「アドビ vs Web標準」の決着はどうなる

2009年6月18日

僕は以前に、HTML5などのWeb標準が進化することでFlashの重要性は薄れていく、という予想を書いたことがありました。以前のエントリ「Webブラウザの進化は、FlashとSilverlightを飲み込んでいく」から引用。

とはいえ全体のトレンドとしては、FlashやSilverlightが提供しているようなマルチメディア処理、インタラクティブな処理の主要な部分は、 WebブラウザやAjaxライブラリに取り込まれていく方向にあります。そのためのプラグインの重要性の低下は不可避だと僕は考えています。

Adobe versus the 'Open Web'

こうした意見は僕だけでなく多くの人によって語られているようです。

そして先日、米アドビシステムズのエヴァンジェリストであるSerge Jespers氏がこうした意見への反論をブログ「Adobe versus the 'Open Web'」に書きました。

今回はまず、彼の意見に耳を傾けてみることにしましょう。

エヴァンジェリストの主張「Flashはずっと先を行っている」

fig 米アドビシステムズのエヴァンジェリスト、Serge Jespers氏

「最近、『HTML 5はFlashを抹殺するだろう、それにアドビは独自規格のFlashによってWeb標準を破壊する悪者だ』という話をよく聞くんだ。だけどそれについてちょっと考えてみてほしい」という言葉で、Jespers氏のエントリは始まっています。

Lately, I've read and heard a lot of conversations about how "HTML 5 is going to kill Flash" and how Adobe is bad for "breaking the open web" with the "proprietary" Flash Player.So... Let's think about this for a second.

Jespers氏はHTML 5の完成時期がずっと先であることを指摘します。「予定では、HTML 5の登場は2012年なんだよ。Internet Explorer 8はHTML 5の機能をいくつか先取りしているとはいえ、本格的な"Flashキラー"が登場するのは楽観的に見ても2012年まで待たなくてはならないんだ」。

The release for HTML 5 is scheduled for 2012. Sure... Internet Explorer 8 already has some HTML 5 features enabled but the full blown "Flash killer" is not going to be available until 2012... and even that is an optimistic schedule.

そしておそらく、Jespers氏が最も言いたいことが次のフレーズで登場しています。「HTML 5がもたらすものは何だろうか、と見てみると、私にはそれがFlash Player 7の小さなサブセットのように見えるんだ。しかも、Flash Player 7が登場したのは2003年の9月。もう6年も前に実現されている機能だ」。

If I look at what HTML 5 is going to bring to the table, it seems that its features can be compared to a smaller feature set of Flash Player 7. That version of the Flash Player was released in September 2003... So those features have been available for at least 6 years now.

「HTML 5が十分に浸透する頃には、Flash Playerはバージョン12とか13とか、もっと進んでいて、Webブラウザの標準機能だけでは実現できないようなエキサイティングな機能が使えるようになっているはずだ」

So by the time HTML 5 gets to critical mass, the Flash Player will be at version 12 or 13 with even more functionality and exciting features that will not be available in standard browsers.

そしてJespers氏は、FlashによってPicnikのようにWebブラウザで写真の加工ができたり、Sumo Paintのようにグラフィックの作成が行えるようなWebアプリケーションが実現され、またWebで見られている動画の85%はFlash Playerによって再生されている、といった例をあげて、Flashは決して標準を破壊しようとしているのではなく、Webの可能性を広げているのだということを示そうとしています。

それでもFlashの重要性の低下は不可避だ

Jespers氏のエントリからポイントとなる部分を見てきました。Jespers氏の主張はその通りだと僕も思いますが、「Flashは死なないまでも、その重要性の低下は不可避だ」という意見は変わりません。

一方で、アドビが標準を壊すような存在とは思いません。たしかにFlash Playerはプロプライエタリな製品ですが、これまで標準がなかった分野のデファクトになったのであって、標準に挑戦してプロプライエタリな技術を展開しているわけではないと理解しています。

さて。Jespers氏の主張はHTML 5が登場するのはずっと先で、その頃にはFlashはさらに高機能になっているだろう、というのが骨子となっています。

しかし、多くの人にとっては、「高度なグラフィックス機能のWebサイトを見たい、動画や音声を再生したい」ということがFlash PlayerをWebブラウザにインストールする理由になっていたはずです。それがHTML 5をサポートするWebブラウザで利用可能になっていくとすれば、利用者にとってFlash Playerをプラグインとしてインストールする重要度が低下すると考えるのは自然なことでしょう。

加えて、現在ではjQueryなどのAjaxライブラリが充実してきており、リッチクライアントの構成要素としてのFlashの優位性も減少しています。

もちろん、複雑な描画手法、フォントに関わる高度な表現、DRM付きの動画や音声のようにライセンスが必要な部分など、標準化には収まらないさまざまな優れた機能がFlash Playerには備わっていますし、今後も標準の先をいく新機能を提供し続けてくれることは間違いありません。とはいえこれらの機能の多くは、動画や音声の再生と同じくらい多くの人に求められている機能か、といわれればそうではないでしょう。

またJespers氏は本格的なHTML 5の登場が「早くて2012年」と書いていますが、Canvasタグと、Autido/Videoタグに限れば、先月登場したSafari 4と、今月登場するFirefox 3.5、現在βのGoogle Chrome 3.0はこれらのタグが実装されていますし、YouTubeはVideoタグを用いたHTML 5の実験ページを公開中です。Internet Explorerもこれらの機能を3年も無視し続けるとは思えません。しかしそれでも2012年にはまだHTML 5対応のWebブラウザは普及の途上でしょう。

FlashはAdobe AIRとともに成功し続けてほしい

ではFlashは将来、高度でニッチな機能を提供するプラグインとして生き残るしかないのか? というと、そうではないと僕は考えています。「SilverlightのライバルはFlashじゃなくて」というエントリで、僕は次のように書きました。

Webブラウザは、Webページを次々に「閲覧」していくという部分まで変えるわけにはいきません。となると、Webアプリケーションの「実行」に最適化された「Webブラウザ的なもの」のほうがアプリケーションプラットフォームとして優れたものになるかもしれません。Adobe AIRはそのポジションを上手に狙いました。

アプリケーションのプラットフォームとしては、Web標準も大事ですが開発効率や機能、性能を実現することも大事です。ですから僕はFlashは、Webブラウザの拡張としてではなく、アプリケーションプラットフォームの一部となっていくべきではないかと考えています。そして、その中でのFlash単体の重要性はHTML 5やAjaxなどの登場で相対的に低下するとしても、プラットフォーム全体の価値が向上すればよい、という戦略へ切り替えるのです。

その点でAdobe AIRは、HTML/CSS/JavaScript/Flashという既存のWeb技術を使いつつアプリケーションを構築できるプラットフォームであり、多くの技術者を巻き込んだアプリケーション開発環境・実行環境になる可能性を秘めていると思っています。

アドビはすでに、HTML/CSS/JavaScriptという標準技術をサポートするプロフェッショナル向けのオーサリングツールとしてDreamweaverという成功事例を持っています。ならば、同じく標準技術をターゲットにしたAdobe AIRの開発環境でも成功できるはずです。

実のところ個人的には、Visual Basicのようなメジャーな(あるいは大衆的な)プログラミング環境の地位を、Webテクノロジーによって構成されたAdobe AIRとその開発環境が引き継いでほしいとさえ思っています。先日Adobe Labsでβ版が公開されたFlash Builder 4(旧Flex Builder 4)はAdobe AIRのための統合開発環境ではありませんが、Flashをアプリケーションのプラットフォームとするためのアドビの取り組みとして注目しています。

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タグ : Adobe , Adobe Air , Flash , Web標準



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