Publickeyの運営、執筆、営業の舞台裏(営業の巻)。2012年版

2012年12月26日

ブログを書くことを主な職業として4年になろうとしています。ブログを書き、広告を売るとは、具体的にどのようなことをすることなのか、興味を持っている方は多いと思いますし、特にPublickeyはAdSenseやアフィリエイトに依存せず、直販で広告を販売している点で、ほかのブログとは異なるユニークな点がいくつもあると思います。

そこでこの記事では、Publickeyを運営するうえで日々行っていること、その舞台裏をご紹介しましょう。営業の巻と執筆の巻の2つに分かれています。まずは営業の巻から。

ブログのテーマを決める

ブログを運営するうえでまず必要なのは、ブログのテーマを決めること。

Publickeyのテーマは、エンタープライズITを軸足に置いて、主にクラウドとHTML5などのWeb標準に焦点を当てた記事を書くことです。クラウドとWeb標準に焦点を当てているのは、この2つがこれからのエンタープライズITにもっとも大きな影響を与えるだろうと考えているためです。

たとえばガジェットやライフハックのようなテーマも扱えばもっとページビュー(PV)を稼ぐことはできると思いますが、テーマを絞り、専門性を明確にすることを優先させています。専門性がはっきりしていることで、営業面でもお客様に理解してもらいやすい、売りやすいメディアになっています。

広告枠と価格設定

Publickeyのビジネス上の最大の特徴は、広告を直販していることでしょう。

AdSenseやアフィリエイトだけで大きな売り上げが成立するのであれば、その方が記事を書くことに集中できていいと思っています。

しかしブログのテーマをエンタープライズITとし、専門性の高い記事を書いていくと決めた時点で、大きなPVを獲得できる可能性は低くなりました。そうなれば、AdSenseやアフィリエイトの低い広告単価で十分な売り上げをあげることが難しいのは明らかです。高い専門性を活かして、単価の高い広告を販売することを選択することは必然でした。

Publickeyをはじめた4年前は、ブログに特化した広告ネットワークが日本でも立ち上がるだろうと期待し、自分で広告営業をすることはあまり想定していませんでした。しかしその予想は外れてしまったため、約2年前から自分で広告営業もすることにしました。

広告を販売する上でまず決めなくてはいけないのは、どんな広告商品を作るのか、ということです。ここで間違えてニーズのない商品を設計したり、高すぎたり安すぎる値段をつけてしまえば、あとからどんな営業テクニックを使おうとリカバリすることはほとんど不可能です。

商品作りで参考になるのは、似た分野の商業サイトがどんな広告枠と単価を設定しているかです。これは公開されている媒体資料を見れば一目瞭然。それを参考にします。IT関係なら、ITmediaやITproなど。

Publickeyの場合は、そもそも僕が@IT(アットマーク・アイティ)の責任者だったのでこの業界での広告商品の設定や価格のロジックについてある程度の知識がありました。エンタープライズIT向けの専門サイトなら、広告のインプレッション単価が1円程度なのは決して高くありませんし、タイアップの単価も記事の品質と誘導数で考えるとPublickeyの価格は割安といえます。

とはいえ、やはりブログでの価格設定は難しいもの。試行錯誤は必要でしょう。僕もかつての同僚に相談したりしました。

媒体資料と営業

商品設計と価格設定ができたら、それを元に媒体資料を作り、公開します。

基本的にこの媒体資料が大事な営業ツールになります。わかりやすく、魅力的なものになるようにがんばりましょう。Publickeyの媒体資料もまだまだ、もっと良くしなければと思っています。

これをもって営業活動をするわけですが、ではPublickeyでどんな営業活動をしているのか。実は営業らしい営業はしていません。

幸いなことに、Publickeyの広告はこれまですべて、お客様や代理店様から「広告を検討しているのだけど」とメールなどでご連絡をいただき、それに対応することで売り上げをあげています(今日も、さきほど問い合わせが1件ありました)。もちろんこの対応の中で値引きなどの価格交渉や、迷っているお客様に対して提案からクロージングへ向かうような対応をしています。こうした営業的対応は、僕が新卒で入ったアスキーという会社でソフトウェアの営業をしていた経験がとても役に立っています。

僕にとって営業のキャリアは、かつてベンチャーを立ち上げたときも、そしてブログで広告を売ることになった現在も、非常に役に立つものとなっています。営業が苦手だという記者やライターは多いと思います。僕もいまでも苦手です。でもどこかで経験しておいたほうがいい、と思います。

さて、実質的な営業活動はしていないと先ほど説明しました。ではなぜPublickeyに問い合わせがくるのか? おもに次のような理由だと考えています。

1つ目は、もちろんブログ自身の魅力です。企業の中で広告の出稿を担当している方はマーケティングには興味があっても技術分野には興味がないかもしれないので、自分ではエンタープライズIT系のブログを読んだりはしないかもしれません。でもその会社のターゲットがエンタープライズITの分野ならば、自社のエンジニアなどに「広告を出すとしたらどんな媒体がいいと思う?」と聞くでしょう。そのとき、そのエンジニアがPublickeyを気に入ってくれて「Publickeyとかいいんじゃない?」と名前がでてくるような魅力的な媒体にすること。読者に愛される媒体になること。何よりもこれが最優先事項です。

2つ目は、ソーシャルメディアで話題になること。マーケティング担当者はソーシャルメディア上で自社名や自社製品名を検索し、その評判をチェックしていることが多いはずです。そのとき、記事のタイトルや内容で自社名や製品名がつぶやかれていたらその媒体に注目するはずです。Publickeyでは実際に何人かのマーケティング担当者に「Publickeyの記事でうちの製品が話題になることが多いんです」といった話をうかがうことがありました。ソーシャルメディア上で製品への影響力が強い媒体と思われること。そのためにソーシャルメディアで活発に活動することは重要さを増していると思います。

Publickeyでは、特にTwitterで読者の反応や質問があれば、できるだけ返事をするようにしています。自分でほぼ全部の記事を書いていますから、どんな記事に対しての反応にでも返事ができますし、問題があればできるだけすぐに対応しています。そうした対応の積み重ねは読者との関係性と同時に、ソーシャルメディア上での前向きな話題作りに役立つと思います。

3つ目は、優先度としては2つ目と同等だと思いますが、検索で上位に来ること。これもマーケティング担当者が自社製品名や分野などで検索したときに、どの媒体の記事がよく登場するかウォッチしているはずです。その分野の媒体の影響力を計る物差しの1つだといえるでしょう。Publickeyでは、例えばSoftware-Defined Networkなど先進的な分野で検索上位に登場することが多いとよく指摘されます。これは先進的な分野で独自の内容を書き続ける、というSEOの王道を進む以外に道はないと思います。また、2つ目に挙げたソーシャルメディアでの扱いが増えることは、最近ではSEO的にもいい効果があるようです。

4つ目は、コミュニティや勉強会、記者発表会などリアルな場所に出席することです。ブログは個人や数人で運営する小さな媒体ですから、組織的な信用力は期待できません。ブログの運営者がビジネスの相手として信用できるのか、信用できる内容を備えた人物なのか、ブログを誠実に運用するだけでなく、リアルな場所にでることで直接的、間接的に信用を積み上げていくことも大事です。と同時に、広告主の候補となる企業のエンジニアやマーケティング担当の方がコミュニティに参加しているケースがITでは増えてきました。コミュニティでのネットワーク作りは、間接的な営業活動に結びついていると思います。

とりあえず自分で思いつく大事な点はこのくらいです。2013年も、ここに挙げた点などを中心に活動していくつもりです。

営業方針とデザイン

広告を直販するという営業方針は、Publickeyのデザインにも影響を与えています。

例えば、多くのブログでは広告に最適化したデザインを採用し、記事の先頭に大きなレクタングルを置くレイアウトなどになっています。しかしPublickeyではこうしたデザインを採用していません。

もちろん、読者にとってそんな邪魔なところに広告を置きたくない、というブロガーとしての自分の考えがそうさせているところはあります。と同時に、読者に愛される媒体になるということを優先させるという前述の営業的判断を考慮すれば、読者から嫌がられるところや、誤クリックされやすいところに広告を置くという判断は適切ではないことになります。

また、直販広告を優先するということは、必然的に直販用の広告枠にはAdSenseを置かないという判断につながります。AdSense経由でPublickeyに安価にバナー広告が出せるのであれば、直販の高い単価でPublickeyのバナーを買うお客様はいなくなってしまいます。売れないときにはAdSenseを出しておけばいい、という考えは合理的ではありますが、高いお金を出してバナーを買っていただくお客様に誠実な態度ではないと考えています。

そんなわけで、少なくとも現在のところ、Publickeyでは直販のバナー枠が売れ残っているときは、その枠にAdSenseのバナーを表示することなく枠を閉じています。Webサイトのデザイン上も、そこにバナーがあってもなくても成立するように作られています(実際、記事公開時点でスーパーバナーは売れていないので閉じています)。

また、直販用の枠より目立つようなAdSenseもアフィリエイトも設定していません。AdSenseやアフィリエイトの置き方をもっと工夫すれば今よりも売り上げが上がると思いますが、直販の広告枠の効果を優先させています。

運用上も、炎上マーケティングなど論外です。AdSenseやアフィリエイトはとにかくPVを稼げれば損はしないようになっていると思いますが、直接お客様とビジネスをする直販モデルでは、不誠実な運営でPVを稼ぐのは自分の首を絞めるようなものでしょう。

直販モデルでは、特にタイアップなどを始めると、お客様の顔色をうかがいつつ記事を書くようになるのではないか? という心配はあると思います。それは一理ありますが、Publickeyが参加しているビジネスは、繰り返しのゲームです。一度きりのゲームなら、相手におもねってでもとにかくたくさんお金を引き出すことが売り上げ最大化の道です。しかし繰り返しのゲームではさまざまな利害関係を持つ多数の相手と繰り返し取引をして、自分の取り分を最大化しなければなりません。極端に強い相手がいない前提でこれを考えれば、どの取引相手にも大きく依存せずにゲームをできるだけ長く続けることが売り上げを最大化する方法のはずです。

などとカッコイイことをいろいろ書きましたが、個人が運営するブログのいいところは、売り上げの最大化や毎年の成長のプレッシャーがない、ということなんですよ、ええ。ベンチャーで公開企業の役員だったときには、毎年の売り上げの最大化と成長を実現するために、読者が嫌がりそうな広告でも売り上げ向上のために設定すべきかどうか、なんてことをずいぶん議論しました。僕は基本的にそういうのはイヤだったのですが、しかし業績をおろそかにするわけにもいかず……。

でもいまは、自分が食べられる売り上げがあればいいのです。自分の価値観に照らして、読者に誠実でないこと、クライアントに誠実でないことはしない。単純にそういうブログの運営をしているだけです。そうした運営ができて嬉しいなあと思います。そしてそれができるだけの売り上げをいただいている広告主の皆様には、正直に言って会社役員だったころよりも感謝の念が強いのです。

こうした思いがあるからこそ、自由な運営が可能な小さなメディアがたくさんできてほしいなあと思うし、それがこのノウハウを公開している理由でもあります。

正直なことを書くと、ちょっと照れますな。さて、予定よりもずいぶん長い記事になってしまいそうです。先を急ぎましょう。

アドサーバの運用

営業がうまくいって広告を出稿いただけたら、それをブログに掲載しなければなりません。ここで出てくるのがアドサーバです。

広告をベタ貼りにして、事後の掲載レポートも出さないのであればアドサーバは不要です。しかし、多くのお客様は、他のサイトで掲載したFlash広告を再利用することがありますし、最近は第三者配信広告タグの依頼もあります。複数のクリエイティブをローテーションしたいという要望もあるでしょう。もちろんお金をいただいて広告を掲載いただく以上、レポートも出すべきでしょう。だとすれば、アドサーバの利用は必須といえます。

Publickeyではグーグルが提供するアドサーバ「DFPスタンダード」を利用しています。DFPスタンダードは月間の広告表示回数が9000万回までは無料ですので、Publickeyでももちろん無料で利用しています。

バナー原稿の入稿、ローテーション管理、差し替えなどはすべてアドサーバで管理しており、インプレッション、クリック数、クリック率をほぼリアルタイムで把握できます。掲載後のレポートもアドサーバからの出力を元に、Excelシートでまとめて提出しています。

アドサーバの設定や使い方は、ある程度インターネット広告の仕組みやボキャブラリを理解していないと難しいかもしれません。僕もアドサーバを自分で設定運用するのは初めてだったので、最初は少し試行錯誤が必要でした。いまではノウハウもたまり、できること、できないことも把握したので、特に大きな問題もなく運用できるようになりました。

自分で広告を売るようになりたいのでDFPスタンダードの使い方を詳しく知りたい、という方は教えることができると思います(ただしちゃんと教えようと思うとそれなりに手間と時間がかかるので、有償でご相談ということで;-)。

オープンな姿勢

ジャーナリズムの伝統的な考えとして、編集と営業は分離すべき、というものがあります。編集内容は営業に左右されない。僕もかつて組織人だったころにはこれを重視していました。でもいまは一人で営業も編集もしていますから、そもそも編集と営業の組織的分離など不可能です。

それでも自分は編集の独立性を重視しており、Publickeyの記事は営業的な影響を受けることはないと読者にも、お客様にも信じてもらいたいと思っています。そのためにはPublickeyを運営する自分がいま何を考え、どういう状況にあり、どういう方向性を持っているのか、といったことをできるだけオープンにする方がいいだろうと思っています。

財務的に窮していればお金に流されるかもしれません。テーマがふらふらしていたら記事内容が信用されないかもしれません。PVが激減していたら、なにかトラブルがあるのかもしれません。

そんなことは起きていませんよと、Publickeyが毎月ページビューの報告をし、毎年売り上げ報告をして、たまにこの記事のようなノウハウの公開したり、ソーシャルメディア上での読者と交流するなど、オープンな姿勢を見せようとしているのは、読者やお客様の信用をできるだけ得るための手段でもあります。組織としての仕組みとして信用されるものを持てないのであれば、代わりに別の方法を提示するべきと考えています。

広い意味で、これも営業活動の一環というわけです。

Publickeyの運営、執筆、営業の舞台裏(執筆の巻)。2012年版に続く。

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IT系の雑誌編集者、オンラインメディア発行人を経て独立。新しいオンラインメディアの可能性を追求しています。
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