プロとしての「尊重」が、ITの現場でキーワードになってきた気がする

2012年2月28日

アジャイル開発手法の1つとしてよく知られるXP(エクストリームプログラミング)には、原理となる5つの価値「コミュニケーション」「シンプル」「フィードバック」「勇気」「尊重」があります。

手短に説明すると、プロジェクトにおけるコミュニケーションをつねに保ち、シンプルに作り、システムや人からのフィードバックを反映し、勇気を持って設計し開発しつつ、プロジェクトメンバーはお互いを尊重する。ということを意味しています。

先日行われたデブサミ2012のセッション「アジャイル開発の10年と今後を語ろう」で、実は5つ目の価値である「尊重」は後から付け加えられたものなんだと、講演者の平鍋さんが説明されていました。

たしかに、手もとの書籍「エクストリーム・プログラミング入門」(2000年発行)を見てみると、4つの価値しか書いてありません。調べてみると、2005年発行の「エクストリーム・プログラミング入門 第2版」で改変が行われ、5番目の価値「尊重」が付け加えられたそうです。

たとえ方法論がしっかりしていたとしっても、結局のところお互いの尊重がなければプロジェクトは機能しない。これがXPの価値の5番目に尊重が入った理由です。

DevOpsでも尊重するカルチャーが重要に

デブサミの平鍋さんの講演を聴いて「そうか、尊重は後から増えたんだ」と思っていたところに、先週金曜日に行われたDevOpsのイベントでも、尊重が大事なポイントで出てきました。

DevOpsとは、開発と運用が協力し合って迅速なデプロイの実現を目指したものです。ここでも次のような説明がありました。記事「DevOpsとはどんなもので、何が議論されているのか(後編)」から引用します。

DevOpsは「Cultural and Professional Movement」だと、DevOpsはムーブメントなんだよと。いかにアジリティを高めるか、それを実現するためにカルチャーとビヘイビア(振る舞い)を変えていきましょうと。

つまり開発と運用がお互いを尊重するカルチャー、これを作ることが大事なんだと説明されていました。

テクノロジーと同じ地平線に尊重がある

XPもDevOpsも、ITでアジリティを実現するためにどうすべきか? を追求しているものです。そしてどちらもアジリティを実現するには尊重が不可欠だと指摘しています。

個人の業務遂行のために、効率的にコードを書くためのテクニックやツール、仕事をさくさく進めるためのライフハック、そしてそもそも早く仕事をこなすための能力向上、技術力向上は、さまざまな場面で語られています。

しかし、アジャイル開発やDevOpsの文脈で語られる、組織として迅速に仕事を回し成果をあげるためには、尊重とか勇気とか、そういったものも同じように、あるいはそれ以上に大事なんだと。

たしかに組織の中に「優秀だけど面倒くさい人」がいると、その人の仕事は効率よく進んだとしても、その人のおかげで説明や負担が増えてチーム全体としてのスピードを落とすことは珍しくありません。特に、スタートアップなど小さな組織では、個人の能力以上に、環境に適応しチームプレイができるキャラクタかどうかといった点は非常に重要な点だと、以前から認識されていました。

それがXPやDevOpsといった方法論や枠組みの中で、言葉として明示的に語られるようになってきたのです。

いままで、組織の中の個人はどうしても「技能としての能力」で評価される側面が大きかったはずです。それゆえに、それ以外の性格的な面に多少問題があっても目をつむることが多かった。

しかし「尊重」が組織のアジリティを大きく前進させる重要な要素だともっと認識されれば、「技能」と同じかそれ以上に「尊重の価値を重視できる人」が評価されるようになるかもしれませんし、そうなれば職場はもっと働きやすくなることでしょう。そうした職場がもっとこれから増えるといいなと、期待せずにいられません。

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