セールスフォースがシンガポールにデータセンター設置、クラウドは規模の経済だけではない!

2009年7月23日

セールスフォース・ドットコムは米国内で2カ所のデータセンターを運用していますが、3カ所目のデータセンターをシンガポールに設置したことを先週7月16日に発表しました。

米国外では初のデータセンターをシンガポールに設置した理由を、同社のマーク・ベニオフ CEOは「アジア太平洋地域は同社にとってもっとも速いスピードで成長している市場だから」としています。

また、同社はデータセンターを監視するNOC(Network Operation Center)もシンガポールに設置、米国のNOCと二交代制で24時間の監視体制をとるとのことです。

シンガポールデータセンターはわずか200台程度?

さて、このシンガポールのデータセンターの規模はどれくらいなのでしょうか? セールスフォースは詳細を明らかにしていませんので推測してみましょう。

同社は既存の米国の2カ所のデータセンターで約1000台のサーバを運用していることが、今年の3月に明らかになっています。いくつかの報道から推測すると、この1000台のサーバの多くは同社本社のある西海岸側にあるデータセンターで稼働しており、残りのサーバは重要なデータのバックアップのために東海岸にあるデータセンターで稼働しているようです。

同社の現在の顧客数は約6万社、利用者数は約200万人で、アジア太平洋地域での顧客は5000社を超えたところと発表されていますので、アジア太平洋地域を担当するシンガポールのデータセンターは西海岸側のデータセンターの十分の一の規模は最低でも必要でしょう。そこから余裕をみて計算すると、100台から200台程度がシンガポールのデータセンターの規模としての推測値ではないでしょうか。

グーグルとの規模の差は1000倍

わずか数百台という規模のデータセンターはクラウドとしては小規模ですし、全社のサーバが合計で千数百台というのも、先日のエントリ「グーグルの最新のデータセンターは非常識なほど進化している」で紹介したグーグルのクラウドの規模と比べると、同じクラウドとは思えないほどの差があります。調査会社のガ―トナーは、2007年の時点でグーグルが運用するサーバが100万台以上だと推測していますから、少なくとも約1000倍もの違いがあるわけです。

もちろんグーグルとセールスフォースでは、ビジネスモデルが全く異なります。グーグルは基本的には無料で誰にでもクラウドを開放し、広告モデルを収入源とする一方、セールスフォースは企業を対象にしたビジネスアプリケーションの課金モデルです(細かいところを見れば、グーグルにも課金モデルがありますし、セールスフォースも無料利用が可能ですが)。

このビジネスモデルの違いが、両者のクラウドの規模とアーキテクチャを全く異なるものにしています。セールスフォースが採用しているマルチテナントアーキテクチャは、クラウドを可能な限り効率化して少数のサーバで構築することを追求するアーキテクチャです。これによって約200万人の利用者数を千数百台という少数のサーバで対応できるクラウドが実現されており、それが運用コストの低さとして同社の競争力の源泉となっているわけです。

同社のクラウドを特徴付けているマルチテナントアーキテクチャについては、このブログの別のエントリで3回に渡って(おそらく日本でいちばん)詳しく解説しています。

規模の経済以外にもクラウドで勝つ手段はある

ご存じの通り、セールスフォース社は企業向けのクラウド市場で急成長している一社であり、先日のエントリ「 「エコポイント」の申し込み画面はクラウド上に。開発期間わずか1カ月?」で紹介したように国内での事例も着々と積み上がっています。グーグルやアマゾンのように規模の経済を追求するベンダがある一方で、セールスフォースのクラウド市場における戦い方は、データセンターの規模の追求だけがクラウド市場で勝ち残る方法ではない、ということを示しています。

もしも規模の経済だけがクラウドで勝ち残る手段であれば、最後にクラウドベンダとして生き残れるのはわずか1~2社程度です。しかし、それ以外にもさまざまな勝ち残る手段があるのなら、これからクラウド市場へ参入しようとしているベンダ、日本のベンダにも、まだまだ勝ち目は残っているはず、ではないでしょうか。

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Tags: クラウド Salesforce データセンター

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