パネルディスカッション:クラウド時代にSIはこう変わる。JAWS DAYS 2013(前編)

2013年3月18日

クラウドに積極的に取り組んでいるシステムインテグレータたちは、お客様の声をどう聞き、どのような戦略で望もうとしているのか。3月15日に都内で行われたAmazonクラウドのイベント「JAWS DAYS 2013」では、クラウドにフォーカスしたSIを展開する3社の代表が登壇し、「クラウドファースト時代に求められるシステムインテグレータ像とは?」というテーマでディスカッションを行いました。

fig 左から、司会のアマゾンデータサービスジャパン ソリューションアーキテクト 片山暁雄氏、サーバーワークス 代表取締役 大石良氏、SCSK クラウド事業本部 瀧澤与一氏、日立製作所 情報・通信システム社 クラウド担当本部長 中村輝雄氏

パネラーの大石氏はAmazonクラウド専業のSIerであるサーバーワークスの社長、瀧澤氏はSCSKのクラウド事業の中心人物、日立製作所の中村氏はクラウド事業の責任者です。

ディスカッションの内容をかいつまんで紹介しましょう。

社内の軋轢(あつれき)があっても黙らせる(笑)

片山氏 今日はシステムインテグレータの3社に来ていただきました。私はモデレータの片山です。最近、エンタープライズソリューション部というのができまして、その部長になりました。

まずは3社のみなさまに、それぞれクラウドへの取り組みを始めた理由をお伺いします。

大石氏 最初にAWSに触ったのは2007年でした。私たちは大学向けに合格発表のシステムを提供していました。合格発表というのは発表の日の朝10時から11時のためだけにWebサーバを200台くらい必要でした。

これをどうにかしようとエンジニアが見つけたのがAWSで、これはすごいと。で、2008年には社内でサーバ購入禁止令を出して、社内のシステムやサービスをどんどんAWSに乗せていきました。これがうまくいって、ビジネスになると。そこで2009年からAWS一本でビジネスをしようということにしました。

瀧澤氏 私は2009年頃に技術開発部にいまして、クラウドでこれからITが変わっていくと、5年以内にクラウドがITの中核になるのではないかと予想していました。そこで、我々自身もデータセンターを持っていて、AWSのようなパブリッククラウドとのハイブリッドになるのではないかと。なので両方の管理や移行することを考えたツールを作ったり、社内の説得などをしてきました。

中村氏 僕は日立の中でエマージングなテクノロジーをやる人に結果的になっていまして、90年代はWideをやったり、Javaは94年から始めていたり。クラウドも、クラウドという言葉がなかった2006年あたりから自前でやり始めていました。

日立としてはいろんなお客様がいらっしゃるので、我々の得意なところは自社でやりますが、スケーラブルなところやグローバルなところはAWSを使うとか、ハイブリッドでやればいいと思っています。

片山氏 例えば、既存のデータセンターがあるとクラウドビジネスとぶつかるといった心配があると思いますが、そういう声はないのですか?

中村氏 社内にはそういう意見も多いですが、私が4月からクラウドの責任者なので、あっても黙らせてやろうと思います(笑)。

AWSのビジネスが8倍に(大石)、引き合いの過半数がクラウド(瀧澤)

片山氏 そもそもこのパネルをやろうとした理由は、日経コンピュータで「クラウドファースト」という特集が先日組まれまして、ユーザー企業が「クラウドを使いたい」というような時代になってきたと。

そういう意味でエンドユーザーの動向をみなさんにお伺いしたいのですが。

大石氏 弊社の2012年のAWS事業は、2011年の8倍になったんですね。それだけ2012年はインパクトがあったんです。「AWSを使いたいので、できる会社を探している」というお客様が増えています。

いままではインダストリーカットで流通業や製造業といった業種がクラウドに積極的だと言われていましたが、2012年はもうインダストリーカットではありません。共通しているのは「新しい技術を使って、やりたいものを実現しよう。運用で苦しんでいた部分をAWSで削減し、その分新しいチャレンジをしよう」というお客様がクラウドを使い始めています。

瀧澤氏 流通、製造、サービス業などはクラウドに積極的だと思います。金融や文教は自分でデータセンターを持っていることが多く、クラウドに積極的ではないと思われてきましたが、そういうところでもAWSを使うとメリットがあるのではないかと模索し始めているようです。

IR的に明確に数字は出せないのですが、私たちは2009年ぐらいからAWSのビジネスを始めていて、また自分たちのデータセンターでもサービスを提供しています。実は2009年からずっとAWSを含む共有型クラウドの引き合いの比率は上昇し続けていて、ついに半数以上になりました。引き合いの時点でこれくらい数が増えているというのを実感しています。

中村氏 去年の夏くらいに潮目が変わったと思っています。それまではプライベートクラウドで仮想化しましょう、というのがほとんど。大手のお客様はそうでした。それと、パブリッククラウドではセールスフォース・ドットコム。このどちらかでした。

しかし去年の夏あたりからパブリッククラウドを本当に真剣に考えるお客様が非常に増えてきた。比率で言うと全体の売り上げのだいたい半分くらいが本番システム、基幹システムでクラウドを使っておられます。残りの半分が開発環境で、残りがデスクトップ仮想化のDaaSで使われている。この一年で様変わりしています。

片山氏 原因だと思い当たることはありますか?

中村氏 たぶんAWSにしても社内で試しに使っていたんだと思います。それが結構使えるじゃないかという評価が去年の夏くらいにあったのかなと。それからゴーがかかって引き合いが増えているのかなと思います。

片山氏 私も一昨年の頃はまだ案件の種まきをしていて、去年半年くらいかけて検証して、使えるようになったと考えるお客様が多いと感じています。

中村氏 あと最近多いのはSAP on AWSで、SAPの開発環境にトライしようというのが増え始めたようですね。

「どれだけ作らずに済ませるか」に尽きる

片山氏 どういう領域でエンタープライズのお客様が増えたと思いますか?

大石氏 ハードウェアのリースアップが来たのだけれど、ソフトウェアを延命させるためにAWSを使いたいというお客様が多く感じます。お客様は私たちが思っている以上にアプリケーションを作りたがらないようです。とりあえずいま動いているものを使い続けたいが、ハードウェアのリースアップが近づいているのでAWSで解決したいと。

瀧澤氏 開発環境として試すお客様が多いようです。そこで試してから本番環境へ移行しますという宣言をされていて。あるとき急にお客様の利用料金が増えたことがあったので、「どうしのですか?」と聞くと、「本番で使うように移行しました」とおっしゃいますね。

片山氏 そうしたクラウドの利用が増えていく中で、クラウドを使った提案というのは避けて通れないと思いますが、SIerの戦略はどう考えていますか?

大石氏 私たちはAWS専業なのでAWSを使うのが前提になりますが、RFPが出てきたときに本当にそれが作らなくてはならないものなのかどうか。セールスフォース・ドットコムやGoogle Appsでできないのか、クラウドとクラウドをつなげることで、できるだけ作らずに実現できるように提案しています。

とにかく、お客様の成功は、どれだけ作らなくて済むか。そこに尽きると考えています。

中村氏 既存のシステムをバイナリコピーで持って行く場合。これは以外とウチのクラウド環境がよく使われています。理由は2つ。1つはMicrosoft Cluster Serviceが使われていて、これとクラウドは相性がよくないので、そこは我々がケアしたり。あるいはロードバランサーは特に日本ではF5のBIG-IPがシェアを持っていて、ここにアルゴリズムを組み込んでたりするとそのルールを変えたくなくて、ハードウェアを持ち込むためにハウジングしましょうということになって我々がやったりします。

でもシステムを新しくするのであれば、じゃあAWSを試してみよう。こういうのが我々の戦略というか、住み分けをしているのが実態です。

瀧澤氏 うちがAWSを提案するときは、結果的には開発するアプリと一緒に提案することが多いですね。7割くらいは開発と連動した案件になります。レガシーの移行や保守更改があるのでクラウドへというのは、むしろウチのデータセンターに移すことが多いです。

理由は結構明確で、いろんな事情で運用を変えることがなかなかできないと言われるお客様が多い。AWSにするとAWSに沿った運用にしなくてはいけなくて、そうすると人員配置に影響するので、その決断ができないのですね。そこで私たちのデータセンターを使って運用はいままでと同じようにやって、ということです。つまり、新しくアプリを開発する案件はAWSで、レガシーの移行はウチのデータセンターへというのが多いです。

片山氏 提案のスピードはどうですか?

中村氏 RFPが出てから提案までが早くなっているのは実感します。なぜかというと、クラウドって標準品を流用するから早いのであって。これまでのシステムでは、例えばCPUのコアをいくつにしますか、メモリを何ギガバイトにしますかと、それなりの時間をかけて見積もっていますが、そこはクラウドで型にはめられるようになると提案スピードは速くなるわけで、そういうお客様のマインドの変化は感じています。

≫続く後編ではグローバル展開の可能性、必要な人材についての議論。

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Junichi Niino(jniino)
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