プラットフォーム争奪戦はモバイルを巻き込む総力戦(後編)

2009年12月 8日

(この記事は「プラットフォーム争奪戦はモバイルを巻き込む総力戦(前編)」の続きです。

デスクトップアプリケーションが、AIRやSilverlight、あるいはWebブラウザのChromeなどの「クライアントミドルウェア」をターゲットにして開発されるようになるという動きと同時に、新しく起こる現象があります。それはPC用のデスクトップアプリケーションとモバイルデバイス用のアプリケーションの境目がなくなっていく、という現象です。

PC用とモバイル用のアプリケーションの境目がなくなる

各社のクライアントミドルウェア戦略について見ていきましょう。

アドビシステムズは昨年「オープンスクリーンプロジェクト」を発表。テレビ、PC、携帯端末、家庭用電子機器などあらゆるデバイスを対象にしてFlashを移植し、どのデバイスでもFlashのアプリケーションが動作することを目指しています。今年10月にロサンゼルスで開催された同社のイベント「MAX 2009」では、Palm Web OS、Symbian、Windows Mobile、Aodroidなどのスマートフォンに対応したFlash Player 10.1が2010年にも登場すると発表。同時にFlashアプリケーションをiPhoneアプリケーションに変換する「Flash for iPhone」も発表しています。

また、現在β版がリリースされているAIR 2.0は「モバイル対応のための準備」が始まっていると同社は説明しており、AIRの今後のバージョンではFlashと同様にさまざまなデバイスへの展開が予想されます。

fig さまざまなデバイスに対応するFlashの戦略を示す図

マイクロソフトは「3スクリーン・アンド・クラウド」という戦略を推進しています。つまり、クラウドで展開するアプリケーションをPC、モバイル、テレビなどの家電など、生活や仕事にかかわるすべてのスクリーンに展開しようという戦略です。ここではWindows OSよりもSilverlightが大きな役割を果たすことが想定されています。

fig マイクロソフトの「3スクリーン・アンド・クラウド」戦略を示す図

両社の戦略を示す図は、上部にさまざまなデバイスが示され、下部には共通する開発ツールやサービスが並んでいる形式になっており、似ていることが分かります。

グーグルはChrome OSをPC向けに開発すると同時にモバイルや各種デバイス向けにはAndroidを開発しており、あらゆるデバイスでHTML5対応のWebブラウザを展開すべく戦略を展開しているといえるでしょう。

各社ともに共通する戦略がここで浮かび上がってきます。それは、自社のクライアントミドルウェアを、PCだけでなくあらゆるデバイスで動作するようにするという戦略です。クライアントミドルウェアがデバイスやOSの機能の差を吸収することで、あらゆるデバイスに共通したアプリケーションプラットフォームを作り出そうとしています。

しかもこの戦略はここに挙げた3社に加え、オペラやモジラといったほかのWebブラウザベンダにも見ることができます。

共通プラットフォーム登場の影響

アプリケーションのプラットフォームが、WindowsなどのOSから、AIRやSilverlight、Chromeなどのクライアントミドルウェアへと変化している、といういま起きている現象は、同時に、PC、モバイルデバイス、家庭用電子機器といったあらゆるデバイスに共通したアプリケーションプラットフォームを作りだそうとするもう1つの現象を伴っていることが分かりました。

アプリケーションの開発者にとっては、1つのアプリケーションがあらゆるデバイスで実行できる、というのは悪くない話です(Javaの「Write Once, Run Anywhere」が思い出されます)。もちろん、画面の大きさ、処理能力、記憶容量などはデバイスごとに異なるでしょうから、すべてのアプリケーションがすべてのデバイスで動作するわけではないでしょう。しかし、開発環境や実行環境がシームレスになるということは、アプリケーション開発者にとって非常に大きな可能性を提供してくれることは間違いありません。

しかもこうした各種デバイスにまたがった共通プラットフォームの登場は、Windowsという共通プラットフォームの下で、さまざまなベンダがCPUも性能も処理能力も画面の大きさも重さも異なる幅広い特徴を備えたPCを市場に展開したように、よりバラエティに富んだデバイスの登場を促進することになるかもしれません。

一方で、このプラットフォームの覇者となったベンダは、現在PC用のOSの覇者であるマイクロソフト以上に、IT業界全体への強い影響力と支配力を持つ可能性があることが想像できます。あらゆるデバイスベンダがプラットフォームを押さえたベンダに対して自社プラットフォームへの移植を依頼することになるでしょう(オープンソースの場合には事情が変わってきますが)。

その未来の覇者を目指しているからこそ、各ベンダにとってこの戦いは総力戦であり、モバイルなどを巻き込んだあらゆるデバイスに自社のクライアントミドルウェアを展開し、それらをより強力なソフトウェアへとすべく早いペースでバージョンアップを続けているのでしょう。

しかしそこにはHTML5とJavaScriptがある

しかしこのプラットフォーム競争がこれまでの競争と大きく違うのは、競争に参加しているプラットフォームすべてがHTML5やその周辺仕様、そしてJavaScriptという標準技術に準拠することです。

Windowsが強い支配力を持てたのは、Windows APIというプロプライエタリな仕様を内蔵しているからでした。Windowsが広まれば、Windows専用のアプリケーションが増え、それがまたWindowsの普及を促すという好循環がありました。

HTML5やJavaScriptという標準に沿って作られたアプリケーションは、特定のプラットフォームに縛られなくなります。このことはプラットフォームによる支配力をベンダから削ぎ落とし、アプリケーション開発者を主役へと推し進める大きな力となります。

そしてどのクライアントミドルウェアが覇者になろうとも(あるいは特定の覇者が登場しなくとも)、開発者としてはHTML5とJavaScriptなどの標準仕様に沿って開発すれば、PCからモバイルデバイス、家庭用電子機器まで特定のベンダのプラットフォームに縛られることなく、さまざまなデバイスでアプリケーションが展開できることを意味します。となれば、今後、こうした標準技術をベースに開発されるアプリケーションは飛躍的に増加することは間違いありません。

クライアントアプリケーションはいま、OSに依存しなくなるだけでなく、デバイスにも依存せず、そして標準に準拠することで特定ベンダのソフトウェアプラットフォームの依存からも脱却しようとしています。

これによってどのようなアプリケーションが登場するのか、具体的な姿を予想することはできませんが、大きな可能性を感じることはできます。クラウドの登場によってサーバアプリケーションが大きな変化の時期にさしかかっているのと同じように、クライアントアプリケーションにも大きな変化の時期がやってきているようです。


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タグ : Adobe Air , Chrome , Flash , HTML5 , Silverlight , Webブラウザ , Web標準

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