「Agile Japan 2009」開催! どうすればアジャイルが日本で普及するのか?

2009年4月23日

4月22日にアジャイルソフトウェア開発のイベント「Agile Japan 2009」が開催されました。日本でアジャイルソフトウェア開発手法が知られるようになって10年近くになろうとしていますが、いまだ普及が進んだといえる状況にはなっていません。

Agile Japan 2009のオープニングで登壇した実行委員長の平鍋健児氏はその理由を「上司の人がアジャイルに拒否感があるのではないか」と語っています。「そこで今回は思いっきり"人"に焦点を当てたイベントにしました」(平鍋氏)というとおり、この日のセッションはチームのマネジメントや、メンバーのモチベーション、マネージャとの関係などを主題としたものが並びました。

特に印象に残ったセッションとして、基調講演とクロージングセッションを紹介します。

fig Agile Japan 2009のステージで会場からの質問に答える3人。左から実行委員長の平鍋健児氏、メアリー・ポペンディック氏、黒岩惠氏

メアリー・ポッペンディーク氏の基調講演

基調講演に登場したのは、トヨタ生産方式を源流とするソフトウェア開発方法論を解説した書籍「リーン開発の本質」の著者であるメアリー・ポッペンディーク氏。

ポッペンディーク氏はソフトウェア開発のために、生産現場での方法論から学べることが多くあるとして、これまでの方法論の進化を振り返ります。

  • 最初の方法論として、フレデリック・テイラー氏により科学的管理法が登場
  • 1920年には、それを基にチャールズ・アレン氏が職業訓練を最初にまとめる。その手法は、「準備」「やってみせる」「やってみる」「フォローアップ」という4ステップ
  • 1940年にはそれが戦争時の生産性を向上させる手段として企業内訓練に発展。手引き書としてまとめらた。そこには、「どうやって教えるか」「改善の仕方」「人との接し方」が解説されていた
  • 1950年にはトヨタが「ジャスト・イン・タイム」「自働化」「たゆまぬ改善」などを柱としたトヨタ生産方式を登場

続いて、1978年に大野耐一氏が執筆した「トヨタ生産方式」から次のポイントを引用しました。

標準というのは変わっていかなければいけない。

生産の現場では「標準」という手順を決め、それをいつも改善していくことが欠かせないということをポッペンディーク氏は繰り返し強調していました。

  • イタリアの3人の石切工の話。一人目「石を切っているだけだよ、重労働だし好きじゃない」、二人目「生計のために石切工として働いているんだよ」、三人目「僕は聖堂を造っているんだよ」。現場に主体性と改善の権限を持たせるのが重要

リーダーシップには3つの種類があるといいます。

  1. 独裁者スタイル「私のやり方でやりなさい」
  2. エンパワメントスタイル「あなたのやり方でやってみてください」
  3. リーンスタイル「私についてきて、一緒に考えましょう」

そしてポッペンディーク氏は、リーダーシップに必要なのは以下の点であるとまとめています。

  1. 仕事を教える教師としての役割
  2. メンバー自身が仕事を改善していけるようにするための指導
  3. ひとりひとりの仕事が、顧客の価値と会社の反映の両方に価値提供するように整合させる役割

ポッペンディーク氏に続いて、元トヨタ自動車社員で現在は中部ESD拠点推進会議代表の黒岩 惠氏が登場。トヨタ生産方式とは何か? ひとことで言うと「自分で考えなさい、っちゅうことや」。

岡島幸男によるクロージングセッション

永和システムマネジメントの岡島氏は、書籍「ソフトウェア開発を成功させる チームビルディング」の著者でもあります。

岡島氏は、開発チームとマネージャのあいだにある緊張関係がアジャイルソフトウェア開発を導入する見えない壁になっていないかと指摘。この見えない壁の正体が何なのか? がセッションのテーマとなりました。

アジャイル開発チームに対するマネージャの誤解

  • 個人が好き勝手にやってる
  • 組織の成功を軽視している
  • コードを書くことがすべて

マネージャに対するチームメンバーによる誤解

  • 組織のルールでがんじがらめ
  • 人間を軽視している
  • 売り上げと利益がすべて

マネジメントの巨匠であるピーター・ドラッカー氏の言葉、「(スタッフの)生き生きとした働きなくして生産性の向上はない」を引用して、「チームとマネージャはお互いに成功モデルの本質は同じであることを知り、歩み寄るべきで、これが今日のイベント『Agile Japan 2009』のテーマでもあった」と岡島氏。

そして、開発チームとマネージャがWin-Winの関係になるには、開発チームは主体性を発揮し、マネージャは責任と権限をチームに委譲することが必要だ、としています。

でも、マネージャは「そんな主体性のある人、うちにはいませんよ」と思っていないか? というよくある質問に対しては 「だから育てる」というのが答えだといいます。「自分たちで、チームでの仕事を通じて育てるんです。チームと人を」(岡島氏)。

そして、メアリー・ポッペンディーク氏の書籍「リーン開発の本質」からの引用。

メンバーが各自持つ様々なスキルを出し合って、共通の目的のために共同作業をするというお互いの約束があって、はじめてグループはチームに変わるのだ。

主体的チームビルディングとは、「自ら理想のチームを目指し、日々繰り返す試行錯誤」であって、チームは最終状態ではなくプロセスである。重要なのは「開発チームとマネージャの成功モデルの共有」。

これが、開発チームとマネージャのあいだにある見えない壁を壊し、ソフトウェア開発を成功させる鍵ではないかと岡島氏は結論づけました。

アジャイルの導入には人や組織が変わる必要がある

アジャイルソフトウェア開発はなぜなかなか浸透しないのか、理由は数多くありますが、最大の障壁はこのイベントのテーマそのものである「人や組織が変わらなければならない」という点にあると思います。

アジャイルソフトウェア開発というのは、お金を出してツールを入れれば導入できるわけでもなく、本を読んで理解すればできるようになるわけでも、コンサルティングに指導してもらえば誰でもできるようになる、というわけではありません。

そのことは、このイベントで発表された事例を見ても分かります。

開発者自身が自主性を発揮すること、組織は権限を現場におろすこと、マネージャーはリーダーシップを発揮すること、こうしたことを実現できなければ、ペアプログラミングをしても、スクラムを導入しても、アジャイルソフトウェア開発で成功することは難しいのです。

プラクティスは学べても、リーダーシップやチームのあり方というのは、やはり人から人へ熱意を持って伝えられなければ、なかなか学びにくいことです。そういう点で、今日のイベントは学べる要素がとても多くあり、また意義深いイベントになったと思います。

こうしたことを、より幅広く、またもっと多くの機会を通じて伝えることで、徐々に開発の現場が変わっていくのではないかということを、イベントを通じて感じました。

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