クラウドの価格競争で「いずれIaaSは1日100円を切る」と予想するIIJが、Amazonクラウドに対抗する理由

2010年8月2日

「Amazonは1日あたり2ドル(1ドル90円換算で約180円)だから、IIJ GIOは価格面でも競争力はある。ただし、価格競争は今後さらに激化すると考えている」

インターネットイニシアティブ(IIJ)のマーケティング本部 GIOマーケティング部 副部長 小川晋平氏は、月額4000円、日割り課金で1日約133円のホスティングサービス「IIJ GIO」のブロガーミーティングでこう語りました(参考:AmazonクラウドのSmallインスタンスは1時間あたり0.085ドル。24時間で2.04ドル)。

IIJはAmazonクラウドに対して価格競争を行うつもりでいるのです。

Amazonクラウドはその規模の経済から圧倒的な価格競争力を持つことは明らかですが、なぜIIJは体力勝負ともいえる価格競争をしてでもAmazonクラウドに対抗しようとしているのでしょうか? そしてどのようにそれを実現しようとしているのでしょうか?

その前に、簡単にIIJ GIOの概要を把握しておきましょう。

IIJ GIOの概要

IIJ GIOは複数のラインナップから構成されます。

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プラットフォームサービスとして提供されるホスティングとして、仮想サーバとCentOS、インターネット接続だけの「ベーシックプラン」、もしくはこれに加えてApacheとvsftpdによるWebサーバ/ftpサーバ機能が利用可能な「Webプラン」が月額4000円から利用可能。料金は日割りで計算されるため、最小で1日あたり約133円からとなります。

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利用者がGIOのコントロールパネルから設定すれば、すぐに(実際には20分程度)サーバのインスタンスが立ち上がってくるのはAmazonクラウドと同様です。数百台といったインスタンスを次々に立ち上げることができます。

ただし法人利用が前提となっているため、AmazonクラウドのようにクレジットカードがあればWebからサインアップというわけにはいきません。まずIIJと法人取引契約を結んだあとで、コントロールパネルのIDを発行してもらい、そこからGIOを利用するということになります。

新規契約から利用開始までは約2週間かかるそうですし、課金は月額ベースですから、IIJ GIOを「クラウド」と呼ぶべきなのかどうかは議論が分かれるところでしょう。僕自身もIIJ GIOはクラウドというより、企業向けの柔軟なホスティングサービスと表現するのが妥当ではないかと思います。

しかし重要なのはこれがクラウドかどうかという点ではなくIIJ GIOがAmazonクラウドと価格面で対抗しようとしていることです。まず、IIJは「どのようにして」価格競争を挑もうとしているのか、その点をみていきましょう。

IIJはクラウドの価格をどうやって下げるのか?

クラウドは「規模の経済」が働くといわれています。規模が大きいほど大量のサーバを安く購入でき、インターネット回線の価格交渉力が上がり、電力を安く購入でき、運用コストも安くできるためです。

そのクラウドのコスト構造と、そのコスト構造の中でどこで規模の経済が強く働くのかをIIJが示した図が下記です。

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特に規模の経済が働くとされているのが、運用に関わる人員コスト、そして運用システムにかかるコスト、データセンターの電気代、データセンターの土地や設備にかかるコストとされています。

IIJではこれまで、運用をできるかぎり自動化、効率化し、同時にプロビジョニングや監視のためのソフトウェアの社外調達をやめて内製にするなどで、運用にかかるコストを50%削減。さらに、ハードウェアや基本ソフトウェアの部分では大規模調達とオープンソース化などにより40%削減してきたと説明しています。

この2つについては今後さらに10%ずつ削減するとしていますが、これから大きくコスト削減を目指しているのがデータセンターの電気代や設備にかかるコストです。そのために、新たなデータセンターが必要だとしています。

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IIJの新たなデータセンターは、高密度にサーバが詰まったアルミ製コンテナを地面に並べるだけで設置できるモジュール型のデータセンターで、外気冷却により極力エアコンを使わないようになっています。コンテナには別途電源ユニットが必要です。

これにより大規模な建築物が不要になり、迅速にしかも少しずつデータセンターの立ち上げや拡張が可能で投資が回収しやすく、エアコンをほとんど使わないために電力効率も非常に良いとしています。複数の地域に分散したデータセンターの立ち上げも容易です。

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IIJはすでにこのモジュラー型のデータセンターの実用化に向けて実証実験を中部地方にて2月から行っています。

なぜ中部地方なのかといえば、原子力発電所の電力を使うことで電気料金の優遇措置を得られるのが大きな理由とのこと。また、寒冷地の方が冷却には向いているようにも思えますが、温度が低すぎる外気は機器が結露しないように廃熱気と混合してから利用することになるため、寒冷地だから一概によいとはいえないのだそうです。

規模の拡大によるコスト削減も

IIJはこうした施策によってクラウドのコスト削減を実現するだけでなく、規模の拡大についても当然ながら考慮しています。1つは国内市場での拡大です。

IIJの小川氏は、過去には自前でインターネット接続を提供していた中小のISPプロバイダが徐々に自前を捨ててIIJのような大手のISPプロバイダのインターネット接続を再販するようになった例を挙げ、国内でのクラウドやホスティング需要に対して、ブランドは他社でも実体としてIIJのサービスを利用するようなビジネスモデルによって規模の拡大を狙っていると発言。

そしてもう1つはアジアへの進出です。これも規模の拡大にとって欠かせないと小川氏はいいます。

IaaSで生き残らないと儲かるビジネスにつながらない

小川氏は同時に、IaaSは儲からないビジネスだといいます。これまでみてきたように、IaaSは規模の拡大とコスト削減を徹底的に追求するフェーズにあり、しかもグローバルで競争しているためです。

ではなぜIIJは、儲からないIaaSビジネスにまい進するのでしょうか?

小川氏は「運用などの付加価値サービスは儲かるから」と説明してくれました。IaaSで(あるいはホスティングというビジネスで)生き残ることこそ、こうした付加価値を提供するビジネスに参加できる権利をもたらすということ。しかも運用などの付加価値は、自動化、システム化による効率を上げることで今後もさらに利益率を高めていく余地が多くあります。

そのために、IaaSは価格競争をしてでも戦う価値があるというのです。

しかもIIJは日本最大級のインターネットサービスプロバイダであり、データセンターから回線まで統合した品質を保証するポテンシャルがあります。これは、いまのところデータセンターレベルの品質だけが保証の対象で、途中のインターネットの障害や品質低下については責任を持てないクラウドベンダとの大きな差別化になるはずで、同社にとってはここもクラウドへの付加価値の余地があるといえます。

Amazonクラウドに価格で対抗するとはいえ、IIJ GIOが法人だけを対象とし、使い始めるには法人取引契約が必要で、しかも課金は月額というクラウドらしくないものになっているのには、こうしたビジネス上の戦略があるためだと思われます。

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タグ : Amazon , IIJ , クラウド



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