書評「リーン・スタートアップ」。起業家はもちろん、変化の激しいビジネスに関わる人たちすべてに

2012年4月9日

スタートアップとして成功するためのマネジメント手法が書かれている本書。変化の激しい市場で、あるいはまだ市場かあるかどうかさえ分からない分野へ挑戦しようとしているスタートアップにとって大事なのは、アイデアやビジネスプランよりもどうマネジメントするかである、という著者エリック・リース氏の経験と知識に基づいた実践論が展開されます。

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変化の激しいビジネスに関わるすべての人に

経営指南書として、本書はスタートアップだけではなく、変化の激しい市場に向けたビジネスに関わるあらゆる人たちにとっての指針として読める一冊です。

僕(新野)も2000年にいわゆるスタートアップの設立に加わって経営陣の一員として働き、幸運にも2007年に株式公開に成功しました(そしていまは独立しましたが)。その経験や、スタートアップの一人としてこれまで見てきた多くの他社の例に照らしても、アイデアやビジネスプランばかりにスポットライトが当たるスタートアップの風潮には違和感がありました。スタートアップとはアイデアよりもなによりもマネジメントなのだ、という本書の意見に賛同します。

そしてスピードが重要と言われるスタートアップの経営において、スピードとは何なのか、どうすればスピードがあがるのか、スピードが上がった組織をどう正しく操縦すべきなのかを教えてくれます。

本書の一般発売は一週間後の4月16日です。エリック・リース氏の講演を主催したアマゾンデータサービスジャパンのご厚意によりご献本いただきました。

早いサイクルで学び、それを経営に活かしていくこと

来日講演の記事にも書きましたが、本書のタイトルになっている「リーンスタートアップ」のリーンとは、トヨタ自動車が生み出した「トヨタ生産方式」(TPS:Toyota Production System)をほかの分野や企業でも適用できるように再体系化、一般化した「リーン生産方式」のことで、徹底的にムダを排除する生産方式です。

リーンはここ数年、ソフトウェアのアジャイル開発方法論と結びついてソフトウェア業界で注目を浴びてきました。仕掛かりを小さくしムダを省いていくリーンと、手戻りを小さくする繰り返し型の開発手法を採用するアジャイル開発には共通点が多く、また両者ともに現場の知恵を重視しています。

本書で展開されるリーンスタートアップの経営手法もまさにリーンやアジャイル開発と同じコンセプトに基づいています。スタートアップは実験であるということを肝に銘じてすばやくサイクルを回し、顧客にとっての価値とは何なのかをできるだけ早く組織全体で学べるようにすることで、間違ったアイデア、プランを正しい方向に修正していく。ときには大きく間違っていたことを認め、ビジョンはそのままにプランを方向転換(ピボット)する。

これがリーンスタートアップのコンセプトであり、本書はなぜこのコンセプトが正しいのか、具体的にどのような手法でサイクルを回せばいいのかを豊富な例を用いて解説しています。

特に売り上げや顧客数となど従来の企業の財務指標がまだほとんど使えないスタートアップにとって、サイクルごとに会社が正しい方向に向かっているのかどうかをチェックするためにどのような指標を用いるのが適切なのかが「革新会計」(Innovation Accounting)という新しい考え方に基づいて、メトリクスの取り方やグラフの見方まで解説されています。これは多くのアントレプレナーにとって目からウロコが落ちるほど新鮮かつ説得力のある指標といえるのではないでしょうか。

本書はおもにソフトウェアビジネスのスタートアップを想定して書かれており、サイクルを早く回す手法として、「かんばん」や「継続的デリバリ」など各種アジャイル開発方法論を用いることが紹介されています。しかしそれらアジャイル開発についてまで解説することは本書の範囲を超えているため、突っ込んだ解説はされていません。リーンスタートアップを実践しようという組織は当然ながら、ソフトウェア開発の実践においてアジャイル開発方法論についてさらに学ぶことが求められるでしょう。

逆にそうしたアジャイル開発手法にすでに親しんでいる人から見れば、本書はまるでアジャイル開発について書いてある本と同じように読むことができ、アジャイル開発方法論を経営の領域に拡張したものとして、すんなりと腑に落ちる内容になっているのではないでしょうか(例えば、本書に出てくる「実用最小限の製品」(MVP:Minimum Viable Product)は、かんばんの「ミニマム・マーケティング・フィーチャー」(Minimum Marketing Feature、MMF)とそっくりです)。

これまでアジャイル開発にあまり触れたことのなかった方は、本書に続いてアジャイル開発についてさらに学ぶことで、リーンスタートアップのコンセプトや実践についてより深い理解が得られるように思います。

目次

第1部 ビジョン
第1章 スタート
第2章 定義
第3章 学び
第4章 実験

第2部 舵取り
第5章 始動
第6章 構築
第7章 計測
第8章 方向転換(あるいは辛抱)

第3部 スピードアップ
第9章 バッチサイズ
第10章 成長
第11章 順応
第12章 イノベーション
第13章 エピローグ ― 無駄にするな
第14章 活動に参加しよう

リーン・スタートアップ リーン・スタートアップ
リーン・スタートップとは、新しい製品やサービスを開発する際に、作り手の思い込みによって 顧客にとって価値のないものを作ってしまうことに伴う、時間、労力、資源、情熱のムダをなくし、 時代が求める製品・サービスを、より早く生みだし続けるための方法論です。

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カテゴリ DevOps / アジャイル開発
タグ  アジャイル開発 , スタートアップ , リーン , 書評


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