マイクロソフトが設立わずか3年のストレージベンダStorSimpleを買収した理由は、Amazonに勝つためか

2012年10月25日

マイクロソフトは10月16日、設立してわずか3年のハードウェアベンダを買収しました。エンタープライズ向けストレージベンダの「StorSimple」です。マイクロソフトはなぜエンタープライズ向けストレージベンダを買収したのでしょうか?

fig StorSimpleの共同創立者でCEOのUrsheet Parikh氏(左)と、マイクロソフトのバイスプレジデント、サーバ&ツール部門のMichael Park(右)

既存のシステムそのままでクラウドのメリットを得られる

StorSimpleは「Cloud-integrated Storage」(クラウド統合型ストレージ)、あるいは「Cloud Storage Gateway」と呼ばれる新しい分野のストレージ製品を提供しています。

同社製品の基本的な機能は通常のストレージと同様です。iSCSIでサーバに接続し、モデルによって2TBから20TBの容量の記憶領域を提供。キャッシュ用にSSDを内蔵しているため、ホットデータに対して高速なアクセスも実現します。

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同社製品が「クラウド統合型ストレージ」と呼ばれる理由は、ストレージがクラウドと連係する機能を備えていることです。

例えば、ストレージ内のデータを定期的にクラウドへ自動バックアップする機能、ディザスタリカバリのためにアーカイブを作成して暗号化しつつクラウドへ保存する機能や、クラウド側のストレージを拡張領域とすることで仮想的に何ペタバイトでも保存できる容量制限のない超大容量ストレージとして利用する機能などがあります。

クラウドのストレージが持つ自然災害などに対する耐久性や大容量といったメリットを、従来のアプリケーションをそのまま利用しつつ、既存のオンプレミスのシステムも変更することなく、製品を導入するだけで簡単に得ることができる。これがStorSimpleのようなクラウド統合型ストレージの最大のメリットです。

StorSimpleはこうしたクラウドストレージを提供するベンダとしてもっとも知名度がある企業の1つでした。

クラウド統合型ストレージをマイクロソフトが提供する理由

マイクロソフトはStorSimple買収に当たり、次のような声明を発表しています。

StorSimple 社は、オンプレミスのストレージとクラウド ストレージのシームレスな統合に対する姿勢において、マイクロソフトの Cloud OS のビジョンと明らかに一致しています。この革新的なソリューションにより、IT企業はバックアップ、障害回復、およびアーカイブを目的とするデータ格納に必要なコストを削減し、さらに単一のコンソールから迅速に回復を実施できるようになります。

つまり同社はクラウド統合型ストレージを、クラウド活用の手法として評価し、それを自社のソリューションとするために買収したというわけです。

しかしこのようなソリューションであれば、マイクロソフトにとってソフトウェアで実現することは可能なはずです。Amazonクラウドはすでに今年の4月、StorSimpleほど高機能ではないものの、クラウド統合ストレージの機能を提供するソフトウェアアプライアンス「AWS Storage Gateway」の無償提供を開始しています。マイクロソフトも同様のソフトウェアを開発できないわけはありません。

なぜマイクロソフトはハードウェアベンダであるStorSimpleを買収したのでしょう? これは推測に過ぎませんが、クラウドのストレージサービスで圧倒的な存在であるAmazonクラウドに勝つためにハードウェアが必要だと考えたのではないでしょうか。

Amazonクラウドに勝つためにハードウェアが必要と考えたか

クラウドのストレージサービスを利用するには、専用のAPIに対応する必要があります。すでにAmazon S3はこのAPIで事実上の標準になっており、これをひっくり返すことは相当に困難です。マイクロソフトがこの状況を逆転させるには、クラウドストレージの利用方法そのものを大きく転換させる必要があります。

マイクロソフトはその有力な手段として、オンプレミスのストレージを簡単にクラウド対応にできるクラウド統合型ストレージに目を付けたわけです。

そしてオンプレミスのストレージに自社製品を採用してもらうには、たとえ無料であってもセルフサービスで手間のかかるソフトウェアを配布するよりも、簡単に設置できて性能も機能も保証しやすいハードウェアによるアプライアンスのほうが有利であると考えたのではないでしょうか。

多少大胆に予想してみると、マイクロソフトはもしかしたらWindows Azureのストレージを一定期間以上利用することを条件に、StorSimpleのハードウェアを無償で企業に提供する可能性もあるでしょう(無償のソフトウェア配布も行うでしょう)。アプリケーションと比べると、クラウド上のデータが増えるほど、ユーザーにとって別のクラウドへ移行することが難しくなる一方でクラウドベンダにとっては安定的な収入源となります。長期的に見ればハードウェアを無償で提供してでもユーザーを囲い込むインセンティブがマイクロソフトにはあるはずです。

ストレージとクラウドの連係はあらゆるストレージベンダが考えている方向です。マイクロソフトによるStorSimpleの買収は、競合であるAmazonクラウドやほかのクラウドベンダだけでなく、ストレージベンダにとってもマイクロソフトが競合となる可能性をはらむ、地味ながら大きな出来事であるはずです。

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Junichi Niino(jniino)
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