日本のクラウドベンダに聞く、自分で思う弱点と強味とは? 価格はどこまで下げられる? ~ クラウドごった煮#4 パネルディスカッション(前編)

2011年9月21日

コミュニティ主導で、さまざまなクラウドの情報をまとめて聞いてしまおうというイベント「クラウドごった煮」(かっこいい方の名前は「cloudmix」)。

9月9日に都内で行われた第4回では、主催者から連絡がついた日本国内のIaaSクラウドベンダ6社に集まってもらい、パネルディスカッション「ニッポンのクラウドに質問」が行われました。

クラウドの価格はどこまで下がるのか? 国内クラウドベンダはグローバル競争にどのように立ち向かおうとしているのか。それぞれの責任者が本音で答えてくれたパネルディスカッションの内容を紹介したいと思います。

モデレータは前回に続き、Publickey 新野淳一がつとめさせていただきました。

各クラウド、それぞれ自分が思う弱みと強味は?

figパネルディスカッション参加者(左奥から)
ニフティ株式会社 クラウドビジネス部 山口亮介氏
さくらインターネット株式会社 社長 田中邦裕氏
株式会社インターネットイニシアティブ マーケティング本部 市場開発部 課長 喜多剛志氏
株式会社IDCフロンティア ビジネス推進本部 サービス開発部 クラウドアーキテクト 寺門典昭氏
GMOクラウド株式会社 クラウドサービス開発室 土居昭夫氏
NECビッグローブ株式会社 ビジネスサービス事業部 クラウドサービスグループ マーケティング担当 マネージャ 関根良知氏
(一部見えませんが、後ろの席に)
さくらインターネット研究所 所長 鷲北賢氏
株式会社インターネットイニシアティブ サービス本部 アプリケーション開発部 主任 堂前清隆氏
NECビッグローブ株式会社 ビジネスサービス事業部 クラウドサービスグループ システム開発・運用管理グループ 主任 南江鉄也氏
(画像はUstreamの録画からキャプチャしました)

新野 ディスカッションをはじめるに当たり、各ベンダさんに「うちのクラウドは、実はここが弱点なんです。でも、ここは強いんです」という強味と弱みを考えておいてください、という宿題をだしました。

まずはこの宿題のそれぞれのお答えを教えていただき、そのあと本格的なディスカッションに入りたいと思います。ではビッグローブ(NECビッグローブ)さんから、お願いします。

ビッグローブ まず弱点は広告宣伝費です。例えば、クラウドのイベントへ行くと赤ずきんちゃんとか(注:IIJの女性コンパニオンは赤ずきんちゃんの可愛い衣装で知られている)、ニフティクラウドさんのものすごいいっぱい並んだコンパニオンとか、すごいなと思いまして。うちもそういうことをやりたいなと思っていますが、なかなか難しいと。

強味は、セキュリティのオプションサービスを充実させてまして、ファイアウォール、IDS(侵入検知システム)、WAF(Webアプリケーションファイアウォール)、SSL VPN、IPsecVPN、専用線、プライベートLANなどをオプション、もしくは標準で用意しています。

fig 右手前から、ビッグローブ関根氏、GMOクラウド土居氏、IDCフロンティア寺門氏、IIJ喜多氏

新野 ありがとうございます。ではお隣のGMOクラウドさん。同じように弱点から教えてください。

GMOクラウド 弱点はですね、UIがちょっと弱いかなあと思います。使いやすさを目指しているのですが、まだやりきれていないなと。特に、さくらインターネットさんのUIを見ると「してやられた」感を感じます。

一方で強味は、CPUやメモリやディスクが自由に組み合わせられるところかなと思います。正直、やるのは大変なのですが、やった甲斐はあるなと思っています。

新野 ではIDCフロンティアさんにも。弱点から教えてください。

IDCフロンティア 弱点については、(オープンソースのクラウドCloudStackを採用したため)僕らが独自で開発した技術ではない、というのがところが弱いかなと思っています。他社さんは自分たちで作ったいいものがあると思うんですが、われわれは持っていません。

逆にその裏返しが強味なのですが、世界中にはいろんないいものがありますので、それを組み合わせる形でやっていきたい。われわれはCloudStackというオープンソースのものを使っていますので、オープンに、お客様に見てもらいながら育てていきたい、というところです。

新野 ではインターネットイニシアティブ(以下IIJ)さんにも同じ質問を。弱点から教えてください。

IIJ どれを弱点に挙げるか悩ましいんですが、エンジニアと相談すると、われわれの仮想サーバはネットワークだったりディスクI/Oなどのリソースが青天井にならないように固定しています。安いサーバは安いサーバなりになるようにしているんですね。

でも、リソースが空いていればぎゅーんといっちゃうようなサービスを提供しているところもあると思うので、そういうのを経験しているお客様なら、安いサーバでもリソースが空いてるならもっと使わせてよ、といわれそうなところが弱点かなと。

一方で、I/Oやネットワークをがんがんに出したいときにはそういうオプションを提供していますし、物理サーバも出します。サービスのカバレッジを広げてその辺は対応しているかなと思います。

fig 右手前から、IIJ喜多氏、さくらインターネット田中氏、ニフティ山口氏

新野 ではさくらインターネットさんにも。

さくらインターネット まだ(クラウドが)出ていない中で弱点もなにもお恥ずかしいところですけれども(会場笑)。

一言でいうなら、クラウドといいながらIaaSしかないのが最大の弱点ですし、最大の強味だと思います。

会社としての強味としてはですね、インフラからコントロールパネルまですべて自社で完結していますので、まあ今日もナオトマツモト(さくらインターネット研究所 松本直人氏)は北海道に発電所をさがしに行ってるんですけど(笑)。

またコントロールパネルにはVNCのコンソール画面が付いているのですが、サーバがBIOS画面で止まったとしても復旧できるぐらいにUIは完成していますし、本当に上のところから下のところまで1社でわきあいあいとやっていると。

特にIaaSは、トータルでサービスの信頼性も価格もコントロールしているという強味を活かしてやれば、それ自体が強味になるのではないかと思います。

新野 ありがとうございます。ニフティさんにも、弱点と強味を教えてください。

ニフティ 弱点は、いまのところ物理サーバのオプションをあえてやっていないのですが、お客さんからすると、物理サーバや、もっと細かい、この機種でこの構成で、といったカスタマイズ性を求められるのですが、そういう部分がちょっと弱いかなと。

強味は、サービスを初めて1年と9カ月になりその事例を見てきたことです。お客様はいろんなことをされていて、それを生で見て知っているというのは強いと思っています。お問い合わせも1万2000~1万3000件くらいいただいていまして、そのフィードバックを別のお客様に活かせるというのは強いかなと。

新野 さて、これでひととおり強味と弱みを聞くことができました。

ちなみになぜ参加しているのがこの6社かというと、主催者が連絡できたからです(会場笑)

日本にはまだこれ以外にもクラウドベンダはありますので、うちには連絡が来てないぞ、という会社の方はぜひ主催者にご連絡ください。

クラウドの価格はどこまで下がる? どうやって下げる?

新野 では本題に入りましょう。ここでは主に3つのことをお伺いしたいと思います。1つは価格、2つ目は信頼性、3つ目は生き残り戦略です。

1つ目のアジェンダは価格についてです。たぶんこれからクラウドの価格はさらに下がっていくと、多くの方は予想されていると思います。

そこで、さくらインターネットさんにまずお伺いします。さくらさんは私から見て、日本で最もアグレッシブな価格政策をとるのではないかなと思われるので指名させていただくのですが、この価格下落、いつまで、どのくらいまで続くと思われますか?

さくらインターネット 安くできるところが自分のできる価格まで下げる、というのが本来あるべき姿で、他社が下げるのを見て下げてるとだめだと思うんですよ。そういう意味で、自社で出せる価格を、これだ、と出すことを意識しないといけないんだろうなと。

そういう意味で言うと、うちがある意味強いのは、「さくらだったら安く出てきて、まあ使えるだろう」というイメージがあることです。そのイメージを壊さないように、私はこの辺で失礼させていただきたいと思います(会場笑)

新野 さくらインターネットさんが価格を決めるときには、まず価格を先に決めています? それともリソースからしてこの価格なら大丈夫だろうと、リソースから逆算してていますか?

さくらインターネット 実は当社は両方なんですね。

だいたいこれくらいじゃないと僕が使わないというのはありますが、うちはビジョンに「コストパフォーマンス」と書いてあるんです。コストパフォーマンスはビジョンの1つ、理念の1つですから、下げるのなら先に下げた方が、ずるずる下げさせられずに済む。

そういった意味では、価格ありきで設計しつつ、もうちょっと機能がなければ、という場面では少しずつ値上げしていく、という感じです。

新野 ではGMOクラウドさんにも同じようにお聞きします。クラウドの価格はどれくらい、いつぐらいまで下がっていくと思いますか?

GMOクラウド さくらさんもそうですが、われわれはホスティングをずっとやってきた。ホスティングの価格の下落を実体験を持ってきたんですね。レンタルサーバはここ10年で価格が半分くらいに落ちている、というのを実体験で持っているので、IaaSもやはり値段としては徐々に下がっていくと思っています。

ただ限界ってあるんだろうなと感じていて、われわれが努力として売り上げや利益を作っていくのは当然やっていかなくてはいけないところはありますが、どこかでみんなが破綻する瞬間というのが訪れると思うので、おそらくあと1年半から2年くらいのスパンで下がり続けて、そのあたりでみんな限界に達するのではないかなと考えています。

新野 限界がこのあたりになるだろう、という感触はありますか?

GMOクラウド 難しいですね。原価というものはあるので一概には言えませんが、今より平気で2~3割は下がるのではないかなと思っています。

新野 IIJにもお聞きします。以前IIJさんを取材したときに、まだ価格は下がるだろうと予想されていました。そしてそのために、松江の方にモジュール型のデータセンターを作っているというお話がありました。その辺、どういう方法でクラウドの価格を下げようとしているか、教えてもらえませんか。

IIJ IaaS事業者としてコストを下げる努力は、みなさんがおっしゃっているようにマストだと思っています。

コストの中身はなにかと考えたときにIIJが考えたのは、サーバとか機械の原価、それを運用する人件費、そしてもう1つ見逃せないのがファシリティなんですね、データセンターの場所代や電気代です。この3つがIaaSにとってのコストの3要素です。

もちろんこのほか開発コストなども積まれていると思いますが、この3つを主な要素だとしたときに、われわれいろいろ下げようと努力しました。しかしデータセンターの電気代って結局そんなに変わらないんですね。

山奥に行けば土地は下がるかもしれませんが、電気代ってだいたい全国一律です。そうすると、コンテナ型データセンターのような低レイヤなところ、そういうところに着手してコスト構造を変えていかないと、お客様に還元できない。

欧米ではアマゾンさんやマイクロソフトさんは当たり前にやっていることをわれわれもやっていこうと。まあさくらインターネットさんもやっていると思うんですけど、そういったことでコストを下げていく、というのがあります。

クラウドの付加価値について

新野 でも、安くするばっかりだとつらいですよね。

IIJ そうですね(会場笑)

新野 安くする一方で、付加価値をつけてある程度いいお客様に値段で買ってもらいたい、というサービスも考えていらっしゃると思います。価格を下げるだけではなく上げる方向では何を考えていらっしゃいますか?

IIJ 正直、サーバとかIaaSの基本レベルにあるものはどんどん値下がりしますし、底値まで下がると思います。

一方でみなさんがクラウドを使うときに、便利になってほしい、という気持ちはあると思うので、その便利になる環境が付加価値としてついてくる、あるいは自分で持つよりも安心して使える、自社で持つよりもクラウドの方がいい、という力学に代わっていく瞬間があると思います。

いまは「安いからいい」という理由でクラウドを使っていただいている、ということを肌で感じるんですけど、「クラウドで作る方が止まらないよね」とか「クラウドに置く方が自社に置くよりネットワークつなぎやすいよね、速いよね」ということにおそらく変わっていく瞬間があって、そこまでは頑張るしかないかなと思います。

(IIJ堂前氏)補足で、IIJはIaaSばっかりやっているように見えますが、その上のレイヤもやっていて、REST型APIのストレージをやったり、この前発表したのですがPaaSにも手を出していまして、そういったことにも広げていきたいなと思っています。

新野 同じ質問をビッグローブさん、IDCフロンティアさん、ニフティさんにもしたいと思います。

ビッグローブ 価格の件については、ビッグローブがプライスリーダーになることはたぶんないと思っていますが、価格が下がるのは当然のことで、価格の低下については追従する必要があると思います。今日はUstreamで上司も見ていると思いますので、こうして言っちゃったことでとフォローの風も吹くのかなと思います。

ビッグローブはIaaSだけではなくてSaaSなども個人向けでやっていますし、そうしたIaaSと付加価値のサービス、それを組み合わせて個人と法人に提供していくことが今後の利益の源泉になるのではないかと考えています。

IDCフロンティア 私たちの企業ではデータセンターを持っていまして、いまはパブリッククラウドを提供していますが、今後はプライベートクラウドということで企業内やデータセンター内にセキュリティを厳重にしてクラウドを構築する企業さんも出てくると思います。

そこでパブリックとプライベートを融合して提供することで、よいサービスを提供できるのではないかと考えています。

ニフティ 基本的にお客様のビジネスに役に立つかどうかでいつも考えていて、新機能のミドルウェアやアプリケーションイメージの配布機能やOracleへの正式対応など、SIerさんの売りたいものがちゃんと使えるクラウドかどうかを重視しています。そのなかで適正な価格はおのずとでてくるのかなあと思います。

さくらインターネットは「低付加価値戦略」

新野 さくらインターネットさんの手が挙がったので追加でどうぞ。

さくらインターネット 付加価値というキーワードが出てきましたが、私は社内でよく「低付加価値戦略」をとろう、と言っているんですね。

新野 低付加価値戦略ですか。

さくらインターネット みなさんトイレットペーパー買ったことありますよね。トイレットペーパーは価格が半額になったところで2倍は買わないですよね、オシリがすり切れちゃいますからね(会場笑)

ところがサーバの場合には、半額になったら2倍買ってもらえるんじゃないか、3倍買ってもらえるんじゃないか、ということをつねに思ってやってきて、7年前にレンタルサーバを月額2000円から125円にしたときに、これで10倍売らないと儲からないと思ったら結局50倍くらい売れたわけですし、VPS(仮想専用サーバ)を月額980円で出したら7800円くらいのサーバががっつり売れなくなったのですけども、それでもVPSを8倍売ればいいと思ったら15倍も20倍もくるわけですね。

正直、絶対価格がこれ以上下がる必要があるかというとノーだと思います。100円、200円のクラウドなんてできないですから。

でも同じ値段でどんどん性能を上げていくという、実質値下げで、付加価値を付けないというのは海外の事業者と戦うときためには考えるべきだと思っています。

新野 ありがとうございます。実は価格については、日本のベンダがグローバルベンダとどう戦っていくかにもつながっている話だと思っているので、この続きは3つ目のアジェンダでまたうかがいたいと思います。

後編の「日本のクラウドベンダに聞く、グローバルなクラウドベンダとどう戦っていくのか? ~ クラウドごった煮#4 パネルディスカッション(後編)」へ続く。

関連記事:2010年12月に行われた、クラウドごった煮 第1回のパネル

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Junichi Niino(jniino)
IT系の雑誌編集者、オンラインメディア発行人を経て独立。2009年にPublickeyを開始しました。
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