オラクルのMySQL戦略を予想する。オンラインサービスのバックエンドとして強化されるMySQL

2011年4月18日

オラクルがサン・マイクロシステムズを買収後、一部のオープンソースプロジェクトとのトラブルが報道されてきました。OpenOffice.orgは主要な開発者が新たにDocument Foundationを設立してLibraOfficeの開発を始め、Hudsonも同じようにJenkinsとしてオラクルから独立しました。Javaに関連してオラクルがグーグルを訴えてもいます。

これらから、MySQLについての今後も不安視されている面がありました。

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しかし次期バージョンとなるMySQL 5.6とMySQL Cluster 7.2の機能強化をみると、MySQLの開発ペースはむしろ以前より上がっており、同製品の将来についての不安を払拭するものになっています。

これまでのオラクルの動きを見れば、同社は単にボランティア精神でオープンソースのプロジェクトを維持するつもりはないであろうことが想像されます。ということは、MySQLへの注力には同社の何らかの意図や戦略があるはずです。

果たしてオラクルはMySQLについてどのような戦略を持っているのでしょうか。予想してみましょう。

エンタープライズ市場に向けたOracle Database

データベースの市場を大きく4つに分けて考えてみます。

  1. エンタープライズ向けOLTP。ここは市場のメインストリーム
  2. エンタープライズ向けBI(Business Inteligence)やDWH(DataWare House)。ここは大きな成長が期待されている
  3. ソーシャルゲームやメッセージングなどオンラインサービスのバックエンド。ここは既存のリレーショナルデータベースの応用分野でもあるが、NoSQLの登場など技術の変化が激しい
  4. デスクトップアプリケーションやモバイルアプリケーションのバックエンド

このうち、市場のメインストリームであるエンタープライズ向けOLTPは、オラクルがOracle Databaseでリードしています。BI分野も同じようにOracle Databaseでカバーしようとしています。

そして同社はサン・マイクロシステムズのハードウェアを手に入れることで実現したハードウェアとソフトウェアの垂直統合によって、この2つの市場をさらに攻めていこうとしています。2009年9月に発表した統合データベースアプライアンスの「Oracle Exadata」はその中心的な存在であり、さらにアプリケーションサーバのアプライアンスとなる「Oracle Exalogic」との組み合わせで、クラウド市場に対抗しようとしています。

簡潔にまとめると、オラクルはエンタープライズ向けOLTPとBI市場に最適化した製品としてOracle Databaseを進化させているのです。

Brian "Krow" Aker's Idle Thoughts - Drizzle goes GA, From "What If", to "What has"

一方で、MySQLはかつてSAPの要請によりエンタープライズ向けデータベースとして開発が進んでいたことを、当時のMySQL開発者でいまはDrizzleの開発者となっているBrian Aker氏がブログで吐露しています

5.0 exists because of the MySQL/SAP alliance. SAP wanted to replace Oracle with MySQL,

しかし現状を見れば分かるように、SAPのバックエンドをOracle DatabaseからMySQLへ置き換えようとした試みは結局うまくいきませんでした。業務アプリケーション市場でSAPと競合するオラクルがMySQLを所有し、SAPもサイベースを買収したことで、この路線へあらためて進む可能性は低いでしょう。

オンラインサービスのバックエンドとしてのMySQL

一方で、オンラインサービスのバックエンドデータベースに目を向けてみましょう。

オンラインサービスのバックエンドで求められるのは、シンプルで高速なこと、シャーディングのような大規模並列処理がやりやすいことなどであり、同時に、NoSQLのような新しい技術が登場している変化の激しい分野でもあります。またオンラインサービスは無料で提供されることが多いため、バックエンドのデータベースもライセンス無料のオープンソースであることは大事な要件であるといえます。

技術の変化が激しく、またコストの面で商用製品の利用が合理的ではないこの分野へOracle Databaseが進出するのはかなり無理があります。MySQLでこの分野を抑えられれば、Oracle Databaseは安心して他の分野に向けた強化ができます。

MySQLはFacebookやTwitter、日本ではMobage(モバゲー)など多くのオンラインサービスのバックエンドで利用されており、この分野では非常に強力な地位を築いています。オンラインサービスのバックエンドとしての機能強化はコミュニティからの要望でもあります。

MySQL 5.6で強化された性能向上とNoSQL機能の追加はこの方向性に合致しますし、オラクルはMySQLでごく自然にこの分野の最重要データベースを手にしているといえます。MySQLは引き続き、この分野を重点分野として強化が継続されるのではないでしょうか。

Microsoft SQL Server対抗製品としてのMySQL

Oracle Databaseは同社の垂直統合戦略の中でハイエンドなデータベースへとターゲットが移行しつつあるように見えます。そこで手薄となるWindowsデスクトップからローエンドなWindows Serverの市場においては、MySQLの備えているオープンソースならではの実質的なコストの低さとハードルの低さをうまく利用できると考えられます。

MySQLでは今回、Windowsの優先度の向上という発表もありました。そこには、Windowsにおける対SQL Server製品としてMySQLを位置づけたいという意図があるとはいえないでしょうか。

もちろん、オープンソースソフトウェアであるMySQLの方向性は、オラクルの意図だけで決まるものではありません。コミュニティからのフィードバックがあります。しかしオラクルはそれを活かしつつも自社の戦略に巧妙に組み込んでいるはず。ここで書いた予想が当たっているかどうかは別にしても、オープンソースとその巨大なスポンサー企業との関係にはよくも悪くもそうした大人の事情が入り込んでいるはずです。

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カテゴリ RDB / NoSQL / ミドルウェア
タグ  MySQL , Oracle , リレーショナルデータベース


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