国立情報学研究所 佐藤教授が語る「クラウドコンピューティングの将来動向」(クラウドサービス編)

2011年9月7日

8月31日から2日間、都内で行われたイベント「Cloud Computing World Tokyo 2011」。そのイベントへの申し込み段階で最初に満員となったのが、国立情報学研究所 佐藤一郎教授のセッション「クラウドコンピューティングの将来動向」でした。

技術的な背景に基づき、ビッグデータ活用に必要な条件とは何か、クラウドのビジネスモデルはどうなるのか、データセンターの進化の方向などについて、具体的な解説が行われています。

この記事では、その講演の内容を紹介しましょう。

(本記事は「国立情報学研究所 佐藤教授が語る「クラウドコンピューティングの将来動向」(ビッグデータ編)」の続きです。

クラウドのサービス開発は日本に向いている

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2年前、グーグルのエリック・シュミット氏は、インフラを作る時代はそろそろ終わり、これからサービスの時代だ、と言っています。実際にそうだと思いますし、これからはクラウドのサービスが重要です、というのはみなさんご存じでしょう。

少しその先の話をします。

サービスの時代になると、納品物は「ソフトウェア」ではなく「サービス」になります。そしてサービスの利用料をいただく。開発したコードの量とは関係なくなります。当たり前ですよね。

開発したコードの量を基にビジネスをしている組織は、サービスの時代には成立しないと思います。

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サービスの開発は、たぶん明確な仕様というのはなくなって、サービスを作って、使ってもらってフィードバックをもらい、改良を繰り返していく。こういうモデルになると思います。

クラウドのサービスは、サービスが不便だと思われたら顧客から使うのを打ち切られる。いかに長くサービスを使い続けてもらうか、というビジネスモデルになるので、ユーザーから「これがほしい」というと「はい改良しました」と。いつ利用を打ち切られるのか分からないので、それを意識した継続的な開発にならざるを得ません。

しかしこうした継続的なサービスの開発は、日本に向いているかもしれません。

パッケージソフトウェアで日本が海外に勝てない理由は、雇用条件の制約などからでした。大規模なパッケージソフトウェアの開発では大勢のプログラムが関わり、終わったら規模を縮小して、というモデル。ある意味で解雇が簡単でないとパッケージビジネスは成立しません。

しかしクラウドでは持続的なサービスの改良が必要なので、開発者の人数が変動しません。また世界共通のサービスは実は少なく、サービスはユーザーの文化、民族、生活様式に依存します。なので、日本の企業もけっこう生き残れるかもしれません。

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クラウドサービスのビジネスモデルとは?

クラウドのサービスを開発、運用する側では、サービスの種類が増えると運用コストが増えていくため、いかに少ないサービスでユーザーを増やすかがポイントとなります。

それをどう実現するかと言えば、サービスにカスタマイズの機能を入れることが基本です。顧客ごとにサービスを作っていたらペイしないので、一種類のサービスをカスタマイズすることで顧客の要望に合わせるのです。

しかもカスタマイズにある程度手間がかかるようにすると、サービスの乗り換えに手間がかかってそれが顧客の囲い込みになります。

また「逆フリープレミアム」というビジネスモデルも考えられます。

先ほど申し上げたように、クラウドのサービスは顧客の要望を受けてどんどん改良されていきます。でも、そうしたサービスの変化についていけない顧客もいる。そういう顧客からお金を取る。そういうビジネスモデルも多くなるでしょう。

例としてIBMのメインフレームがあります。IBMにはメインフレームを使っている顧客がたくさんいて、それらはメインフレームを使い続けたい。そうするとIBMからメインフレームを言い値で買うしかありません。これと同じことがクラウドでも起きてくるだろう、ということです。

ユーザーがサービスを提供するということ

クラウドのサービスによって変わることのもう1つは、ユーザー企業の内製化です。

サービスは顧客のフィードバックを受けて継続的に改良されていく、という話をしましたが、そのフィードバックを受けるのにいちばんいいのはユーザー自身が開発を行うことです。

これまではユーザーが開発も運用も行うのは大変でした。でもクラウドの登場で運用は楽になりました。すると自社開発がしやすくなる。これが内製化への流れです。

そして自社向けに作ったサービスを他社に提供するかどうか、ここが運命の分かれ道です。

なんだかんだいって、同じ業種なら中のITの仕掛けもほぼ共通なので、企業Aの開発したサービスを企業B、企業Cが使うのは可能です。

いままでこうしたことが起きなかったのは、自社開発したシステムには自社分のコンピュータリソースしかなかったから。でもクラウドならリソースを簡単に調達して他社にも提供できます。

そうするとサービスの提供会社は利用料を徴収して開発費を回収することができます。非常にいいモデルです。10年先を考えると、こうしたケースがたくさん出てくるでしょう。

ただし、地位関係によってサービスの利用を強制されるのは怖いことです。例えば、自動車の元請け企業が下請けに受発注システムの利用を要請したり、銀行が住宅ローンに申し込んだ個人に家計簿管理サービスの利用を要請したときに断れるか。

サービス提供側は利用者の財務状況を把握し、利用者側を支配できるのです。

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企業間だけでなく、国家間でも同じことが考えられます。クラウドで電子行政を行うという話。その目的のほとんどは行政のコスト削減や情報共有となっていますが、ポイントは他国にもそのサービスを提供するかどうか。

今後、行政サービスは確実に電子化されていきます。そのシステムを他国に提供したら、利用国の行政執行を事実上支配するのと同じです。

クラウドは企業間の関係だけでなく、国の関係も変えてしまう。とくに電子行政に関わる方はこういうことを頭にいれておいてほしい。

いまは、安全保障の観点から言うと、ミサイルを配置するよりも、相手国のデータを預かった方が安全。そのほうが攻撃されない、そういう時代です。

クラウドの仮想化

クラウドインフラの技術動向について。

OpenFlowが注目されています。OpenFlowは簡単に言うと、データセンター内のネットワークをプログラマブルにする、自由に再定義する技術です。仮想サーバをデータセンター上に置いたとき、その仮想サーバに応じて論理的なネットワークを張らなければなりませんが、いまのネットワークは柔軟性が低いので、それを高める技術として注目されています。

ただ研究者としては、2000年前後にアクティブネットワークやプログラムネットワークといった名目でこうした研究が流行っていました。

面倒なのは、この分野は特許が多い点です。いまは特許の時代なので、もしかしたらいろいろと難しいことになるかもしれません。

もうひとつの技術動向は、データセンターのコモディティ化、標準化の進行です。

2009年5月には、グーグルから「Datacenter as a Computer」という論文がでました。このタイトルはすごく重要です。サーバの標準化が進んだように、データセンターもサーバのように標準化とコモディティ化が進むでしょう。すでにグーグルはデータセンターをコンピュータに見立てて、いままでのコンピュータの分散技術を用いてデータセンターの多重化を行い、信頼性の向上などを実現しています。

いまの2つの話には結論があって、クラウドはこれからどうなっていくのかというと、クラウドのデータセンターはアウトソースされるようになるだろうと。

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そうなったときになにが起きるのか。プログラマブルネットワークなどを使う事で、クラウドネットワークの上に、クラウドコンピュータを仮想化することもこれから確実に起きる。例えばAmazonのEC2のうえで、ほかのIaaSのサービスを提供するとか。クラウドの上でほかのクラウドのサービスを提供する、ということです。Cloud as a Serviceです。

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タグ : OpenFlow , クラウド , データセンター , 仮想化 , 働き方



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