そのものより、その質が重要」と主張します。神木町では全体の人口は減ってはいるものの、社会動態は増加に転じました。これは地域が経済力と活力が向上していることを示しており、経済的な基盤を作ることで自然動態の増加を目指しています。その目安となる人口の質を向上させることが地域経済を発展させる第一歩となると氏は言います。

クラウドファンディングの特性とそれを生かした地域活性

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Global Labo, Inc.(NY)の代表を務める板越ジョージ氏は、クラウドファンディングやコンサルタント、大学講師に評論家と多岐にわたり活躍をしている、日本におけるクラウドファンディング研究の第一人者です。板越氏による講演では、クラウドファンディングの特性特性についてと日本における地域活性への利用例を解説しました。

そもそも、日本と欧米ではクラウドファンディングに対する考え方が違うと板倉氏は指摘します。日本ではクラウドファンディングというと、投資家を利用した資金調達、集金、募金のイメージが強いです。一方で欧米では、資金提供者への予約販売をするような、もっと手軽なイメージがあると氏は語ります。というのも、クラウドファンディングは資金調達の面以外にも、さまざまな利点が起業にとってあるためです。集まる資金や注目度によるテストマーケティング、対外的に広めることによるPR、広く目に留まることによる新規販売ルートの開拓が挙げられます。また、クラウドファンディングの形態によっては予約販売としての性質もあり、企業は製品ができる前にその製品のファンを獲得できるチャンスになります。

こうしたクラウドファンディングの性質は、地域活性の大きな力になります。板越氏は例として九州のジャーケーキや岡山県のオリーブ農園を挙げました。これらの活動では、クラウドファンディングが広報と資金調達という二つ役割を果たし、これが地域に新たにできた特産品を広く知らせることに繋がっています。

ユニークな取り組みにより古き良き日本に活力を

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株式会社kedamaの代表を務める武田昌大氏は、ゲーム会社から現在の地域活性化事業へと移った経歴を持っています。そんな武田氏の講演では、地域や日本文化を守る取り組みについて、持ち前の明るさとコミカルな表現で紹介し会場を盛り上げました。

武田氏はこれまで、地元である秋田で農業活性事業を進めてきました。武田氏は地域経済の収入は大きく分けて観光か、販売に分けられると分析していました。そこで秋田の特色である米自給率の高さを生かすため、後者の販売を行う事業、「トラ男」(トラクターに乗る男前農家集団)を立ち上げます。トラ男ではこれまで農協を通じて販売していた米の流通に加えて、ダイレクトに小売店、消費者に届ける取り組みをしています。これにより米を地方のブランドではなく、個人のブランドとして販売でき、より親近感を持てる米を消費者に提供しています。

武田氏はこれらの取り組みに加え2015年より、日本各地の古民家を保全する新たなプロジェクトを立ち上げました。茅葺き屋根である古民家は、その維持費の高さと管理する人不足により徐々に姿を消してきています。そんな日本の現状を愁いた武田氏は、クラウドファンディングに目を付け、シェアビレッジという事業を始めます。シェアビレッジでは年貢と呼ばれる年会費を払うことで、利用者は村民として登録されます。これにより年貢は維持やイベント開催の費用となるだけでなく、村民にとって古民家への宿泊や様々なイベントを通して地域に直接携わるという経験が得られる仕組みとなっています。この事業は開始1年足らずで村民は1000人を超え、実際に秋田へ転入、中には起業する人も出ると大きな反響を呼んでいます。

こうした地域活性の取り組みに対して、「地域経済の発展には実人口ではなくまずは関係人口を増やすことが重要」だと武田氏は語ります。いきなり人を呼び込むのではなく、まずは地域との関わりを持たせることで転入する機会を与えるという氏の考えが二つの事業を通して伺えます。そして、これにはクラウドファンディングの性質が非常にマッチしています。クラウドファンディングはこれまでの観光、販売とは違った新しい地域経済の収入であると氏は言います。そして同時に地域を広報し、関わりを持つきっかけを与え、サービスやイベント関係人口を増やす手立てにもなっています。

武田氏の目標は秋田だけに留まらず、今後はさらに多くの古民家をシェアビレッジに取り入れ、ゆくゆくは日本だけでなく世界の人々に村民になってもらうという夢を語りました。

ITによる被災地の復興・地域創生

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佐藤一夫氏はNTTドコモで東北復興新生支援室のゼネラルマネージャーとして、東北の復興と地域の創生を目指す取り組み、Rainbowプロジェクトを紹介しました。

NTTドコモでは3つの軸により長期的な復興と地域創生を目指しています。最初にコミュニティの支援、次に産業復興、最後に防災のまちづくりです。これらの取り組みに対して一貫していることは、NTTドコモは主導権を握って活動するのではなく、地域住民の補助に徹している点です。

まずコミュニティの支援として、デバイスを使ったサポートを行っています。被災地住民にタブレットを貸出し情報伝達の手助けをすることでコミュニティの形成とその活性化を図る狙いです。また、タブレットから得た情報は住民だけでなくNTTドコモでも解析、サービスに利用できるという仕組みです。

そして産業復興では、住民が考えた事業を成功させる手伝いをしています。

例えば1粒ずつ売るという新しい苺の販売や、食べ物を付録品として扱う、会費を払うと毎月届くという新しいモデルなど、様々な取り組みをNTTドコモがコンサルタントし、広報や資金調達の援助を行っています。

防災も含め、これらの活動における資金調達や広報、流通経路の開拓に一役買っているのがクラウドファンディングです。特に寄付型クラウドファンディングでは実際に寄付したい復興事業に直接寄付することができます。これにより、寄付金が何に使われるのか明確になり、寄付者も親近感を持ってその事業、地域を応援できる仕組みとなっています。

NTTドコモではこの取り組みを通して、被災地の復興と地域経済の発展、そして自立を同時に目指しています

クラウドファンディングによる新しい寄付の形

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佐藤大吾氏はNPOに長年携わり、現在は寄付型クラウドファンディングの会社、ジャパンギビングの代表理事を務めています。寄付というものは病気や動物、教育、被災地への寄付だけでなく、スポーツや芸術、そして地域活性など様々なものが対象となっています。

佐藤大吾氏はNPOが目標とすべきものは何かと問いかけます。一般企業では利益を追求することが目標となりますが、NPOでは対象とする問題を根絶することは困難です。例えばゴミのポイ捨て問題では、いくらゴミの収集量を増やしたところで、捨てされるゴミの量そのものを零にしないと問題が解決したことにはなりません。そのためにNPOはゴミの収集に参加する人を増やすことを目標にしていると氏は語ります。参加人数を増やすことで問題を認知させ、ポイ捨てしない人を増やす必要があるのです。

NPOの活動を支える寄付において、大きな二つの問題があると佐藤大吾氏は指摘します。一つ目は、日本人は「隠匿の美」という価値観を持ってきました。良いことは黙ってやるものであり、黙っていても誰かが評価してくれるという考えの表れでもあります。しかしこれは問題を認知させるというNPOの活動からは大敵です。寄付の目的は資金調達とそれ以上に問題の解決、即ち問題を周知してもらうことです。寄付という良いことをしたのならば広めて貰わないと本当の問題解決には繋がらないということです。二つ目は「めんどくさい」です。寄付はその時の気持ちにより寄付を行うものです。そして気持ちというものは時間を置くと薄れ、移り変わるものです。寄付をしようと思ったときに寄付ができない、寄付するのが面倒くさいという状況は、寄付しないという結果を生み出してしまいます。

2つの問題に対して、寄付型クラウドファンディングは広報力と利便性という面で大きな貢献をしています。寄付型クラウドファンディングはその広報という特性から問題を周知させることに役立ちます。そしてIT技術の発展によりカードとインターネット環境さえあればいつでも寄付可能となっており、面倒さを低減させることができます。また、カード払い普及率が低い日本でも安心して寄付ができるよう、携帯電話料金として寄付できる仕組みも作られています。

これにより、周知し、すぐ寄付できるようにすることで様々な社会問題が解決できる社会を佐藤大吾氏は目指しています

パネルディスカッション

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パネルディスカッションでは、モデレーターとして亀井省吾氏(=産業技術大学院大学 特任准教授)を迎え、講演をした板倉氏、板越氏、武田氏、佐藤一夫氏、佐藤大吾氏の合計6名が登壇しました。

講演された取り組みについて会場から様々な質問が投げかけられ、活発な議論がなされました。ここでは特に印象に残った議論をピックアップして紹介します。

板倉氏は、「神山町の取り組みはどの市町村でもできるのか」という質問に対して、可能であるという回答をしました。というのも、「日本ほどすべてが東京に集中しているところはない」と氏は指摘します。人の数だけ、会社の数だけ自由な生き方、働き方は様々なものがあるので、それぞれの地域がその生き方、働き方の価値を提供できることを目指すべきということです。特に、今はインターネットもあり、働く場所の問題はかなり低減しているということも後押ししています。

板越氏は、「クラウドファンディングのスタートに必要なものは何か」という質問に対して、クラウドファンディングに向く人、資質のある人を提示しました。単にクラウドファンディングといっても、簡単にお金が集まるものではないと氏は言います。いかに事業を提示するか、どう広報するかなどに大きく影響されるためです。そのため、SNSを上手く利用し、情報を拡散できる人はクラウドファンディングの資質があると氏は語ります。

武田氏は、「シェアビレッジによる効果はどれぐらいか」という質問に対して、大きな反響があったと答えています。まずシェアビレッジを利用する人は田舎出身の人だけでなく、都会の人や地域に携わりたい人も多くいます。こうした人たちに田舎と関わる機会を与えることで、発足から1年足らずでファミリーを含めて3組がシェアビレッジに移民しているという成果があります。このスピードは行政の政策と比べても例をみないほど速いと氏は言います。地域にいるとネガティブな問題をよく聞くが、それを活性化させるためには、それが面白い、かっこいいと思わせることだと氏は主張します。

佐藤一夫氏は、「コミュニティのリーダーはどんな人か」という質問に対して、調整がうまい人が向いていると答えました。発展している地域のリーダーになる人は、ある程度強いリーダーシップでコミュニティを引っ張りつつ、若い人の意見を取り入れたり、反対意見をなだめる、つまり調整がうまい人が多いと氏は言います。そして、こうした地域はその地域にある良いものを生かしています。地域にはすでに良いものがあるので、それをいかに再発見し、拡散するかがキーポイントです。ローカルにいると築かないことをSNSや外部の人との連携で広められるか、そこにITを活用できると氏は語ります。

佐藤大吾氏は、「日米欧の一人あたりの寄付額の差は」という質問に対して、公式のデータはないが、アメリカ、イギリス、日本という順序になっていると答えています。これは寄付総額の試算、アメリカ34兆円、イギリス3兆円、日本7億円からも見て取れます。アメリカは大型寄付者がいるという文化ができているため除外するとしても、イギリスと比較しても大きく差がついていることが分かります。

しかし、ジャストギビング内のデータでは、どの国でも一人1回当たりの平均寄付額は3000円、1人に対して寄付してくれる人も平均10人と国による差異はほとんどないと氏は言います。にもかかわらず日本の寄付額が負けている理由は、そもそも寄付の募集が少ないということに尽きると氏は指摘します。例えばマラソンの寄付を例にとると、ロンドンマラソンでは参加者3万5千人中寄付の募集者は3万人。同規模である東京マラソンでは参加者3万人中寄付の募集者4千人となっています。

寄付も一つの参加の仕方であると佐藤大吾氏は語ります。スポーツの大会当日、晴れの舞台だけ盛り上がるのではなく、苦労して成長していく過程にも関り応援する、そんなプチパトロンとしての参加を、寄付を通じてできないかと氏は言います。

社会人の学びの場所としての大学

講演に合わせて、産業技術大学院大学の紹介が同大学産業技術研究科、研究科長の川田誠一氏からありました。

AIIT起業塾と同じように活発な議論とお互いの切磋琢磨ができる場として、産業技術大学院大学では社会人の学生を広く募集しています。同大学では第一線で働いてきたプロフェッショナルたちが教授をしており、また学生もその仕事の第一線で働いている人が多くいます。その道のプロフェッショナルから授業を通して専門知識を体系的に学び、そしてPBL(プロジェクトベースラーニング)を通して知識を実践として身に着けることができます。こうして得られた知識や技術、能力はコンピテンシーとしてカテゴライズされ、その道の専門家である証明になります。

そして社会人向けの大学院大学として企業に勤めながら働ける多くの制度を完備しています。例えば授業の半分をインターネットを介して動画で受けるブレンディッドラーニングや、入学せずに特定の授業のみを受講できる単位バンク制度などが挙げられます。それ以外にも場所の問題を解決する遠隔授業や、自分のペースに合わせた学習ができる長期履修制度など、様々な取り組みがなされています。

自分のキャリアアップを目指す人、職場へフィードバックし仕事の質を上げたい人など、興味がある人は一度説明会に参加してみてはいかがでしょうか。

AIIT起業塾について

産業技術大学院大学が主催する「AIIT起業塾」は、広く一般の方々が参加できるオープンな勉強会です。IT・デザイン・マネジメントなどを活用し、様々な産業分野で新しい事業構築や問題解決をしている先駆者達が登壇し、講演します。また、自由なディスカッションする機会も設けられています。

Twitterの ハッシュタグ「#aiit_startup」では新しい情報だけでなく随時質問や要望を受け付けています。今後も引き続き開催予定ですので、ぜひご参加ください。

また、この「AIIT起業塾」は、文部科学省の「高度人材養成のための社会人学び直し大学院プログラム」に採択された産業技術大学院大学「次世代成長産業分野での事業開発・事業改革のための高度人材養成プログラム」の一環として開催されました。

執筆:柴田淳司=産業技術大学院大学 助教

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(本記事は産業技術大学院大学提供のタイアップ記事です)

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