プログラマを一生の仕事にできるビジネスモデルで目指す未来のビジョン(SIビジネスの本質編)

2011年11月21日

SIビジネスの本質は保険屋であり、受託開発でアジャイル開発が失敗するのは受託開発が製造業だから。11月19日に行われた楽天テクノロジーカンファレンスでの講演「プログラマを一生の仕事にできるビジネスモデルで目指す未来のビジョン」では、ソニックガーデン代表取締役社 倉貫義人氏によるこのような示唆に富む内容が語られました。

さらに倉貫氏は、ソニックガーデンで行っているクラウド時代の受託開発の新しいモデルについても詳しく紹介しています。

同氏の講演の内容を、配信されたUstreamの動画を基にして紹介しましょう。

プログラマを一生に仕事にできるビジネスモデルで目指す未来のビジョン

ソニックガーデン代表取締役社長 倉貫義人氏。

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倉貫です。今回のオファーをいただいたときに「技術者の人が元気になるような話をしてほしい」というのがあって、私自身がずっとエンジニア、プログラマやマネージャ、営業などいろいろやってきて、いまは経営者をやっているのですが、エンジニアやプログラマが幸せなキャリアを積むのにはどうすればいいのか、自分なりに考えたことをお話しできたらいいかなと思っています。

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私は学生時代に大阪の学生ベンチャーでプログラミングをしていたんですね。これがすごく楽しくて、給料は学生にしてはすごくもらえるし、作ったプログラムを使ってもらえて、腕は磨けるし。

それでプログラマっていいなあ、プログラマの仕事を続けていこうと。じゃあそれができる会社をさがそうと就職活動をして、大手のSIerさんに就職しました。

それが99年当時だったのですが、当時のSIerは技術よりマネジメントだ、という経営方針の転換があったりして。でも、プログラミングができると「君はプログラミングができるのか、じゃああのプロジェクトが火事になっているので行ってくれないか」と。

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当時私はちょっと天狗になっていまして、プログラムでなんでも解決できると思ってました。私はガンダム世代なので自分のことをアムロだと思っていて、一年戦争を終わらせるのは自分だと思っていたんですね。

でも、一億円二億円規模のプロジェクトをプログラマの力だけで終わらせるのは無理なんですね。プログラマとしてここで挫折するわけです。

じゃあどうすればいいかと、社外の勉強会で出会ったのがXP(「XP エクストリーム・プログラミング入門」)という本、そして平鍋さん(アジャイル開発の第一人者 チェンジビジョン代表取締役社長 平鍋健児氏)という人に出会って。XPの本を読んでみると、私がベンチャーでやってたこととまったく一緒なんですね。

これは私がやろうとしていたやり方だなと。XPを広めよう、広めたい、という風に思ったわけです。

でも社内ではアジャイル開発をしようとしても賛同者はぜんぜんいなくて。

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もう会社を辞めようかなとも思いましたが、会社は続けながら勉強会に参加しようと思い直して、いろいろ勉強会に参加しました。

で、そうすると「脳のブレーキを壊す人との出会い」というのがあって。つまり、それまでは本を書くとか講演をするというのは自分の人生に関係ないと思っていたんです。でも勉強会でそういうことをしている人と出会って、お酒を飲んだらそういう人も普通のおっちゃんだということが分かる。

すると、自分の人生の延長線上でもそういうことができるんじゃないか、と思えるようになるんです。脳のブレーキを壊すというのは、会社の中で半径3メートルくらいの知り合いとだけ仕事をしているとそこの常識がしみついてしまって、自分で勝手に限界を決めていて、それ以上のこと考えられないけれど、社会の勉強会に出てみるとそういうことができるんだというのを、自分に許可することができると。

会社から外に出て、ブレーキが壊れると自分でもできるかなと思って、本を書いたり講演したりをやっていく。すると、また情報が集まっていろんなことができるようになるんです。

なので、ぜひみなさんも外に出て行きましょうという話

会社にチームを解散させられる

社会人2年目くらいのとき、社内にはアジャイル開発の賛同者もいないし、もう会社を辞めてフリーランスでやっていこうなと思っていたのですが、採用してくれた当時の専務から、会社は辞めるなと、「辞めても大きな会社のパートナーとか下請けで仕事をすることになってつまらないよ」と言われました。

で、「どうせ辞めるのならその前に、仲間がいないなら仲間を捜しなさい、それから有名になりなさい」と。「辞めたあとコンサルでもビジネスするのでも、有名にならないと、必ず仕事を探すことになって下請けになってしまうから」と言われました。そうしたら会社を辞めてもいい、というアドバイスをもらって、じゃあできるところまでやってみようと思って、会社の中でいろいろなことをチャレンジしてきたんですね。

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ということでチームをつくって社内にアジャイル開発を広める、というミッションを持ってやっていたんです。部下も20人くらいついて、なかなかいいなと、これから出世かなと、思ってたんですけど、サラリーマンの宿命で人事異動というのがあって。

社内で大きなプロジェクトが始まってたくさん人が必要なのでとっていくよとチームを解散させられて、新入社員一人と私だけになった。これはマネージャとしても挫折したな俺はと、やっぱり会社を辞めようと。

でも転職するならプログラマがいいなと。

でも大きな会社なのですぐに辞める必要もなくて、その前にプログラマとしてのスキルを磨こうと。Javaはもうみんなやっているので、Rubyだったらだれもやってないので先に行けるんじゃないかなと。

それから、もう受託開発はやらずに社内システムの開発をしようと、いろいろチェンジしたのがこの年ですね。

SIビジネスの本質は保険屋だ

なぜ受託開発をやめたかというと、アジャイル開発が受託開発の中でうまくいかないんですね。

プログラマだからうまくいかないのかと思ってリーダーをやってみましたが、うまくいかないと。マネージャをやってみたけどうまくいかないと。営業で仕事をとってくるところかなと営業もやってみたんだけどうまくいかないと。

ではなにが悪いのかというと、受託開発というビジネス構造が悪いのではと思うようになりました。

いわゆる金額が決まったなかで、ものを作るという構造になっていると、価値を作ることよりも完成させること、要求通りに作ることが大事になっちゃう。

SIビジネスの本質って、保険屋なんですね。

客がお金さえ出せば、あとはSIerが赤字になろうと最後まで責任を持ってくれる、この要件に対して5000万円と決めたら、あとはSIerが最後まで責任を持って開発してくれる、つまりは保険ビジネスがSIビジネスの本質になっているんじゃないかと。

そうすると、リスクを丸抱えする体力のある企業が有利になる。だとすれば、私が大きなSIerの経営者なら、いま起きていることですけれども、合併するとか企業を大きくする方向に動いちゃうだろうなと思っています。

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技術者から見たSIビジネスでは、人月による見積もりをしているけれど、成果物の完成責任でお金をもらっている。これおかしいですよね。ねじれちゃってる。

例えばブランドものを買うと、それを作る職人さんがどれだけ働いているから、ではなくて、ものの価値でお金を払っています。逆に弁護士だったら何時間働いてくれたかで払う。SIビジネスでは、これがくっついちゃってるのが問題だなと。

くっついちゃうと何が起きるかというと、プログラマの生産性があがればあがるほど売り上げが下がる。それコンペで負けますよ、という話もあるが、みんながそれをやっていたら意味がないかなと思ってます。

そんな一括受託からは足を洗おうと、社内システムの開発でアジャイル開発をしたら、それがすごくうまくいったんですよね。リリースして社内から要望をもらって、それをもとによくしていくと。私がプロダクトオーナーをやって自分で作る。要件を変えても誰も文句を言わないし、社内の評判も上がって、一回は出世をあきらめたのですが、また出世するかなあと思ったり。

解散の危機、再び。会社はドラクエだ

ところが第2の契機。

やっぱり人が足りないと会社から言われて部下の異動をさせられる。せっかくいいチームを作っても解散させられるんだな、サラリーマンであるかぎりの宿命なのかなと。

社内システムはコストセンターなので、売り上げを上げるチームが足りないと人がとられてしまうので、自分たちで売り上げを上げるよう事業を立ち上げたら解散させられることもないだろうと。じゃあ事業を立ち上げようと。

それからオープンソースにしてこうと。そうするとソースは公共のものなので会社を辞めても続けられるかなと。

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それから半年くらいかけて、オープンソース化の決裁を会社に通しました。

でも一介の課長が会社の事業をどうとか、資産をオープンソース化するとか、どうすればいいのかよく分からないですよね。で、いろんな人と相談しながらレベルをあげながらやっていく。

ドラクエのつもりで楽しむことだと思うんです。

例えば部長にまず相談しに行きますよね、するとテキストファイルみたいな企画書だったのが、この方がいいぞと新しいフォーマットをもらえるとか、いい資料をくれたりとか、どんどん武器が強くなっていく。

サラリーマンはドラクエなので、最終的に失敗しても教会に帰れる。独立してドラクエやってると本当に死んじゃうので、サラリーマンのうちにやるといいと思います。

そういえば、オープンソースの決裁で社長までいって最後社長と対決するんですね、で、人件費合わせても300万円もあれば十分だという計画書を持って行ったのですが、社長はそんなんでいいのか、3000万円くらい出そうかっていうんですよね。

そういわれると3000万円でなにできるかなとかちょっとニヤけちゃうんですが、そのときドラクエ1が脳裏をよぎって。

ドラクエ1では最後に竜王が世界の半分やるから仲間になれ、って言うんですね。でもここで半分もらうとゲームオーバーになる。これは3000万円もらうとやばいなと、安いお金でオープンソース化したのでよかった、だからMBOできたのかなと思います。

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次の記事「プログラマを一生の仕事にできるビジネスモデルで目指す未来のビジョン(クラウド時代の受託開発編)」に続きます。

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Junichi Niino(jniino)
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