TikTok米事業、オラクルによる提携をトランプ大統領が暫定承認。なぜオラクルはTikTok事業を取りに行ったのか?

2020年9月20日

米オラクルは、TikTokの米国における事業をオラクルやウォルマートなどが主導する新会社「TikTok Global」が行うという案について、暫定的に承認を得たと発表しました(プレスリリース「Oracle and Walmart Announce Tentative U.S. Government Approval」)。

Bloombergほか各報道機関も同様の報道を行っています。

TikTokは中国北京に本社を置くByteDance社が開発運営しているモバイルアプリです。

スマートフォンを使って簡単に1分程度の短い動画を撮影し、それを面白く、あるいは可愛く簡単に加工できて共有できるソーシャルメディアとなっており、若者を中心に大きな人気を獲得しています。日本でもテレビCMなどが始まっています。

トランプ大統領は米国におけるTikTok事業を潜在的な脅威とみなし、使用禁止措置を予告していました。

なぜトランプ大統領はTikTokが脅威であるとみているのか?

TikTokにどのような脅威があるかというと、例えばTikTokによって米国の一般市民の顔を含む動画を大量に獲得できること、人気の動画が分かることで誰がインフルエンサーであるかが把握できること、米国市民の誰と誰がつながっているかといったソーシャルグラフがなどもある程度分かるでしょう。

こうした情報が中国の企業に把握され、それが中国政府に流れることで、中国政府による米国市民の動向把握が容易になり、あるいはソーシャルメディアを使った社会的な意見操作が容易になることなどが潜在的な脅威となると見られています。

フェイクニュースの流布や世論の操作も心配されます。昨年、2019年11月には、米国に住む17歳の女性がTikTokに投稿した、メイク動画に見せかけつつ新疆ウイグル自治区のイスラム教徒が中国政府に弾圧されていることを訴えた動画がTikTokにより削除され、女性のアカウントも停止されるという事件もありました(のちにTikTokはこれをミスとして謝罪、復旧させました)。

これが大きく報道されたことも、TikTokと中国政府の強い結びつきを感じさせることとなり、TikTokへの不信を強めることとなりました。

当然ながら、中国政府はこのトランプ大統領による使用禁止措置に一貫して強く反対しています。

しかし米国は中国政府を安全保障上の脅威とみなしており、例えば次世代通信規格「5G」においても華為技術(ファーウェイ)を含めた中国系企業の機器やサービスを利用する企業と米政府機関との契約を禁止する規制も施行しています。

TikTokに対する今回の措置も、そうした米中対立という大きな枠の中で起きている事象だといえるでしょう。

マイクロソフトは買収相手に選ばれなかった

トランプ大統領の禁止措置が発表されて以来、TikTokは当然ながら米国での事業継続を模索していました。

その中で噂レベルまで含めると、TikTok米国事業のソフトバンクによる買収案、マイクロソフトによる買収案、Twitterによる買収案などがありました。これ以外にも投資銀行などによる買収提案などもあったようです。

TikTokの米国事業を米国の企業が買収し、経営も運営も北京本社から切り離してしまえば、中国政府との結びつきを断つことができるため米国での事業継続が可能になります。

しかしこの案はByteDance社と(そしておそらく中国政府にとって)あまり旨味のある話ではなかったようです。

買収提案をした企業のなかで最有力とみられていたマイクロソフトは、9月13日に自社が買収相手に選ばれなかったと、コーポレートブログに投稿した記事「Microsoft statement on TikTok」で「ByteDance let us know today they would not be selling TikTok’s US operations to Microsoft.」(ByteDance社は、同社が米国事業をマイクロソフトへは売るつもりはないと知らせてきた)と表明しました。

これにより注目が高まってきたのがオラクルによる提携案でした。

オラクルによる提携案の具体的な中身

オラクルによる提携案は次の2つから構成されます。

1つは、TikTok米国事業において使われるデータセンターがOracle Cloudになる、ということです。これによりTikTok米国事業で取得したデータは米国内のデータセンターに置かれることになるはずです(米オラクルの発表「Oracle Chosen as TikTok’s Secure Cloud Provider」)

もう1つは、TikTok米国事業を運営するために新会社「TikTok Global」が設立されるということです。

新会社は、米オラクルが12.5%、米ウォルマートが7.5%の株を保有し、合わせて20%の株主であることが明らかにされています。それ以外の株主構成は明らかになっていませんが、過半数は米国の投資家で構成され、米国に本社を置く独立した企業になるとのこと。下記は米オラクルの発表「Oracle and Walmart Announce Tentative U.S. Government Approval」からの引用です。

TikTok Global will be majority owned by American investors, including Oracle and Walmart. TikTok Global will be an independent American company, headquartered in the U.S., with four Americans out of the five member Board of Directors.

TikTok Globalはオラクルとウォルマートを含む米国の投資家が過半を保有する予定である。TikTok Globalは独立した米国企業となり、本社は米国に置かれ、取締役5人のうち4人が米国人となる。

さらに新たに2万5000人の雇用を生み出し、50億ドルの納税も新たに発生するとされています。同社は米国市場での株式公開も予定しています。

こうしてみると、オラクルによる提案はおそらくTikTok Globalの取締役の席の1つをByteDance社が得られ、また株主としても多少のシェアを持つことができる、という構図になっているようです。

ByteDance社としては、米国事業が買収されて完全に失うよりも、こちらの方がましだと考えたのかもしれません。

そしてトランプ大統領も、中国政府に強気に出た結果TikTokが得たデータが中国政府に悪用される心配がなくなり、しかも雇用と税の増収が得られたことを次の大統領選でアピールできるという点で、この案に暫定承認を与えたのだとみられます。

おそらくこれから、このスキームで問題ないかどうかが米政府によって詳しく検討され、正式な承認が下りることになると思われます。また最終決定には中国政府の承認も必要となります。

なぜオラクルはTikTok米国を取りに行ったのか?

さて、コンシューマ向け事業を持たないオラクルが、コンシューマ事業そのもののTikTok米国事業をなぜ取りにいったのか、ここまでの説明でおおむね想像がついたのではないでしょうか。

それはTikTok米国事業の運営に必要なワークロードをOracle Cloudで獲得したかった、ということでしょう。

クラウド市場で先行するAWSやMicrosoft Azureに追いつくためには、Oracle Cloudの規模拡大がオラクルにとって急務です。そのためにはデベロッパーやエコシステムを通じて案件を獲得するだけでなく、大口顧客を獲得することが重要です。エンタープライズ向けビジネスを得意とする同社にとっては特にそうでしょう。

米オラクルは急成長著しいテレビ会議サービス「Zoom」のバックエンドとしてOracle Cloudが採用されたことを4月に発表していますが、今回もそうした大規模ワークロードをまとめて獲得できる大きなチャンスだと考えたはずです。

参考:Zoom、わずか4カ月で参加者が1000万から3億超へ。急増への対応でOracle Cloudへインフラを拡張。AWS、Azureに加えて

その面で、今回のTikTokの案件は、同社が苦手なコンシューマ向けサービスの運営は新会社「TikTok Global」に任せることができ、同社はその大株主として安定的にOracle Cloudのバックエンドとしての利用を維持できるというのは、よく考えられた提案だったのではないかと思います。

また、もう1つ追加の理由も考えられます。

それは、オラクル創業者であるラリー・エリソン氏はトランプ大統領の支持者である、という点です。今年の2月には、エリソン氏がトランプ大統領のための資金集めパーティを行ったことも報道されています。下記はBusiness Insierの記事です。

大統領選の重要な時期に、トランプ大統領が受け入れやすいスキームを提案し成功させることをエリソン氏が考えた、というのは少し考えすぎでしょうか。

このエントリーをはてなブックマークに追加
follow us in feedly




カテゴリ

Blogger in Chief

photo of jniino

Junichi Niino(jniino)
IT系の雑誌編集者、オンラインメディア発行人を経て独立。2009年にPublickeyを開始しました。
詳しいプロフィール

Publickeyの新着情報をチェックしませんか?
Twitterで : @Publickey
Facebookで : Publickeyのページ
RSSリーダーで : Feed


最新記事10本