SEと営業のためのヒアリング講座。モデレータのヒアリングテクニックから学ぶ(後編)

2015年3月11日

モデレータとしてパネリストから発言を引き出してきた経験を基に、SEや営業がお客様の要望をうまくヒアリングできる技術が身につくような講座の内容を紹介しています。前編では、単純な質問を避けるために、文脈の共有や対話的な雰囲気作りのためのテクニックなどを紹介しました。

(本記事は「SEと営業のためのヒアリング講座。モデレータのヒアリングテクニックから学ぶ(前編)」の続きです)

後編では、前編の内容にいくつかの要素を加えてフレームワークのように使いやすくしてみます。

フレームワークにしてみる

いくつかのテクニックを組み合わせて、ヒアリングの現場で実践しやすいような一連のフレームワークにしてみましょう。

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Step1の「文脈を共有する」では、自己紹介や訪問の目的を説明。名刺の肩書きなどを見ながら、相手の立場などを確認します。前掲のスライドをもう一度示しておきます。

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Step2の「仮説をぶつける」では「私はこう思うのですが、どうですか?」など、仮説を提示する形で質問する。もちろん普通の質問もしてかまいません。対話的な雰囲気をできるだけ演出しつつヒアリングを進めましょう。

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話題には順番がある

このとき、話題にはある程度の順番があることを意識すると良いでしょう。順番とは、できるだけ大きな話題から入る、ということです。つまり、社会の話や業界の話。そして相手の会社の話や自社の話。部門の話や上司の話。そして現場の話や担当の話、本人の話といった順番です。

こうすると前提を共有した話がしやすくなります。

大事な言葉を繰り返す

Step3の「大事な言葉を繰り返す」は、これも質問のひとつのテクニックです。

お客様の話の中から「そこがもっと知りたい」という点を見つけたら、その言葉を繰り返すのです。

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上記の会話で「ファイルサーバで共有を?」というのは、具体的な質問の体をなしてはいません。しかし、相手の発言のその部分をもっと知りたいというシグナルとしては十分に伝わります。ですから、たいていの場合は相手がそこをもっと掘り下げて教えてくれるのです。

これも、対話的な雰囲気をできるだけ作りつつ相手から知りたい発言を引き出していくテクニックの1つです。

フレームワーク再び

基本的にはStep2Step3を繰り返していくことでヒアリングを深めていくことになります。

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そしてある程度のところまできたら、Step4の「理想を聞く」で一区切りを付けます。

ヒアリングによってお客様の要望などがある程度把握できてきたら、それがもし実現された結果、理想的にはどうなるのか。あるいは理想的な状態とはどういう状態なのか、ということを聞くことによって、より深くお客様の問題意識を知ることができるわけです。

もしかしたら、まだここではぼんやりとした理想像しか見えてこないかもしれませんが、ここでもそこからいくつか仮説を立てて「それはこういうことですか?」「では、こういうことですか?」と質問をぶつけることで、少しずつ具体的なものが見えてくるかもしれません。

そうすると徐々に、本当に相手が考えていることは何なのか、深めていくことができるのではないでしょうか。

実は私がこの講座を依頼されたときの打ち合わせでも、最後に講座がうまくいったときに求められるものを確認して、話をまとめています。これで僕はどういう講座にすべきなのか明確になったと自信を持つことができるわけです。

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この理想像を共有しておくことで、より正確に相手の要望を理解し確認できるようになるのです。

ここまでが一通りのヒアリングテクニックの紹介になります。

そのほかのテクニック

最後に、そのほかのヒアリングにおけるテクニックを挙げておきましょう。

ヒアリングの人選、人数
誰にもある程度「社内的立場」のようなものがあるので、それを想像して答えを聞いておく。漠然としたヒアリングでは、文脈が共有できる程度の人数がよいのではないか。

質問するときは、名前を呼んでから
山田さん、○○は××のようですが、どう思いますか? など。先に名前を呼ぶことで、相手を不意打ちにしない。

2人同時に指名して質問する
いきなり特定の人に質問しにくい場合には、複数名を同時に指名してみる。田中さん、佐藤さん。△ △についてどう思いますか? するとプレッシャーも分散しやすい。

誰かの発言について別の誰かに質問してみる
山口さんはこういう意見なのですが、加藤さんはどう思いますか? と聞くことで、議論を活性化させたり、立場の違いを明確にできる場合がある。

おわりに

ここで紹介してきたテクニックや考え方は、いずれも僕がモデレータとして、いろんな人の発言をどうやって自然に引き出していくのか、どうやったら単調な質問の繰り返しにならずに対話的な雰囲気で質問を続けられるか、といったことを考え、試した中で身につけたものです。

実はこうして自分のテクニックや考えをまとめてみるまでは、自分がどのようなテクニックをどのような枠組みで使っているのかについて自覚することはほとんどありませんでした。自分の体験を掘り下げていく中で、そこに一定のフレームワーク(のようなもの)やテクニックを見つけたという感じです。まあ大して深いことは考えてないのが丸わかりなのですが。

ちなみに僕の営業経験は、新入社員としてアスキーという会社に入社したときの最初の配属がソフトウェアの営業部門でしたので、そこで2年間(22歳から24歳の頃ですね)。また、営業職としてではありませんが、アットマーク・アイティとその後のアイティメディアでは発行人とか事業部長とか偉そうな肩書きだったので、大事な商談のときには営業と一緒に客先にうかがう、ということもありました(これは32歳から42歳の頃ですね)。

ですから、営業の場数でいえば専門の営業職の方の足下にも及ばないわけで、これが現場のヒアリングにどれだけ役立つのか、おそるおそるなところはあります。が、実践的かつ比較的簡単で使いやすい点は評価いただけるのではないかと思います。どなたかの役に立てば幸いです。

ちなみに以下は大変僭越な表現にはなりますが念のため、もしこの記事を元に社内や有志で勉強会みたいなことをする方がいるとすれば、記事の内容や画像はご自由にお使いください。有償で講座を作る参考にしたいという方や企業がもしいらっしゃるのであれば、ライセンスなどのご相談には乗りますので、お気軽にご連絡ください。

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Junichi Niino(jniino)
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