IT子会社が設立される主な理由はコスト削減。課題はIT戦略立案能力、待ちの姿勢、先進技術の習得など。ガートナーの調査結果

2023年10月24日

ガートナージャパンは、国内のIT子会社の実情に関する調査結果を発表しました

調査は国内の従業員500人以上、売り上げ規模1000億円以上の企業のCIO、CTO、IT担当役員、最高デジタル責任者、デジタルビジネス推進担当役員などを回答対象者として実施されました。有効回答は300社。

回答した企業のうち、「連結対象」「連結対象外」「ITベンダーなどと共同出資」のいずれかに該当するIT子会社を持つ割合は38.0%。

調査結果では、IT子会社設立の主な理由はコスト削減で、親会社から見た喫緊の課題はIT戦略立案能力、受け身の姿勢、スピード感、先進技術の習得などと説明されています。

IT子会社を設立する理由はコスト削減

IT子会社を持つ企業に、設立している主な理由を上位3つまでの選択で尋ねたところ、最も多く選ばれたのは「人件費の抑制」(16.9%)、続いて「システム開発コストの抑制」(13.8%)、「システム運用コストの抑制」(12.3%)と、上位3つは全てコスト削減に関連するものでした。

一方で設立理由として「経営戦略への貢献」「データドリブンなビジネスの実現」などは非常に少数となりました。

ガートナーはこの結果について「回答からは、給与水準を親会社より低く抑えることによって、親会社が自ら行うより低いコストで済む(だろう)という考えが根底にあると推察されます。」と説明しています。

figQ13:記者が自社とは別の子会社を設立している理由を、重要度の高い順に3つ教えてください。出典:Gartner/調査:2023年5月(n=130、n=126、n=129)ID:801086

また、同社シニア ディレクター アナリストの一志達也氏は「現在、世界的にも、ITに携わる人材、特にAI技術、データとアナリティクス(D&A)やデジタル・プロダクトなどのリーダーは貴重であり、その給与水準はあらゆる職種の中でも高い状況にあります。そうした人材を確保するには、相応の待遇を用意する必要があります」とコメントしています。

親会社が考えるIT子会社の課題は、IT戦略立案能力、待ちの姿勢など

一方、IT子会社に関する喫緊の課題について重要と考える順に第3位までを尋ねたところ、第1位に選択された割合(下記のグラフの黒のマーカーが示す割合)が最も多かったのは、「親会社の経営課題・戦略を反映したIT戦略を立案する能力の不足」(16.2%) でした。

それに続いて第1位に選択された割合が多かったのは、「待ちの姿勢、言われたことをやる姿勢で、積極的な提案を行う姿勢が見られない」「先進技術を習得し、その活用について積極的に提案、実装する能力の不足」「スピード感が不足している」などの回答が並びました。

figQ15:貴社が委託しているIT子会社に関し、喫緊の課題を重要度の順に3つお答えください。出典:Gartner/調査:2023年5月ID:801086

コスト削減が目的なのに、戦略立案能力が課題という矛盾

これらの調査結果から見えてくるのは、企業がIT子会社に対して人件費やシステム構築のコスト削減を求めつつも、優秀な人材が求められるであろうIT戦略の立案能力も不足し、待ちの姿勢になっているとも指摘する、という矛盾しているような状況です。

ガートナーのディスティングイッシュト バイス プレジデント アドバイザリ松本良之氏はこれらの結果を踏まえて「IT子会社の戦略転換の検討は、親会社にとっても子会社側にとっても重要な課題になっています」と調査結果の中で指摘しています。

IT子会社は、コスト削減のための組織からIT戦略立案のための組織にするというような、明確な戦略転換の実行を検討すべきだ、ということでしょう。

一般論で言うならば、IT子会社がこうした矛盾したような状況に置かれている理由は、親会社よりも年収が高くならないような硬直した給与体系、親会社からの天下りによる硬直した経営体制、親会社からの仕事がほとんどを占める硬直した業務内容などが主なものではないでしょうか。

前述の同社シニア ディレクター アナリストの一志達也氏のコメントにあるように、世界的に見て優れたIT人材の給与水準はあらゆる職種の中でも高い状況にあり、そうした人材を確保するには相応の待遇を用意する必要があります。

硬直した給与体系では優れたIT戦略を立案できる人材の確保が困難なのは明らかであり、そうした給与体系の作成と人材評価は、IT業界とその人材に詳しくないであろう天下りの経営陣には困難です。そして優秀な人材をつなぎ止めるような高い給与を維持するには、コスト削減が要求される親会社以外からの仕事の獲得にも乗り出すというビジネス面での変革も必要です。

そして、これらの指摘を基に戦略転換すべきであると、おそらく多くの企業とIT子会社の経営陣は過去に何度も耳にしているはずです。分かっているが実行できていない、というのが現状でしょう。

流通も製造もサービスも、あらゆる業種がソフトウェアによって変革されていくと見られる現在、戦略転換を実行できるかどうかが、これからのIT子会社とその親会社の行方を大きく左右することになるのではないでしょうか。

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Junichi Niino(jniino)
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