医療でITを活用するための課題と方策を、情報伝達の効率化や3Dプリンタの活用に見る ― AIIT起業塾#3 ―[PR]

2016年4月13日

医療においてもITによる革新が起こり始めています。こうした事業・企業とITとの融合、革新を議論する場である「AIIT起業塾」は、2015年11月1日、TKPガーデンシティ渋谷にて第3回目を迎えました。

医療現場では、病院内の意思疎通や患者とのコミュニケーションなどの様々な課題があります。また一方で、IT技術の発達により新しい治療、サービスが期待できる領域でもあります。第3回目は医療×ITをテーマに、医療の課題に対してITによるアプローチ、革新技術により新しい医療のあり方を、4名の登壇者が提示しました。

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脳卒中治療とITとの融合

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小倉記念病院(福岡県北九州市)、脳卒中センターでセンター長を務める松本省二氏は、脳卒中治療へのITによる改善について語りました。

松本氏が勤務している小倉記念病院は、心臓病に強く、また近年、脳卒中の治療に力を入れています。「脳卒中の治療はスピードが命」と松本氏は語ります。日本における脳卒中患者の約3分の4は脳梗塞によるものであり、この脳梗塞に有効とされるt-PA投薬治療は、発症後4.5時間までしか投与することができず、早ければ早いほど効果を発揮します。

しかし、「多くの病院は脳卒中患者の受け入れ体制が不十分である」と松本氏は指摘しています。救急病院は、脳卒中症状の検査をするため、患者が到着してからt-PA投与までにCT、MRIなどの検査、人員の確保、各種書類の準備、これら多くのことを行わなければなりません。また、これらを早急に行う弊害として、多くのチェック項目とそれによる連絡の行き違いが挙げられます。

そこで松本氏は産業技術大学院大学の小山裕司教授と共同で脳梗塞急性期治療支援システム、Task Calc. Stroke(タスカル)を開発しました。タスカルは医師・看護師がタブレット等から操作できる、情報伝達を補助するアプリケーションであり、通信連絡、検査項目チェック、それぞれの工程にどれだけ時間がかかったかを計測することが行えるようになっています。

これまでの通話による一対一対応をやめ、情報をネットワーク状に投げることで、誰もが同時にオリジナルの情報を見られることで連絡の行き違いを防ぎます。また、患者の情報や検査の情報、検査・治療のどの段階に入るかなどをわかりやすく色分けし提示することでケアレスミスを防いでいます。このシステムを導入することにより、これまで受け入れから治療まで82分かかっていたところを35分まで短縮することができました。

今後の発展について「治療のタスクは、緊急医療だけでは終わらない。発症から治療へ、治療からリハビリへと、タスクはずっと続く。」と松本氏は言います。緊急医療にとどまらず、患者の治療タスクすべてを管理し、医療現場を補助できるシステムとなることが松本氏の目標です。

医療と3Dプリンタの融合

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メドコネクト株式会社、代表取締役の花田徳康氏は、3Dプリンタという新しい技術により医療をよりよくすることを目指しています。

3Dプリンタでは、人体の模型や手術器具をプリントするだけでなく、バイオプリンティングにより人工骨を作成し人体に埋め込むことも可能です。こうした3Dプリンタの最も優れた武器の一つは「患者に合わせカスタマイズされたモノが作れること」だと花田氏は語ります。例えば義足ならば患者の足の形に合ったものを作成できるし、人体模型であれば患者一人一人の異なる病変を立体的に捉えることができます。

非常に優れた技術でありながら、3Dプリンタの導入にはコスト・速度・知識に課題が残ると花田氏は言います。まず、コストについて、医療用に使われるような高精度の3Dプリンタは数千万、場合によっては1億を超える導入費がかかります。それに加え、医療に使われる素材は一部の素材を除き高額です。次に、3Dプリンタの出力には握り拳ほどの大きさで数時間はかかります。さらにプリント後の研磨などを加味すると、診察後すぐに出てくるというのは難しい状態です。最後に、プリンタを捜査する人には医学的知識と工学的知識の両方が必要となります。医学的知識がなければ患者にあったモノを作れず、工学的知識がなければ3Dプリンタの操作・設定ができないということです。

こうした課題もあり、現在は病院からの外注により低コストの血管や骨の模型を作成、販売がメインターゲットとなっています。「夢は医療現場に3Dプリンタを設置し、紙に印刷するように模型や装具をプリントしたい」と花田氏は語ります。このために、3Dプリンタそのものの技術向上だけでなく、医療制度そのものが変わっていく必要があると同氏は言います。

最新の医療デバイスとサービス

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株式会社医薬情報ネット、代表取締役の金子剛章氏は、世界でのIT技術による医療への新しいサービスと、遠隔治療サービス、Dr. Photoについて解説しました。

金子氏はこれまでネットワークビジネス系の会社に勤めており、インターネットとビジネスというバックグラウンドから、医療に対してサービスの提供を行っています。 世界では、ITによる医療が広まってきています。これは、IT技術により、どこにいても、何をしていても個人の整理情報の取得が容易になりつつあるためです。特に、クラウドを利用した電子カルテは欧米では一般化しつつあります。

そんなITと医療に関して、金子氏は「現在、大きく二つのトレンドがある」と言います。一つは「ウェアラブルデバイスの細分化」による情報収集です。例えば、リング状デバイスによって睡眠時の情報を常に取得する事例や、ビジネスマン向けのベルト装着型デバイスによりストレス計測を行う事例が挙げられます。もう一つのトレンドは、「医療用デバイスと遠隔治療」です。アメリカでは、医療用デバイスにより体温や口内写真を医師に送信することで、遠隔で診察を受けることができるサービス事例があります。

このトレンドに対して、同社では遠隔診療サービス、Dr. Photoを提案しています。Dr. Photoでは、片手で通える皮膚科をキャッチフレーズに、皮膚の写真を2枚と簡単な説明をつけて送信すれば皮膚科医から24時間以内に回答が来るというサービスを行っています。これは、今まで病院の受診が困難であった、時間に余裕がない人、病院に行きたくない人、旅行先の人、などに心強いサービスになります。

こうしたITと遠隔医療の市場に対して、「今後も大きくなる見通しだが、まだまだ一般に普及するには課題がある」と金子氏は語ります。その中でも大きな問題は法律との不整合です。これまで行われてこなかった遠隔医療というものに対して、法的に問題はないか、法の解釈はどうなっているか、など弁護士と相談しつつすり合わせをしています。

インフォームドコンセントにおける医者と患者のギャップを埋める

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株式会社Dr. IC代表取締役社長、黒坂望氏は、医者が抱えるインフォームドコンセントの問題へ、IT技術を使った解決策を提案しています。

黒坂氏は整形外科医をしつつ同社を立ち上げており、医者だからこそわかるインフォームドコンセントの抱える問題は「医師と患者とのギャップにある」と語ります。医師と患者の間には、立場の差、知識量の差など、様々なギャップがあり、こうしたギャップが医師・患者、両者の不満を起こしています。例えば、医者にとっては時間を取ることが難しいのに理解されないことに対して、患者にとっては難解で理解できずとも治療を受けざるをえないことに対してです。

本来は「医師、患者ともに責任を取るべきである」と黒坂氏は言います。医師は良質な医療を患者に提供する。患者は納得した治療方法を選択する。こうしてお互いに義務を果たすことでギャップを埋めることができるはずだと氏は語ります。

このギャップを埋めるため、黒坂氏は逆転した視点から考えました。それは、インフォームドコンセントの不満をなくすのではなく、満足度を上げられないか、という考えです。患者は医師に対する満足度で病院を選ぶ傾向があると黒坂氏はデータより示し、インフォームドコンセントによって満足度を上昇させることで、患者を呼びこめないかと考えたのです。これは、不満の原因を満足の要因にする、守りから攻めへの思考の転換でした。 そこで、黒坂氏はデバイスを使ったインフォームドコンセント、Dr. ICを開発しました。Dr. ICでは、手術の説明前に、患者専用のURLが発行されるます。患者はデバイスからそのURLへアクセスし、手術内容の解説動画と理解度チェック、コメントができるようになっています。その後、医師と直接対面で解説を受けることで、医師にとっては解説の理解度を調べ時間短縮に、患者にとっては事前知識を得られるというメリットがあります。

Dr. ICはすでに試験導入されており、その結果では患者の満足度、理解度がともに上昇していることが確認されました。今はその他の試験や客観評価を行っており、さらなる改善と導入を目指しています。

日本医療の課題と今後を語るパネルディスカッション

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パネルティスカッションでは、4名の登壇者がパネラーとなり、日本医療への疑問や課題、展望など、様々な話題があがりました。特に、導入に対する難しさについては、どの議題でも中心となりました。

松本氏は、日本の医療機関における大きな問題として、病院の情報開示を上げました。日本の病院では、どの症例に、どの程度強いのかという情報を開示しておらず、義務化もされていません。アメリカでは保険制度と絡めて、情報開示をしないと保険が適用されないという仕組みにより情報開示を促しています。松本氏はこの問題に対しても、タスカルのように情報の共有、治療時間の計測が一般化することで改善させることはできないかと展望を語りました。

花田氏は、新しい技術の導入により既存の職業の脅威にならないかという質問に対し、「技術に対してポジティブに考えて欲しい」と答えました。現状では、プリントできる素材がない、コストの面で負ける、などの理由により現状で脅威にはなりませんが、今後の発展次第ではそうなる可能性はあります。しかし、「前向きに捉えるのが本来あるべきでは」と同氏は指摘します。技工士が3Dプリンタを使うことで、これまでより良いものを、スムーズに提供することができるようになるし、そうした世界を目指していると同氏は語りました。

金子氏は、新しい医療サービスを始める障害として法律を上げました。特に、これまで事例がない医療サービスについてはリスクの洗い出しが大変です。遠隔医療が日本より進んでいるアメリカですら、グレーな状況が続いていると同氏は語ります。アメリカでも、医療行為ではなくアドバイスを行うサービスが多く、処方箋を出さず、アドバイスにとどまるようなサービスが多いそうです。そのため金子氏は、弁護士と法律の解釈を進め、日本での前例となれるよう尽力しています。

黒坂氏は、医療費を削減するような仕組みは現状では存在していないと言います。これまで、電子カルテのような事務作業を簡易化するようなものはありました。しかし、最も時間を要する人と人とのコンタクトの効率が悪かったと指摘されました。同氏が提案するDr. ICや松本氏のタスカルはそう言った情報の共有を手助けする仕組みであり、作業効率を上げることで間接的に医療費の削減に貢献したいと語りました。

AIIT起業塾について

産業技術大学院大学が主催する「AIIT起業塾」は、広く一般の方々が参加できるオープンな勉強会です。IT・デザイン・マネジメントなどを活用し、様々な産業分野で新しい事業構築や問題解決をしている先駆者達が登壇し、講演します。また、自由なディスカッションする機会も設けられています。

Twitterの ハッシュタグ「#aiit_startup」では新しい情報だけでなく随時質問や要望を受け付けています。今後も引き続き開催予定ですので、ぜひご参加ください。

また、この「AIIT起業塾」は、文部科学省の「高度人材養成のための社会人学び直し大学院プログラム」に採択された産業技術大学院大学「次世代成長産業分野での事業開発・事業改革のための高度人材養成プログラム」の一環として開催されました。

執筆:柴田 淳司=産業技術大学院大学 情報アーキテクチャ専攻 助教

(本記事は産業技術大学院大学提供のタイアップ記事です)

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