Windows Azureも事実上、日本にデータセンターを置くことになった

2010年7月30日

マイクロソフトは日本にWindows Azureのデータセンターを置く予定がないことを以前から明らかにしています。2009年11月のイベントPDC09では、以下のようにアジアではシンガポールと香港の2つのデータセンターを展開するとしていました。

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ところが、突然のようにWindows Azureのデータセンターが事実上日本国内に設置されるこになりました。その理由とは、マイクロソフトの「Windows Azure Platform appliance」、およびマイクロソフトと富士通のクラウド事業における提携です。

富士通が群馬県館林市にWindows Azureのデータセンターを設置

Windows Azure Platform applianceは、マイクロソフトが提供するWindows Azureのソフトウェアと、ハードウェアベンダが提供する千台規模のサーバやストレージ、ネットワーク機器などを一体化した装置。Windows Azureと同等の機能を持つクラウドをこの装置で提供できます。

ハードウェアのメンテナンスはハードウェアベンダが担当し、ソフトウェアのアップデートなどはマイクロソフトが担当するとされています。

マイクロソフトのサーバ&ツールビジネス担当プレジデントのBob Muglia氏は、Windows Azure Platform applianceをケーブルテレビのセットトップボックスに例え、スイッチを入れれば動作することをベンダが保証するが、利用者が保有し自由に利用できると説明しました。

そして富士通はマイクロソフトとの提携によってこのWindows Azure Platform applianceを群馬県館林市にあるデータセンター導入。富士通ブランドのクラウドサービス「FJ-Azure(仮称)」として2010年末にはサービスを開始すると報道されています(参考:ITpro - MSと富士通がクラウド協業を国内で正式発表、「Azure外販」を世界展開)。

Windows AzureのOEM的な国内でのデータセンターが稼働することになります。

マイクロソフトは富士通以外にもデル、ヒューレット・パッカードをWindows Azure Platform applianceのパートナーとして迎えています。両社が富士通のような自社ブランド展開をするかはいまのところ不明ですが、サードパーティやSIerがWindows Azure Platform applianceを採用して、富士通のように自社ブランドのSaaSとして展開する可能性は十分あります。

クラウドベンダ-、SIer、顧客の関係に変化をもたらす

マイクロソフトは富士通との提携で、データセンター建設という大きな投資と資産を抱えることなく日本にWindows Azureのデータセンターを設置することに成功しました。それだけでなく、Windows Azure Platform applianceの投入で、データセンターへの大きな先行投資をせずとも世界中のいたるところに事実上のWindows Azureデータセンターを設置することをも可能にしました。

データセンター建設のような大きな投資とそれを保有することに伴う資産の増大は、たとえマイクロソフトのように巨大な企業であっても、経営上はできるだけ避けたいはずです。それをハードウェアベンダやSIerとの協業により、彼らの資金によって実現してしまうという戦略は、巨大なデータセンターの建設を前提としていたクラウドベンダの競争に新たな構図を持ち込んだといえます。

そしてもう1つ。これまでクラウドは、SIerが顧客に売っていたハードウェア、設置費用、運用費用といった付加価値を奪っていくものでした。しかし、SIer自身がWindows Azure Platform applianceによってクラウドを保有し、顧客に販売できるようになれば、そこで新たな付加価値を顧客に提供できる可能性がでてきます。

Windows Azure Platform applianceの登場は、SIerは奪われつつあった付加価値を取り戻せるチャンスに見えるかもしれません。

このように、Windows Azure Platform applianceはクラウドベンダー間の競争に新たな構図を持ち込むとともに、クラウドベンダーとSIer、そして顧客のエコシステムにも大きな影響を与える可能性があります。

マイクロソフトの強みを活かしたアプライアンス

マイクロソフトは、Windows Azureにおいてビジネスアプリケーションにフォーカスする戦略を徹底してきました。当初からクラウドの用途としてビジネスアプリケーションのプラットフォームであるPaaSにフォーカスを絞り、キーバリュー型データストアだったデータベース機能をSQL Server互換のリレーショナルデータベースへ切り替える決断を早期に下し、そして今回アプライアンスを提供することでパートナーとの協業に新たな関係をもたらそうとしています。

例えばグーグルがビジネス分野を対象にリレーショナルデータベースを提供すると決断したのは今年に入ってからです(まだサービスインしていません)。クラウドの実績で数年は先行していたはずのグーグルやAmazonクラウドに対し、マイクロソフトはビジネス分野にフォーカスした戦略であっという間に頭角を現したように見えます。マイクロソフトの恐ろしさとは、こうした徹底的な戦略と実行力、そのスピードにあります。

Windows Azure Platform applianceは、そうしたマイクロソフトの強みを集めた、今後のクラウド市場の行方に影響を与える重要な戦略商品となるのではないでしょうか。

Tags: クラウド

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Junichi Niino(jniino)
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