企業向けのサービスに特化し続ける、セールスフォースのクラウド戦略

2009年11月25日

マイクロソフトがクラウド戦略として、Windows AzureとWindows Serverの互換性、すなわちクラウドとオンプレミスの互換性を高めることを先週明らかにしました。では、同じく先週にイベント「Dreamforce 2009」を開催したセールスフォースはどのような戦略を明らかにしたのでしょうか?

実は同社はこのイベントで特に新しい戦略らしきものは語っていません。これは語るべき戦略がないのではなく、いままでと全く変わらぬ戦略を貫いているため、あらためて語る必要がないためと考えられます。

その変わらぬ戦略とは、企業向けアプリケーションのサービス提供に特化すること、といえます。セールスフォースは創業から一貫して、企業向けのサービスを提供することに特化してきました。最初はCRMアプリケーションをサービスとして提供し、そして数年前からは業務アプリケーションの開発環境と実行環境もサービスとして提供するようになりました。

そして同社はひたすら、この2つを軸とした企業向けサービスを強化することに注力してきたように見えます。

クラウド連係へと踏み出すセールスフォース

同社が今回の「Dreamforce 2009」で打ち上げたアナウンスメントは大きく2つありました。

  • Facebookやツイッターとの連係
  • 「Salesforce Chatter」の発表

1つ目の、Facebookやツイッターとの連係は、同社が既存のサービスとして提供している営業支援アプリケーションの「Sales Cloud 2」と、カスタマサービス支援アプリケーションの「Service Cloud 2」の主な強化ポイントとして発表されたもの。

そして2つ目の「Salesforce Chatter」とは新規に追加される企業内の情報共有アプリケーションです。

これをざっくりと捉えれば、既存のアプリケーション強化と、新規アプリケーションの追加によるラインナップの強化の両面を実行してきたといえます。これが今回のイベントのハイライトだったといえるでしょう。

この中で、特に単なる機能アップではなく、Facebookやツイッターという外部クラウドとの連係によって強化が実現された点は注目に値します。同社のこうした外部のクラウドと連係する取り組みは昨年のDreamforceでも発表されていますが(昨年はAmazonクラウドとの連係などが発表されています)、クラウド単体でのアプリケーションから、クラウド連係によるアプリケーションの強化へと、同社が新たなフェーズに入っていることをうかがわせます。

Force.comでは大きなアナウンスメントはなし

一方で開発環境と実行環境のためのサービス、すなわち「Force.com」についての大きなアナウンスメントは今回行われていません(いくつかの提携については発表がありましたが)。

恐らく今回のDreamforce 2009では、新アプリケーションの「Salesforce Chatter」への注目を最大限に集めることがトッププライオリティだったのでしょう。

個人的には、先月発表されたアドビシステムズのFlash/AIRのためのアプリケーション開発環境に注目しています。クラウドアプリケーションがグラフィカルなユーザーインターフェイスを備えると同時に、オフライン機能も実現できるようになるためです。これについては別途記事を書くつもりでいます。

戦略にぶれがないことを確認

セールスフォースのクラウドでは、Amazon EC2のように自由にインスタンスを実行することも、Hadoopのようなソフトウェアを動かすこともできません。Windows AzureのようにC#、Visual Basic、PHPのような複数の言語を選んで開発することもできませんし、それらと比べればプログラミングの自由度も、データベース設計の自由度も高くありません。

その代わり、企業向けのアプリケーション、企業向けの開発環境と実行環境をサービスとして提供すること、という戦略をはっきりと打ち出して、徹底的にそこに最適化したクラウドを実現しようとしています。

今年の5月には、Force.comでのアプリケーション開発が、Javaや.NETに比べて5倍早いことが明らかになったというレポートが発表され、セールスフォース自身がそれをうたい文句にしていますが、Force.comは企業向けのアプリケーション開発に特化しているのですから、Javaや.NETのような汎用的なプラットフォームと比べてその種の生産性が高いのは当然のことです。

このはっきりとした戦略こそが同社の強みであり、ある意味ではクラウドもその戦略のための手段でしかありません。そしてこの戦略をクラウドというテクノロジーを用いて適切に実現できていることが、これまでの同社の成功を呼び込んでいるのでしょう。

その戦略にぶれがなく、さらにサービスの強化を新たな形で実現してきた。セールスフォースの今回のイベント「Dreamforce 2009」はそのこと示したイベントではなかったかと思います。

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Junichi Niino(jniino)
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