重要なテクノロジーは10名以下のチームで作られた ~ Innovation Sprint 2011(後編)

2011年1月18日

1月14日にコミュニティが主催し都内で行われたイベント「Innovation Sprint 2011」は、アジャイル開発手法の1つとしてもっともよく使われている「スクラム」の生みの親と言える2人、野中郁次郎氏とジェフ・サザーランド氏がそれぞれ基調講演を行いました。しかもサザーランド氏と野中氏が会うのは今回が初めてということで、アジャイル開発の歴史に残るイベントになりました。

野中氏の基調講演に続き、サザーランド氏の基調講演の内容を紹介しましょう。

(本記事は「スクラムの生みの親が語る、スクラムとはなにか? たえず不安定で、自己組織化し、全員が多能工である ~ Innovation Sprint 2011(前編)」の続きです)

なぜソフトウェアのプロジェクトは失敗するのだろう?

Chairman,the Scrum Training Institute ジェフ・サザーランド氏。

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なぜソフトウェアのプロジェクトというのはこれほど失敗するのだろう。調査によると、1994年のプロジェクトの成功率は16%、2009年でも32%。私がこの業界に入って気付いたのは、ソフトウェアのプロジェクトにまるでミサイルの打ち上げのように大きなお金と工数をつぎ込んで、そして爆発してしまう、ということ。

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こうしたことがあちこちで起きている。

ほかの業界、例えば化学業界の人に、化学工場が爆発しないようにどうプロジェクトを進めているかを聞いたところ、プロジェクトには2種類あるという。将来が予測できるプロジェクトのプロセスと、予測できないプロジェクトのプロセスだ。

ソフトウェアの開発では、開発中に要件が変わるものである(つまり将来が予測できない)。しかし、なぜか要件が変わらない前提で作り始める。

これが失敗の原因であり、開発プロセスの大きな変化を必要としている。そこで、日本の製造業にデミング博士の論文が与えた影響や、シリコンバレーの起業家たちのチーム構成、ゼロックスの研究所やアラン・ケイ氏の研究、野中-竹内論文などを研究した。

重要なテクノロジーは10名以下のチームで作られた

スクラムはいかに作られたのか。

例えば、いま誰もが使っている重要なテクノロジー。PCやマウス、イーサネットやウィンドウインターフェイスなどは、どれも10名以下のチームで開発されている。小さなチームがカギだ。

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また、アラン・ケイ氏の研究によると、大きな組織では頭のいい人がインクリメンタルに研究をしているが、そういうやり方ではなく特定の課題を集中的に見るのがイノベーションにとっていいやり方だという。

こうしたところにスクラムのヒントを得た。

スクラムはシンプルなフレームワークだ。役割は3つしかなく、チームのメンバーとスクラムマスターとプロダクトオーナーしかいない。特定の肩書きはサイロ化につながり、スローダウンと生産性の低下につながる。

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ただしチームのファシリテートは必要なので、それをスクラムマスターが行うし、どれを作るべきかという優先付けしてリスト化しなければならない、それがプロダクトオーナーの役割。

これは野中さんの論文からヒントをもらった、スクラムマスターは、何をすべきかを指示するのではなく、ファシリテートする。サッカーのキャプテンと同じようにチームの中で一緒にプレイする。

ミーティングもできるだけ短く少なくする。ただし、ベル研究所に学んだのは、毎日顔を見るのも大事であり、デイリーミーティングをやることでコミュニケーションを最大化すること。

そしてスプリントが終わったらデモをする。デモは非常に大事で、MITのメディアラボでは「Demo or Die」(デモか死か)と言われていたそうだ。動いているものをみんなで見るのはどれだけ重要かということ。

もちろんプロジェクトの進捗に関するレポートは必要だ。スプリントのバックログのリストとバーンダウンチャートを使う。ガントチャートは先が読めないときにはほとんど意味がないので使わない。

野中さんの論文によると、NASAはスペースシャトルの開発をウォーターフォール形式で行い、打ち上げまで10年かかった。

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このように1つ1つのプロセスがサイロになり、そのあいだをドキュメントでつなごうとすると失敗する。

それを富士ゼロックスではオーバーラップさせ、ホンダではすべてをいちどにやろうとした。チームのメンバー全員がプロジェクトの内容を理解することが成功につながるということだ。

デベロッパーではなくマネージャをトレーニングし直すべき

私たちは、マネジメントの考え方を世界中で変えなければならない。デベロッパーをトレーニングするのではなく、マネージャをトレーニングし直すべきなのだ。

マネジメントを教育するにはリーン(Lean)開発手法を用いるのがよい。これも日本発の考え方で、しかも世界中で試されている。

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こうしたことで10倍の生産性だって実現できる。Anything Possible!

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スクラムのルーツとなった二人の対談が実現

お二人の講演のあと、平鍋氏を通訳として2人の歴史的な対談が実現しました。

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また、コミュニティ主導でこのイベント「Innovation Sprint 2011」の開催に至る経緯の説明が、よしおかひろたかさんのブログのエントリ「Innovation Sprint 2011 に参加した」と、Togetter「イノベーションスプリントへの道 by @kawaguti」にありますので、あわせてご覧ください。

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