OpenFlowブームは本物か? ユーザーとベンダーが語る(後編)。ITproEXPO 2012

2012年10月17日

ユーザー企業とベンダが壇上に上がり、いまネットワーク分野で最大の話題となっているSoftware-Defined NetworkとOpenFlowは誰にとって役に立つのか、どのような課題があるのかについての議論が、先週都内で開催されたイベント「ITpro EXPO 2012」で交わされました。

この記事では議論のダイジェストを紹介します。

(本記事は「OpenFlowブームは本物か? ユーザーとベンダーが語る(前編)。ITpro EXPO 2012」の続きです)

fig 左から、モデレータの日経BP 日経NETWORK 副編集長 兼 日経コミュニケーション 副編集長 加藤雅浩氏、カブドットコム証券 社長付 IT戦略担当 谷口有近氏、さくらインターネット研究所 上級研究員 大久保修一氏、NTTデータ ビジネスソリューション事業本部 ネットワークソリューションBU 部長 馬場達也氏、ブロケード コミュニケーションズ システムズ Cloud Technology Officer 小宮崇博氏

SDN/OpenFlowで機器コストは下がらない。誰にとってのメリットか

大久保氏 SDN/OpenFlowを導入したら機器コストが下がるか? 実際試算したことがありますが、残念ながら下がりませんでした。物理ネットワークをそれなりにしなければならないし、コントローラ用にも組まなければならないし。だから馬場さんがおっしゃられたように、機器コスト低下は疑問符かなと。

しかしこれまでネットワークのコストやトポロジーの制約によって思うようなサービスを提供できなかったボトルネックを、SDN/OpenFlowで解決することで、新サービスの提供や不便だったことを解消することで売り上げ向上が図れればなと思います。

小宮氏 SDN/OpenFlowは誰にとってのメリットなのか、ユーザー企業なのかデータセンター事業者か。後者ならメリットは明確に言えます。自動化とシンプル化で主に人間系のコストが下がり、操作ミスなどがなくなる。

SDN/OpenFlowというとつねにコストダウンなどの話題にはいくのですが、もっと(SDN/OpenFlowを使って)お金が儲かるアプローチはどうかというと、そこの正解がまだない。そういうところの答えをこの1~2年で出そうと私自身も考えています。

加藤氏 SDN/OpenFlowでのお話で、いまはネットワーク部門のメリットとして運用が楽になるという話がありました。谷口さんはどうですか。

用途はこれから分かってくるのでは

谷口氏 実際にOpenFlowが動いている現場の人と話をしたが、VLANの設定がOpenFlowになっただけでも嬉しいと思う。ソフトウェアで物事を決めていけることがいろんな価値を生むことは、サーバ仮想化でもう経験しているので、いまはまだネットワーク仮想化が生む価値をそれほど思いつかないけれど、プログラムからパケットを制御できる、その用途はこれから分かってくるのではないでしょうか。

どうお金をいただくのか、その柔軟性を高めるために、それを実現できるようなシステムを作らなければならない。そういうところでSDN/OpenFlowの可能性はあると思います。

大久保氏 誰にとってのメリットなのかといえば、やはり最終的にはお客様へのメリットがゴールになると思っていて、その前提としてわれわれはコスト削減や新機能が実装しやすいところやQoSの実装などはSDN/OpenFlowの用途として重要だと思います。

オンプレミスのシステムをデータセンターに預けるときには、その接続をどうするかが課題になりますが、SDN/OpenFlowを使うと物理的な距離を隠蔽して、隣にあるような接続もできるようになります。そういった用途への期待もあります。

ビジネスの優先度を作っていける

小宮氏 QoSという話題が出ましたが、それをネットワークにおける優先度ではなく、ビジネスアプリケーションの優先度としてソフトウェアで制御することが本質的に重要だと思います。

ビジネスアプリケーションの処理が全部マシンの中で閉じてしまうと、ネットワークから見てそのQoSってなんですか、ということになります。しかしネットワークにとどまらないのがSDNなので、それによってこれが便利で儲かる、ということを目指していきたいと思います。

馬場氏 この先にあるのは、業務アプリケーションから基盤に対して、リソースを指定するとかアクセス制御したいとか指示するという、アプリケーション開発者のためのSDNかなと。

このときAPIってどうなるのか、Javaでソケット関数にパラメータが書けるとか、そのためのAPIの標準化とか、これからはそこをやっていかなければいけないと思います。

加藤氏 そのためには組織を変えたり教育することが必要だと思うがどうでしょうか。

谷口氏 データサイエンティストにならなくてはとか、お客様と話ができる技術者にならなければとか、経営を理解すべきとか、技術者はやることがどんどん増えている。でも誰もが全部できるようになるべきかというとそうじゃなくて、得意の分野に特化した技術者がいて、それを束ねるのが重要だと思います。

だからこそ組織の自由度が大切で、インフラの自由度が高まっているのに組織の自由度がまだ足りない。SDN/OpenFlowでインフラの自由度が手に入るということは、組織の考え方の自由も高まらなければならない、ということが大事になってきていると思います。

大久保 私はもともとネットワーク技術者ですが、基盤の柔軟性が増しただけプログラミング言語やサーバなど、基盤全体の技術を知らないといけない。谷口さんの言う隣接技術の重要性は高まっていくと思います。

多くの人にSDN/OpenFlowを知ってもらおう

加藤氏 ではみなさんからまとめのコメントをいただきたいと思います。

谷口氏 ユーザー企業にSDN/OpenFlowは必要か? 必要です。仮想化やクラウドと同じ流れで、ユーザー企業もこれを知らなければならないと思います。

大久保氏 ユーザー企業にもSDN/OpenFlowを知ってもらって活用してもらえればと思います。でもいますぐに飛びつく必要はない。この先の時代に備えていまから準備しておく必要はあるかなと。

馬場氏 みなさん意外と業務アプリとの連係が必要だという話をされていて、私もあらためてそう思いました。

小宮氏 仮想サーバで実現したコスト削減を、仮想データセンター全体で実現し、業務優先度にも適用しましょう。それをネットワークの側面で実装するのがSDNだと思います。

加藤氏 OpenFlow的な発想、つまりプログラムで自由にいろんな機能を制御できるという考え方は、過去の技術とは一線を画すものだと思います。多くの人にSDN/OpenFlowの技術を知ってもらうい、その上に自分の発想を組み合わせる、そうしたことが行われると日本はもっとよくなるのではないでしょうか。

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Junichi Niino(jniino)
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