Publickeyを通じて僕が実現したい「小さなメディアの可能性を広げる」ということ

2009年8月3日

Publickeyがオープンしてもうすぐ半年。ありがたいことに読者も少しずつ増えてきました。

Publickeyで僕が実現できたらいいな、と思っているのは、小さなメディアの可能性を広げることです。しかしそれがどんなものなのかを具体的に説明したことがなかったので、このエントリではその「小さなメディアの可能性を広げる」ということについて説明しようと思います。

新野が会社を辞めた理由

まず最初に、なぜ僕が会社を辞めたのか、という理由を書かせてください。それがこのあとの、Publickeyで実現したいことにつながっています。

僕は2000年に株式会社アットマーク・アイティの設立に参加して以来、ずっとWebサイト「@IT」の編集責任者でした(肩書きはときどき変わりましたが)。同社は2005年にソフトバンク・アイティメディア株式会社と合併してアイティメディア株式会社となり、2007年に東証マザーズに上場するなど、順調に成長してきました。

アットマーク・アイティを設立する前、2000年以前の僕はフリーランスとして雑誌の編集やライターをしていました。フリーランスという身分はかなり気に入っていて、@ITを立ち上げたときからずっと、いつかはまたフリーランスに戻って仕事をしたいという気持ちを持っていました(参考:佐々木俊尚さんによる僕へのインタビュー「ノマドスタイルとPublickeyとひとりで起業すること」)。

ですから、僕が会社を辞めた理由の半分は、実はそもそも長い期間会社員として働くつもりがなかったためです。とはいえ自分で立ち上げた@ITにも愛着があって、投げ出すような形で辞めたくはなかったので、2006年4月に社長と会長に退職の意志を告げて退職準備を始め、その1年後に株式公開があり、実際に辞めたのが昨年、2008年の6月でした。

会社を辞めたらフリーランスに戻るつもりでいましたが、2006年頃から少し考えが変わってきます。2006年8月に書いたブログのエントリ「オンラインメディアでも破壊的イノベーションが始まったのだ、恐らく:Randomwalk:ITmedia オルタナティブ・ブログ」にはすでに、いまのPublickeyを意識したことを書いています。

このときどんなことを書いたのかというと、TechCrunchGizmodoのような、ブログをプラットフォームにして少人数で運営するメディアがオンラインメディアの新興勢力として登場してきている。彼らの武器は身軽さと低コストだ、ということです。このエントリで僕はこう書いています。

新興勢力はうらやましくなるほど身軽に見えます(僕は老舗側にいるのです!)。

新興勢力側に立ってメディアを立ち上げてみたい、会社を辞めてチャレンジしたい、と考えたのが、会社を辞めたもう半分の理由です(参考:Higuchi.comのエントリ「ブログメディア事業のフレームワークを探す旅 [Publickey] - higuchi.com blog)。

1つ目のハードルは規模

そして退職から約9カ月。2009年2月26日に立ち上げたのが、この「Publickey」です。以前から考えていたとおり、ブログをプラットフォームとし、少人数(というか一人)で運営するメディアを作りました。

しかしメディアを立ち上げればそれで何もかもうまく行く、などというほど甘くないことはよく分かっています。僕自身、このメディアを成功させるために越えるべき2つの大きなハードルがあると考えています。

1つめは規模のハードル。単純にいえばページビューの大きさです。

小さなメディアを低コストで運用するモデルを目指すとはいえ、何らかのビジネスとして売り上げをあげるにはある程度の規模が必要です。いままでの経験からして、ざっくりと月間100万ページビュー程度、少なくとも月間50万ページビューは越えなければ、自分の食いぶちもまかなえないだろうと想像しています。

いま、5カ月かけてようやく月間10万ページビューに達したところですから、最初のハードルを越えるにも、まだ時間と手間をかけなければと考えています。

ただしやみくもにページビューを追うつもりもありません。例えばライフハック系とかガジェット系に手を出せば今より容易にページビューを増やすことができると思いますが、いまのPublickeyが狙っている専門性の高いテーマを維持していくつもりです。その理由は、次に説明する2つ目のハードルに関係しています。

2つ目のハードルは収益モデル

2つ目のハードルが、収益モデルのハードルです。

小さなメディアでは営業担当などいないので、収益化の方法として着手しやすいのはグーグルのAdSenseと、アマゾンや楽天などのアフィリエイトでしょう。しかしこれらで得られる収益はそれほど大きくありません。ところがそれを超えて収益を追求しようとすると、営業組織が必要になってしまいます。そうなれば、低コストで身軽な小さな組織の利点が失われていくことになります。

小さな組織を維持したまま収益を向上させるには、営業力を持つ組織との連携が必要です。

米国では専門性の高いブログを収益化する手段として、「ブログネットワーク(あるいはアドネットワーク)」が発達しています。ある分野に絞ってブログを集め、まとめて広告を獲得して収益をシェアするのです。Federated Media PublishingIDG TechNetworkなどがよく知られています。特にIDG TechNetworkは参加サイトの品質をチェックしていて、それが成功の要因の1つといわれています(参考:メディア・パブ: オンラインシフトで成功した技術出版社IDG、景気後退にもかかわらず売上伸ばす)。

日本でもアジャイルメディア・ネットワークがブログネットワークを始めていますが、まだ専門性の高いブログが日本にほとんどないという事情もあって、米国ほど成功しているわけではありません。

Publickeyの収益化を実現するために日本のブログネットワーク、特に専門性の高いブログを集めたアドネットワークを活性化させる。これが僕が考える2つ目のハードルです。これはさすがに一人でできることとは思っていませんので、Publickeyがその呼び水となればいいと考えています。そして、やがては日本でも米国のような状況になるはずだ、と僕自身は信じています。

日本でもブログネットワークは必ず登場する

なぜかといえば、編集によって作られるメディアというものは、おおむね労働集約的なものだからです。そしてそのようなメディアを基盤にビジネスを例えば毎年20%ずつ成長させようと思ったら、おおむね労働力も20%ずつ増やさなければなりませんが、現実には編集スタッフを20%ずつ増やしても戦力になるまでの期間が必要ですし、立派な編集者になってくれたとしても、それで売り上げが20%増える保証はまったくありません(もちろんメディアビジネスを成長させるにはそれ以外の方法もたくさんありますが、話が長くなるので割愛します)。

ですからメディアビジネスをしている企業がより早く確実に成長しようとするとき、社内のリソースだけに頼らず社外のメディアを巻き込んでいくことを真剣に考えるのは必然だと考えています。

Publickeyの存在によって、ブログネットワークの実現が少しでも早く、活発になるように、頑張るつもりです。

メディアを作れる、というチャンスを増やしたい

専門性の高いブログを集めたブログネットワークがいくつも登場して活発化してくれれば、よいコンテンツを作れるけれど営業は苦手という人や組織、専門的なコンテンツは得意だが専門性ゆえに規模は大きくならない、といったニッチなブログメディアでも、ビジネスとして成立する可能性が高まります。

いま旧来の大きなメディアは傾きかけていますが、一方で小さなメディアは可能性が広がろうとしているのです。その可能性の広がりを追求していきたい。

それによって、傾いていく大きなメディアの新しい受け皿ができて、メディアに健全な競争が増え、読者もいままで読めなかったような専門性の高い有益な情報が多く提供される。メディアを作りたい人のチャンスが増える。そういう状況を実現すること。実現には何年かかるのか分かりませんし実現できるのかどうかも分かりませんが、これが僕が Publickeyを通じて実現できたらいいな、と思っていることです。

まだまだ先は長くて、1年かかるか2年かかるか3年かかるのか分かりませんが、コツコツと努力していくつもりです。ぜひ今後とも応援を、例えば気になる記事はソーシャルブックマークしていただくとか、Twitterでつぶやいていただくとか、ブログで紹介していただくとか、もちろん心の中で応援していただくだけでも嬉しいです。今後ともよろしくおねがいします。

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タグ : メディアの未来 , 編集後記



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