アジャイル開発の外部委託が「偽装請負」だと疑われないためにすべきこと、厚労省が公表した疑義応答集を読み解く(前編)。Agile Japan 2021

2021年11月16日

アジャイル開発において開発担当者を外部のベンダに依頼した場合、必然的に発注側の企業とベンダ側の開発者が1つのチームとなり密なコミュニケーションを行います。

すると、発注側の企業がベンダの開発者の業務遂行に対して具体的な指示を行う、いわゆる「偽装請負」とみなされる可能性があるのではないか? という疑義が以前から呈されていました。

この疑義に対して、どのように対処すれば偽装請負と見なされないか、その指針が今年9月に厚生労働省から「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(37号告示)関係疑義応答集」として公表されています。

オンラインで11月8日に開催されたイベント「Agile Japan 2021 Day 0」では、この疑義応答集の策定にも関わった、弁護士でIPA専門委員でもある梅本大祐氏によるセッション「アジャイル開発の外部委託は偽装請負になるのか ~長年の疑問に答える厚労省Q&A集の紹介~」が行われ、疑義応答集に関する詳しい解説が行われました。

日本の企業におけるアジャイル開発の実現は、ほとんどの場合において外部ベンダとの協力なしには考えられないでしょう。その意味で、アジャイル開発に関わる多くの人にとって、重要な解説だったといえます。

この記事ではその内容をダイジェストで紹介します。

(本記事は前後編に分かれています。いまお読みの記事は前編です。後編はこちら

アジャイル開発の外部委託は偽装請負になるのか

弁護士・IPA専門委員 梅本大祐氏。

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アジャイル開発は偽装請負になってしまうのではないかという皆さんの昔からのお悩みがあったと思うのですが、それについて今年の9月に厚労省から疑義応答集が公表されました。

このセッションでは、そのご紹介をさせていただければと思っています。

今日話す内容は、まずは偽装請負とは何か、アジャイル開発にどういうふうに偽装請負のリスクがあったのか、そして今回の疑義応答集のご紹介です。

そして、それを踏まえてどう対応すべきかというところで、一つの対応のあり方としてのIPAモデル契約(IPAが公開しているアジャイル開発の外部委託のモデル契約書)をご紹介したいと思っています。

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偽装請負とそのペナルティ

まず、偽装請負とは何か、という点ですが、受注者が自分の雇用している労働者を第三者に使用させる場合は、労働者派遣の制度を使わないといけない、というルールがあります。

つまり請負とか準委任で人を出して、その先の発注者からその労働者に直接指揮命令がなされると、本当は派遣を使わなければならないのに請負や準委任で偽装していることになってしまい、派遣法に違反する状態になってしまいます。

偽装請負と言われているのは、形式的には請負とか準委任なのに、実態としては発注者がその受注者の雇用する労働者に対して直接具体的な指揮命令をして作業をさせているような場合です。

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直接の指揮命令があるような状態になってしまうと、法律的には労働者派遣が行われたものとして扱われてしまいます。

その場合にはペナルティがあります。

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アジャイル開発には偽装請負のリスクがある

派遣と、請負・準委任との区別は何なのかについては、行政から運用指針が出ています。

派遣と評価されないためには、まず「1.」の、受注者が自分の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用するものであること、という要件を満たさないといけません。

細かく見ると、(1)業務の遂行に関する指示その他の管理を受注者が自分でやること、(2)労働時間等に関する指示その他の管理を受注者が自分でやること、さらに(3)労働者の人員配置を自分でやること、これら全てが必要です。

また、「2.」にあるとおり、受注者は、請け負った業務を自分の業務として相手から独立して処理する必要があり、資金の調達とか法的な事業者としての責任とか、このあたりも受注者が自ら引き受けておかないと、派遣とみなされてしまうことになります

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これに対し、アジャイル開発は皆さんご案内のとおり、発注者と受注者が1つのチームを作って、担当者レベルで情報共有したり、助言、提案、議論などの密なコミュニケーションをとっています。

チーム全体でコミュニケーションツールを使ってやり取りすることも頻繁に行われています。

これを先ほどの基準に照らすと、発注者から直接その労働者に指示がなされてるんじゃないかと、偽装請負じゃないかと、考えられるおそれがあったわけですね。

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ここについて今まで答えが出てなかったわけです。

厚労省が疑義の解消に向けて疑義応答集を公表

これは政府の規制改革推進会議に経団連から出された資料ですが、偽装請負に該当しないように配慮するため、相当な管理コストや負荷がかかっているということが書かれています。

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具体例としては、各会議に必ず受託者の管理責任者を出席させ、かつ会議中もプロダクトオーナーと直接のコミュニケーションはなるべくとらないように注意を払っていることや、仕様や要件に関わる細かな確認にも監督者経由でエンジニアに質問事項を伝達してもらうことなどが紹介されています。

偽装請負になるリスクを避けようとするあまり、アジャイル開発の本来の力を生かせないような歪(いびつ)なコミュニケーションになってしまっているということです。

これでは良くないということで、疑義の解消に向けて厚労省が2021年9月に「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(37号告示)関係疑義応答集」を公表しました。

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ポイントは、自律的に判断し開発業務をしているか

これが疑義応答集の全体像です。

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個別に見ていきますと、「Q2」で基本的な考え方が示されており、以後はこのQ2の応用になっています。

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Q2は、「アジャイル型開発は、発注者側の開発責任者と発注者側及び受注者側の開発担当者が一つのチームを構成して相互に密に連携し、随時、情報の共有や助言・提案をしながらシステム開発を進めるものですが、こうしたシステム開発の進め方は偽装請負となりますか」と、一番根本的なところに関する問いです。

これに対する厚労省の答えとしては、「発注者側と受注者側の開発関係者が相互に密に連携し、随時、情報の共有や、システム開発に関する技術的な助言・提案を行っていたとしても、実態として、発注者と受注者の関係者が対等な関係の下で協働し、受注者側の開発担当者が自律的に判断して開発業務を行っていると認められる場合であれば、偽装請負と判断されるものではありません」としています。

さらに、「他方で、実態として、発注者側の開発責任者や開発担当者が受注者側の開発担当者に対し、直接、業務の遂行方法や労働時間等に関する指示を行うなど、指揮命令があると認められるような場合には、偽装請負と判断されることになります」とも言っています。

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自律的に判断するとは何なのかというと、これは疑義応答書を作る過程でのヒアリングの中で話が出ているのですが、「自律的に判断」とは、発注者からの提案に従う必要が無い場合、ということを意味すると考えてよいかという質問に対し、厚労省からはおおむねその通りですと、受注者側が必ず従わなくてはならないものとはなっていないという趣旨ですとの答えがありました。

結局、自律的というのは、その仕事を受けているベンダが自分の裁量で、発注者側に命令されるのではなく、自分たちの判断で開発ができる状態になっていることを意味すると考えられます。

あらゆる会議に管理者を置かないといけないか?

次のQ3は、「アジャイル型開発において、開発チーム内では、個々の開発担当者が自律的に開発業務を進めることとしていることから、受注者側の管理責任者を選任していても、すべての会議や打ち合わせに同席しているわけではありませんが、この場合、偽装請負となりますか。また、管理責任者を選任していれば、偽装請負と判断されることはありませんか」という質問です。

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答えとしては先ほどの内容と同じであり、「両者が対等な関係の下で協働し、受注者側の開発担当者が自律的に開発業務を進めている限りにおいては、受注者側の管理責任者が会議や打ち合わせに同席していない場合があるからといって、それだけをもって直ちに偽装請負と判断されるわけではありません」というものです。

先ほど出てきた、あらゆる会議に管理者をおかないといけないんじゃないかという疑念については、このQでクリアされていると考えられます。

ただ注意して頂きたいのが、留保がついていることで、業務の遂行方法や労働時間等に関する指示とか、その開発の進捗に遅れが 生じている時に仕事の割り付け順序、緩急の調整等に関して指示を行う必要がある場合は、受注者側が管理責任者を選任するなどして受注者自ら指揮命令を行う必要があるとされています。

ですので、発注者から業務遂行方法とか労働時間について要望するような場合は、ちゃんと受注者側で管理責任者を置いて、その人がその要望を受け、そこから個別のメンバーに指揮命令をするといった手順を経る必要があります。

全員で同じ会議に出たり、プロジェクト管理ツールを使っていても大丈夫か?

Q4は発注者側の開発責任者と受注側の開発担当者間のコミュニケーションについての問いです。

発注者側の開発担当者がプロダクトバッグログの詳細の説明とか、開発担当者の開発業務を円滑に進めるための情報提供を行う場合があるけども、それは偽装請負になりますかというものです。

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これも先ほどのものと同じで、自律的に開発業務を進めているのであれば、それだけを持って偽装請負と判断されるわけじゃないですという答えになっています。

ここでも同じように「他方で」とあって、直接の指揮命令に当たるような場合は偽装請負ですよ、という留保がついています。

Q5は開発チーム内のコミュニケーションに関するものです。開発チーム内のコミュニケーションで技術的な議論とか助言・提案をすることがあるけれども、これは偽装請負になりますか? という問いです。

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これも、自律的に開発業務を進めているのであれば偽装請負になりません、という答えになっています。

技術的議論とか助言提案で偽装請負になるのであれば、アジャイル開発自体成り立たないと思いますが、今回の疑義応答集はこういうものまで一つ一つ考え方を示しています。

これはやはり、皆さんが偽装請負になることを恐れるあまり、疑心暗鬼な状態になっていたことから、厚労省も細かく答えたということだろうと思います。

Q6は、アジャイル開発では随時情報共有や助言・提案が必要ですけれども、そのための会議打ち合わせ、あるいはメール、チャットツール、プロジェクト管理ツール等の利用において、発注者と受注者の関係者全員が入っている場合に偽装請負になりますか、という問いです。

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答えとしてはやはり先ほどと同じで、自律的に開発業務を進めているなら偽装請負にはなりません、というものです。ただ、そういうツールを使って直接の指揮命令があれば偽装請負と判断されることになる、としています。

≫後編に続きます。後編では、ベンダにスキルシートの提出を要求するのはよいか? そしてアジャイル開発が偽装請負に疑われないために、具体的にどうすべきかを説明します。

参考資料

厚労省の疑義応答集とIPAのモデル契約へのリンク

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Junichi Niino(jniino)
IT系の雑誌編集者、オンラインメディア発行人を経て独立。2009年にPublickeyを開始しました。
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