Google App Engineの実質大幅値上げ、特定のクラウドにロックインされるリスクが表面化

2011年9月26日

Google App Engineの利用料金が実質大幅値上げとなることが、9月に入ってからブログや記事などで取りざたされています。経緯をまとめてみました。

Google App Engine正式版へ

2008年にプレビューサービスが始まったGoogle App Engineが年内に正式サービスへと移行することが発表されたのは、今年5月のことでした。インスタンスの起動状態を維持できる新機能「Backends」などが追加され、料金体系も新しいものになることなどが発表されました。

Google cloud services – App Engine

グーグルは新料金体系について、次のように説明しています

App EngineがGoogleの正式な製品になり、投資を続けていくために、課金体系を一新する必要があります。

その後目立った動きはありませんでしたが、9月に管理コンソール画面から現在の利用料金と、新料金体系になった場合の料金の比較ができるようになったことで、このままアプリケーションを運営し続けた場合、新料金体系ではいくらになるのかが正確に分かるようになりました。

このとき、多くのデベロッパーが「このままでは料金が跳ね上がる」ことに気付いたのです。

新料金体系での大きな変更は、CPU時間での課金からインスタンスの起動時間での課金になることです。アプリケーションの仕組みや稼働状況によって料金の変動幅は変わってきますが、ものによっては数倍以上の例が報告されています。

例えば、このブログで紹介されている「Google Plus Feed」というアプリでは1日2.5ドルが34ドルと10倍以上に、こちらのブログで紹介されている例では、月額510ドルが2070ドルと4倍になるそうです(ブログ主のアプリケーションも現在の料金は不明ながら、新料金体系では月額22万円になって、とても払えないと書かれています)。

また、InfoQでは、「InfoQ: 開発者にショックなGoogle App Engineの値上げ」という記事を9月7日付けで公開しています。

Google App Engineに詳しいshin1ogawa氏のブログにポストされた、「404 shin1のつぶやき ないわー Not Found: Google App Engineの新料金体系に向けた準備 #gaeja」という記事では、新料金体系とそれに向けて料金を下げるためのチューニング方法などが紹介されています。

グーグルのディレクターが謝罪と説明

グーグルは、新料金体系への反響の大きさから、当初9月後半に予定していた移行時期を11月1日へと延期し、フロントエンドインスタンスの無料枠も24時間から28時間へ延長、料金を半額にする期間を12月1日までとしました。

Peter Magnusson - Google+ - TL;DR: New pricing postponed to Nov 1, instance hour…

Google App Engineのエンジニアリングディレクター Peter Magnusson氏は、新料金体系に関する個人的なコメントを9月10日に自分のGoogle+で公開し、料金変更に関するスケジュール設定が間違いだったことを認め、謝罪しています。

It’s clear we were wrong: expecting developers to figure out their future costs from information in the admin console was simply too obtuse. We made a classic error: we’re too familiar with our own product.

私たちが間違っていたことは明確だ。デベロッパーの方々が将来の新料金の価格を管理コンソールの情報から計算できるだろうと考えていたことはあまりにも鈍い考えだった。私たちは古典的な間違いを犯した。自分たちが自身の製品に詳しくなりすぎたのだ。

So I apologize: we should have realized this and put out a version of side-by-side billing much sooner. But this is easy enough to fix: we’ll just give you more time. So instead of turning on the billing in the second half of September, we are giving developers more time to fine tune their application by moving that date to November 1st.

これについては謝罪する。このことに気づくべきであり、料金併記機能をもっと速やかに投入するべきだった。しかしこれらは修正できる。9月後半に新料金へ切り替える代わりに11月1日に変更し、デベロッパーの皆さんにアプリケーションを変更する時間を提供するようにする。

一方でMagnusson氏は、料金設定についての理解を求めています。

App Engine is a classical case of platform computing trade-offs. What would you like? High scalability, ease of use, low maintenance, high reliability, security? Pick any two and somebody can make it super cheap.

App Engineはプラットフォームコンピューティングにおけるトレードオフの古典的な一例だ。高いスケーラビリティ、使いやすさ、メンテナンスの少なさ、高信頼性、セキュリティのどれが望みだろうか? これらのうちどれか2つだけであれば、非常に安価に実現できるだろう。

But if you want three or four, or all five, things become a little more dicey. With App Engine we are targeting doing all five at the same time, because we think that’s what cloud application developers ultimately want, and we think that’s what the future of cloud computing entails. And we’ve decided to package that offering into a free tier and two paid tiers:

しかしもしも3つ、あるいは4つ、5つのすべてを実現しようとするならば、そうはいかなくなる。App Engineで私たちは、この5つを同時に達成しようとしている。それがクラウドアプリケーションのデベロッパーが究極的に求めるものであり、クラウドコンピューティングの将来だと考えるからだ。だから私たちは料金体系を、無料版と2つの有料版として提供するのだ。

ロックインのリスクが表面化

Google App Engineは、小さな運用の手間だけでスケーラブルなクラウドの特性を活用でき、開発環境なども整っているプラットフォームとして、ほかのクラウドの追随を許さないサービスを提供しています。これらを評価して使っている開発者も多いはずです。

前述のshin1ogawa氏もブログで次のように書いています。

Google App Engineが提供するテスタビリティが高い開発環境、優秀なApp Engine専用フレームワークの存在、といった状況もアプリケーションの設計実装に集中したい私には重要です。

一方で今回の実質値上げは、特定のクラウドにロックインされるリスクをあらためて多くのデベロッパーに意識させることになりました。特に、ビジネス利用を想定してコストを払ってGoogle App Engineを利用してきたデベロッパーにとって、原価となるコストが突然数倍になる状況は悩ましいものです。

ひがやすを氏のツイートを2つ引用します。

この新料金体制のままなら自分ならappengineを使い続けないだろう。二倍以内のコストアップなら許容範囲内だけどTL、ML見てると三倍以上のコストアップがほとんど。Beanstalkと比べても割高感がある。不満がある人はきちんと表明しよう #gaejaFri Sep 02 04:58:06 via HootSuite

誤解のないように補足すると無料運用していた分が有料で4,50$/月になるのは問題ないと思います。これまでが安すぎただけ。そうじゃない数100$/月以上払っていたアプリが2倍以上高くなるのは高すぎだと思うということです #gaejaFri Sep 02 06:33:46 via HootSuite

グーグルはおそらく、今後もGoogle App Engineではクラウドの互換性を高める方向ではなく、より高度なクラウド技術を投入して差別化をはかる(≒デベロッパーにとってロックインの度合いが高まる)戦略をとることでしょう。だとすれば、ビジネス面でロックインによる不安を緩和するような措置、例えば長期契約による料金の安定化や、APIや機能などの提供期間のコミットメントなどが必要になってくるのではないでしょうか。

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Junichi Niino(jniino)
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