通信キャリアにおけるクラウドネイティブは導入から成熟へ。今後は「ネットワークAPI」に期待。ドコモやKDDI、ソフトバンク、楽天などが議論。CNTOM 2025[PR]

2026年1月19日

国内の主要な通信事業者や通信機器メーカー、クラウド事業者、オープンソース開発者らのキーパーソンを集め、テレコム市場におけるクラウドネイティブを中心とした最新技術について議論するイベント「Cloud Native Telecom Operator Meetup 2025」(以下、CNTOM 2025)が、2025年12月16日に東京⼤学 山上会館で行われました。

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この記事ではCNTOM 2025で行われた主要なセッションをピックアップして内容をダイジェストで紹介していきましょう。

クラウドネイティブは導入から成熟に重心が移る

基調講演の1つ目は「新しいアーキテクチャとクラウドネイティブ」というタイトルで、株式会社 企(くわだて)のクロサカ タツヤ氏が登壇。クロサカ氏による基調講演は4年連続で4回目です。

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クロサカ氏はまず、テレコム業界においてクラウドネイティブの話題が数年前と比べて減少しているのではないかと問題提起しつつ、その背景にはクラウドネイティブを導入したというような導入関連の盛り上がりが一段落し、運用の成熟化に重心が移ったためではないかと推測。

これはクラウドネイティブが工業化(Industrialization)の段階に入る準備期間であると指摘し、この先には運用自動化の進展やSA(スタンドアローン:コアネットワークの設備から基地局までをすべて5G専用の技術と設備で構成すること)に乗るトラフィックの効率化など、新たな尺度でテレコム業界におけるクラウドネイティブ化の進展を見ていく必要があるだろうとしました。

関連する話題としてクロサカ氏はAIのインパクトの話題に触れ、自著「AIバブルの不都合な真実」を引き合いに出しつつ、現状ではAIデータセンターへの投資が、かつての「原野商法」(土地投資ブームにより北海道の無価値な原野にまで高価な値がついた)のようなバブル的状況にあり、またAIが一見正しそうなのに間違った答えを出してしまうハルシネーションなどの課題もあり、自動運転やフィジカルAIなど高い信頼性が求められる用途にはまだ技術的な進化や学習のための高度で信頼性の高いデータが不可欠だと強調しました。

そしてクラウドネイティブこそ、そうした技術の進化や信頼できるデータとそのエコシステムを確立するための重要な基盤になると結論付けています。

今後は、クラウドネイティブを基盤に通信事業者がそのネットワーク機能を外部に提供する「ネットワークAPI」によるサービスの拡張を通じてキャリアビジネスやユーザーの文化を変えていくことが期待されているとした上で、2026年3月にスペイン バルセロナで開催される世界的な見本市「MWC Barcelna」(Mobile World Congress Barcelona)ではこのネットワークAPIが注目されると同時に、クラウドネイティブの有用性を見極める重要なポイントになると言及。ぜひそのために海外出張の予算を獲得してくださいと会場に呼びかけて、講演を締めくくりました。

ソラコムがAWS上に構築したMVNOサービス基盤のアーキテクチャ

基調講演の2つ目は、株式会社ソラコムの福田守昴(ふくだすばる)氏による「MVNOサービス基盤のクラウドネイティブアーキテクチャとAI Opsの取り組み」です。

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同社はIoTと通信技術を軸にサービスを提供するフルMVNO事業者であり、IoT SIMを提供する「SORACOM Air for Cellular」は2024年7月時点で800万回線以上、213カ国で利用可能な規模に成長しています。

そのモバイルコアネットワーク基盤とサービスはAmazon Web Services(AWS)上にクラウドネイティブなアーキテクチャで構築され、マルチリージョンにスケール可能となっています。

福田氏は、同社のクラウドネイティブアーキテクチャは、ユーザーのデータ通信を扱うPゲートウェイ(Packet Data Network Gateway)がステートレスサービスとステートフルサービスを分離していると説明。

パケット処理を行うUPF(User Plane Function)などの通信アプリケーションはステートレスサービスとして動作することで、障害などでアプリケーションが突然終了した場合でも再起動すれば条件なしにシステムに復旧できる高い可用性を実現しています。

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再起動後も保持すべき情報(ステート)は、AWSのAmazon S3やDynamoDBなどの堅牢性が担保されたサービスを抽象化したAPI経由で利用するステートフルサービスの方に格納されています。

さらに、SORACOMのPゲートウェイ(Packet Data Network Gateway:モバイルネットワークとインターネット間のゲートウェイ)は、Sゲートウェイ(Signaling GateWay:モバイルネットワーク用ゲートウェイ)側(Tier 1 P GW)と、インターネット側(Tier 2 P GW)の2層構成を採用しています。

この構成により、従来のモバイルコアネットワークの制約(特定のインターフェース数によるスケール限界)をTier 1に限定し、Tier 2を自由にスケールさせることが可能となりました。

また、Tier 1とTier 2の間にはN×M通りのパスが存在し、ユーザーセッションはこれらのパスに分散マッピングされます。

これにより、特定のインスタンスが故障しても別のパスを選択することで通信途絶を避ける柔軟な冗長性と復元性を実現しています。

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この仕組みを利用し、特定のSIMセッションを特定のTier 2 P GWを必ず通るパスにマッピングすることで、IPアドレス固定化などが可能な顧客専用のPゲートウェイサービス(バーチャルプライベートゲートウェイ)を実現しています。

講演の最後には、ソラコムが取り組んでいるAI Opsの事例が紹介されました。

その1つは、AIと対話することでAWSコマンドを実行できる「AWS MCP Server」を活用して、開発時のリソース構成確認やデプロイ手順のドラフト作成を行っている点。その際にはセキュリティ確保のため、AIに与えるAWSのIAM権限が最小限に抑えられています。

もう1つはAIを活用したエスカレーションツールです。アラートの概要やSlack上でのやりとりを入力するとAIが障害内容を要約したメッセージを作成し、協力パートナーへのエスカレーションメールを自動作成します。

このツールはSlackボットとして実装されており、アラート情報やエンジニアの会話を基に迅速なエスカレーションをサポートしています。

通信業界はクラウドをどこまで活用しているか?

CNTOM 2025では、主要な通信事業者の技術者によるパネルディスカッションもさまざまなテーマで行われました。

1つ目のパネルディスカッションでは、NTT朝比奈氏をモデレーターに迎え、「どこまで活用できるかハイブリッドクラウド・パブリッククラウド」をテーマに、通信業界におけるクラウド化の現状、理想像、そして実情とのギャップについてF5ネットワークス、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの技術者たちが議論しました。

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パネルディスカッションはまず、主要テレコム各社のパブリッククラウド活用状況の確認から始まりました。NTTドコモ宮本氏は、同社が非通信分野を含め積極的にパブリッククラウドを利用しており、5Gコアをクラウドに載せるPoC(Proof of Concept:概念実証)にも取り組んでいると報告しました。

KDDI大野氏は、業務支援関連のシステムなどではパブリッククラウドを積極活用しているものの、コアネットワーク機能はオンプレミスが中心と回答。

ソフトバンク久保氏、楽天モバイル外山氏も同様に、コアネットワークでのパブリッククラウド導入は限定的で、運用系や監視系での導入に留まっているとしました。

NTTドコモ宮本氏は、パブリッククラウドのメリットとしてマネージドサービスによる運用負荷の軽減と、「必要なときに必要な台数のサーバをぱっと立てられる」といったオンデマンド性を挙げています。また、今後AIの活用を想定した場合、パブリッククラウドとAIの親和性の高さもあるのではないか、とも発言していました。

一方でNTTドコモ宮本氏は、オンプレミスとパブリッククラウドとを組み合わせたハイブリッドクラウド構成において、災害対策やトラフィック急増に対処するには数分単位でのノードの迅速な立ち上げなどが求められるが、現状ではそのためのネットワーク機器ベンダー側の対応が十分でないと指摘。

これに対してF5ネットワークスジャパン丸瀬氏は、コールドスタンバイではなく、常時トラフィックを一部流しておくウォームスタンバイの活用が提案されました。

またKDDI大野氏は、コアネットワーク機能をクラウド化することを想定した場合、ネットワーク機器ベンダーがその機能全体をSaaS(サービス)として一体型で提供することが理想だとしました。

さらに、ソフトバンク久保氏はパブリッククラウドに性能が求められる処理を載せるのは難しいのではないかと発言。楽天モバイル外山氏は、クラウドの特徴であるオンデマンドな処理をメリットとするコアアプリケーションとは何かあるのか? と疑問を呈し、現時点で主要テレコム各社のパブリッククラウド活用には慎重である状況が浮き彫りとなりました。

自分で考え、手を動かせるエンジニアの重要性

2つ目のパネルディスカッション「クラウドネイティブな人材育成どうする」では、国内主要キャリア4社としてNTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイル、そしてメーカーとして古河ネットワークソリューション、アカデミアから東京大学の有識者が議論。

現代の通信サービスは、オープンソースや仮想化、コンテナ技術などが組み合わされた極めて複雑な仕組みになってきたことで、従来のような「ベンダー任せ」では運用が困難になってきたとした上で、現場でソースコードや技術の本質を理解し、手を動かせる技術者の育成が不可欠だとしました。

その育成の現状として、多くの企業が実務の中で育成を行うOJT(オンザジョブトレーニング)を重視していることが語られる一方で、コミュニティ活動やオープンソースへの貢献を業務として推奨し、若手の意欲向上に繋げている事例や、ジョブ型雇用の導入により、特定の分野で専門性を磨き続けることを可能にする人事政策などの例が語られました。

一方、東京大学の関谷教授は、学生がAIやセキュリティなどの「華やかな分野」に流れる現状を指摘。大学や学生に対して通信インフラの構築や運用における技術的な魅力を企業が積極的にアピールすべきだと提言。

これに対し各社は、インターンシップを通じての体験、技術ブログで「泥臭くも面白いインフラ技術」を発信する、社会インフラにおける貢献などを丁寧に説明するといった工夫を紹介。引き続き、自分で考えて手を動かせるエンジニアの層をどう厚くするかが業界共通の課題だとしました。

クラウドネイティブにより開発チームのマインドセットが変化

さらに3つ目のパネルディスカッション「(続)統合基盤って実際どうなの?~コンテナとどう付き合ってますか~」では、昨年のCNTMO 2024での議論の続きとして、KDDI、NTTドコモ、楽天モバイル、ソフトバンクの主要通信キャリアとベンダであるHPEの専門家が、5G時代におけるクラウドネイティブを用いた統合基盤の現状と課題、将来展望について議論を交わし、コンテナ導入によりポータビリティは向上したものの、Kubernetesを始めとしたソフトウェアのライフサイクルと通信設備の長期運用サイクルの不一致、性能試験の複雑化といった「産みの苦しみ」が共有されました。

最後のパネルディスカッション「クラウドネイティブでうまくいっている場所を探して話して共通点を見つける会」では、主要通信キャリアの登壇者がクラウドネイティブの成功例を共有。具体例として、開発チームのマインドセットの変化が最大の成果として挙げられ、テストやデプロイの自動化により開発効率が劇的に向上した実感が示されました。

また、開発と運用が一体となった体制としてのDevOpsの構築が、迅速な意思決定やトラブル対応を可能にしている点も強調されました。

通信キャリアを中心にクラウドネイティブに関する多くの情報交換や議論が行われたCNTOM 2025は、一昨年、昨年と比較して通信キャリアにおけるクラウドネイティブの利用が着実に進化していることが示されたイベントだったと言えるでしょう。

≫Cloud Native Telecom Operator Meetup 2025 (CNTOM 2025)

(この記事はCloud Native Telecom Operator Meetup実行委員会の提供によるタイアップ記事です)

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Junichi Niino(jniino)
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