PublickeyのIT業界予想2026。メモリ高騰による消極的なクラウド選択、AIエージェントを前提とした開発方法論、Rust採用の広がりなど
2025年を振り返ると、生成AIに始まり生成AIに終わると言っても良いほど話題の中心のほとんどに生成AIがあった年でした。
2026年も生成AIが注目されることは間違いないと思われますが、その位置づけは2025年とはまた少し違ったものになるはずです。そして生成AI以外にもIT業界には注目すべき動向がいくつも存在します。

果たして2026年はIT業界にとってどんな1年になるのでしょうか。期待を込めて予想してみました。
ITを取り巻く状況の現状認識
まずは予想の下敷きとして、IT業界にとどまらず世の中の状況がどうなっているのか、現時点での認識をまとめておきましょう。
国際自由貿易の停滞と米国への不信
2025年1月、米国大統領にドナルド・トランプ氏が就任したことは、この1年で最も大きな影響を世界の政治や経済に与えた出来事だったと言って過言ではないでしょう。
トランプ大統領が就任直後から強引に推進した相互関税は、これまで進展してきた国際自由貿易の停滞や逆転を引き起こすと同時に、コンピュータ関連の製造業を含む多数のグローバルな製造業のサプライチェーンに見直しを迫るものとなりました。
政治的には、ロシアによるウクライナへの侵略における和平交渉での米国の姿勢がロシア寄りであるとして、欧州は米国への不信感を募らせつつあります。
また、日本で高市早苗氏が首相に選ばれたことは、国内の伝統的な価値感を重視するとされる、いわゆる保守的な志向の高まりを反映したものと推察されます。
1年前のIT業界予測の中で、「高くなる国境、続く円安と人手不足」として国際的な緊張の高まりとインフレが続くだろうという当時の認識を示しましたが、これは1年が経過した現在も継続していると言えそうです。
ITと政治の距離が可視化
トランプ大統領の就任式にはGoogleのスンダー・ピチャイCEO、Appleのティム・クックCEO、メタ(旧Facebook)のマーク・ザッカーバーグCEO、Amazon.com創業者のジェフ・ベゾス氏らが巨額の寄付を行うとともに出席することも年初に大きく報道されました。
さらに、新たに設立されたDOGE(政府効率化省)はテスラやX/Twitterのオーナーであるイーロン・マスク氏が主導し、以前からトランプ支持者であったオラクル創業者のラリー・エリソン氏は影の大統領と呼ばれるほどトランプ大統領と近しい関係にあると報道されるなど、ITと政治との距離がかつてないほど近いことが可視化された一年でもありました。
米国のみならず世界中でITは各国の安全保障に関わる重要事項となりつつあることなどからも、ITと政治の距離はさらに近づいていくことになりそうです。
AIへの大規模投資に注目集まる
2025年のAIの進化と普及、そしてその将来性はIT業界のみならず、株式市場などからも大きな注目を集めました。
NVIDIAの時価総額は2025年7月に世界初の4兆ドル(1ドル155円換算で620兆円)を突破。アップルやマイクロソフトを抜いて時価総額世界一となりました。
ちなみに日本企業の時価総額1位はトヨタ自動車で約53兆円、日本の国家予算(一般会計)は約117兆円です。
そしてAIブームの勝者になるべく、Googleやマイクロソフト、Amazon.com、Facebook、そしてOpenAIやオラクル、ソフトバンクなどをはじめとする多くの企業が、驚くような額の資金調達やAIデータセンターへの積極投資などを発表しています。
一方でその反動として2025年後半には、これらの大規模投資は本当に将来の利益となって回収できるものなのかという疑念も一部でささやかれるようになっています。
その疑念への答えがはっきりするのは数年後のことだと思われますが、すでにオラクルの株価が急落するなどの動きが見え始めています。2026年の株式市場はもしかしたらそうした予測を早くも織り込むようになるのかもしれません。
年末に突如始まったメモリ価格の高騰
株式市場の外でAIデータセンターへの大規模投資が引き起こした事象が、年末近くになって突如表面化したメモリ価格の高騰です。
2025年12月3日、半導体メモリの製造販売大手であるマイクロンテクノロジーがコンシューマ向けブランド「Crucial」でのメモリとSSDの販売終了を発表したのに象徴されるように、AIデータセンター向けのメモリ需要の高まりからコンシューマ向けのメモリ不足が起き、それによってメモリ価格が高騰しているとされています。
価格高騰はSSDやHDDなどメモリ以外の部品にも波及しています。
折しもちょうど現在、多くの日本企業が2026年4月から始まる新年度の予算を作成している時期であり、来年度のPCやサーバ、ストレージの調達計画を立てているところでしょう。
メモリだけでなくSSDやHDDもどこまで値上がりが続くのか見通しが難しい現在、この価格の不透明さはいずれ企業向けのサーバなどの調達にも影響を及ぼしそうです。
PublickeyのIT業界予想2026
少し長くなりましたが、こうした現状認識を踏まえつつ、期待を込めて2026年のIT業界を予想してみましょう。
サーバの調達価格高騰による新規システムのクラウド化が進む
2025年12月末、国内の多くのBTOベンダ、例えばマウスコンピュータ、ツクモ、ドスパラ、サイコムなどが相次いで受注停止や値上げなどを発表しました。
これはメモリ価格の高騰が続くことを見越して早めにPCを調達しておこうと考えた消費者の増加により、BTOベンダの想定を大幅に上回る受注が発生したこと、そしてメモリ価格の急上昇によるBTOベンダの仕入れ価格の急上昇などが重なったことが理由です。
メモリ価格の高騰は、これから企業が従業員用のPCやオンプレミス用のサーバの調達にも影響するであろうことは十分に予想されます。特に多くのメモリを搭載するサーバの調達価格の見通しは非常に不透明にならざるを得ないでしょう。
予算計画を立てたとしても、実際に発注してみたら予算に対して十分なサーバの台数が調達できなかった、という可能性もあるかもしれません。
一方で長期で大量のサーバ調達契約をしていると思われる大手クラウドベンダの利用料金が急に上昇する可能性は低いでしょう。
こうなると新たにオンプレミス用のサーバを調達する際の価格の不透明さを嫌って、安定的に調達できるであろうクラウドを選択する合理性が高まりそうです。
2026年は通常のクラウド移行に加えて、こうした不透明なサーバ調達価格を理由に、ある意味で消極的にクラウドを選択する、というシステムが増加するのではないでしょうか。
AIエージェントをメンバーとした開発方法論の勃興
もしもあなたの開発チームに、指示したことを文句も言わず何でも実行してくれて、昼も夜も24時間365日文句も言わずにずっと働き続けることができて、しかも通常の人件費よりずっと安価なメンバーを何人も採用できるとしたら、あなたはそのメンバーにいつ、どんな作業を依頼しますか? それによって既存のメンバーの役割や働き方はどう変わっていくべきでしょうか? 既存の開発手法や方法論はそのままでよいのでしょうか?
人間とは異なる能力と働き方とコストを備えたメンバー=AIエージェントが開発チームに迎え入れられようとしている現在、これまで人間だけで構成されていることが前提であった開発方法論、メンバーの役割、働き方、そしてコラボレーションツールなどを、人間とAIエージェントの混成チームを前提としたものに最適化するべく、多くの組織で試行錯誤が始まっています。
例えばそれは、以前GoogleがSRE(Site Reliability Engineering)として新しい運用エンジニアのあり方を提唱したり、あるいはアジャイル開発のコミュニティからアジャイル開発宣言が発表されたりするように、どこかのベンダから、あるいはどこかのコミュニティから提案されるのかもしれません。
いずれにせよ、2026年のAIエージェントはそれ単体や連携による能力進化だけでなく、AIエージェントを前提とした新たな開発方法論や手法、コラボレーションツールなど、AIエージェントを取り巻く環境との組み合わせによって進化していくものになるのではないか、と予想します。
企業などへのサイバー攻撃が続く
2025年は社会的に大きな被害をもたらしたサイバー攻撃が目立つ年でした。
1月には警察庁が、中国の関与が疑われる日本国内へのサイバー攻撃に注意喚起を公開。おもに日本の安全保障や先端技術に係る情報窃取を目的としていると説明し、サイバー攻撃は国家の安全保障と深く関わっていることを広く印象づけました。
2月にはサンリオが不正アクセスを受けてサンリオピューロランドの新規の来場予約ができない事態を引き起こし、3月には楽天証券やSBI証券を始めとした複数のネット証券においてフィッシング詐欺やマルウェアなどによると見られる証券口座の乗っ取りが多数発生したことが明らかとなって数千億円規模の被害が発生しました。
その後、多くのネット証券がこの被害を補償することを発表しています。
9月にはアサヒグループホールディングス、10月にはアスクルが相次いでランサムウェアによるサイバー攻撃を受け、製品出荷が停止する大きな被害を受けたことは記憶に新しいでしょう。
しかもこうしたサイバー攻撃はAIの進化によって以前よりさらに巧妙かつ洗練されてきている一方で、攻撃を受ける側の多くの組織の防御体制が十分ではないのが現状です。
2026年も残念ながら、国家間の緊張が高まるなかで国家が関与するサイバー攻撃が減ることは考えにくく、ネットにつながれたシステムの上で金銭的価値の高い情報のやり取りがますます増加する中で、それら金銭的価値の取得を目的とした攻撃も減ることはないでしょう。
一方で、前述の証券口座やアサヒやアスクルのように多くの人にとって身近な企業がサイバー攻撃を受け、被害額の補償や長期の出荷停止など多額の被害を受けたことがテレビや新聞、雑誌などで広く報道された結果、これをきっかけに以前より多くの企業や組織でセキュリティの議論が高まったとの声も聞きます。
2026年は多くの企業にとってセキュリティ体制を見直し、強化する年になってほしいと願っています。
Rustの採用が本格的に広がる
最後はもう少しテクノロジーに寄った予想をしましょう。
Rust言語は以前から多くのITエンジニアに注目されているプログラミング言語でした。
C言語のように低レイヤのシステムの記述を得意とし、不正なメモリ領域を指すポインターなどを許容しない安全なメモリ管理や、マルチスレッド実行においてデータ競合を排除した高い並列性を実現している点などの特長を備えています。
そしてコンパイル型の言語として安全かつ高速なネイティブバイナリを生成してくれます。
米政府は2024年に「将来のソフトウェアはメモリ安全になるべき」との声明を発表し、そのためのプログラミング言語の1つとしてRustを挙げています。
しかしRust言語はその高い注目度に対して、実際の開発プロジェクトでの採用例は十分ではなかったと言ってよいでしょう。
これはそもそもRust言語の得意分野が低レイヤのシステム開発という比較的ニッチであり、しかもプログラミング言語の変更に保守的な領域である、という背景もあります。
それでも2025年、Rust言語の利用は広がりを見せていました。
これまでLinuxのカーネル開発におけるRust言語の使用は実験的な位置付けとされていましたが、2025年12月に東京で行われたMaintainers Summitにおいて、Rustの使用はもはや実験的ではないとされ、正式な採用が決定されたとのことです。
マイクロソフトも2030年までに自社の主要コードベースからC/C++を全面的に排除し、Rustへ移行する方針を明らかにしたと報道されています。
アプリケーション開発の領域にもRust言語が広がり始めた例として、AWSが2025年11月、AWS LambdaがRust言語を正式にサポートしたと発表しました。
Rustは、これまでAWS Lambdaでよく利用されてきたNode.js/JavaScriptやJava、.NET、Pythonなどのプログラミング言語と異なり、ネイティブバイナリを生成するコンパイル型言語です。
これによりインタプリタやJITコンパイラを用いたプログラミング言語と比較して高速な起動と実行、そして実行時に必要なメモリ容量が小さくて済むなどの利点があります。
サーバレスコンピューティングにおいてこれは、高速な起動および省メモリなどの効率的なコンピューティングリソースの面で非常に大きなアドバンテージです。
何より、AWS Lambdaという広く使われているアプリケーションプラットフォームでRust言語を用いてアプリケーションが書けるようになったということが、Rust言語の活用範囲を大きく広げることでしょう。
これらを背景に、2026年はRust言語の高い注目度が採用事例へと積極的に移行していくことになるのではないか、と期待を込めて予想したいと思います。
みなさんの2026年の予想もぜひX(旧Twitter)やブックマークなどで教えてください。
