アイティメディアの2015年3月期決算に見る、IT系オンラインメディアの状況

2015年5月22日

「ITmedia」や「@IT」といったオンラインメディアを運営するアイティメディアが平成27年3月期(2014年4月から2015年3月までの1年間)の決算を発表しています。

Webにはポータルやソーシャルメディアやキュレーションサイトのように、外部からコンテンツを調達したりユーザー自身にコンテンツを生成してもらったり、あるいはテクノロジーによってWeb上のコンテンツを加工することでメディアビジネスを展開している企業は数え切れないほどあります。

しかしアイティメディアのように、社内に社員の記者や編集部員をたくさん抱え、自社でコンテンツを作ることを中心としたオンライン専業のメディア企業というのは、実はそれほど多くありません。しかも公開企業として決算を公開している企業となると、もしかしたらほとんど唯一の存在かもしれません。

メディアビジネスについての話題はあちこちで語られていますが、ある意味で古典的ともいえる編集部を中心とした組織を持ち、自社コンテンツ中心によるオンラインメディアのビジネスは現在どのような状況にあるのか、それを知ることはメディアビジネスを語る上で大事な情報になるはずです。アイティメディアの決算はそれを知ることができる貴重な情報の1つでしょう。

同社が公開している「平成27年3月期 決算説明資料」(PDF)から、ポイントを見てみましょう。

(お断り:この記事を書いている新野はアイティメディアの株主であり、合併してアイティメディアとなった株式会社アットマーク・アイティの創業者の1人でもありますので、同社の利害関係者であることをお知らせします)

従業員は175人で半分弱が記者や編集者

決算の中身を見る前に、アイティメディアがどんな会社か、簡単に整理しておきましょう。

2015年3月現在の同社の従業員は175人で、記者や編集者が83人(47%)、営業が63人(36%)、技術が14人、管理が15人。ほぼ半分が記者や編集者ということですね。

決算では同社のメディアは「IT&ビジネス」「コンシューマー」「産業テクノロジー」「その他」に分類されています。

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ニュースなどがたくさん載っている「ITmediaニュース」や技術者向けの「@IT」が「IT&ビジネス」分野。

パソコンの話題が中心の「ITmedia PC USER」や、「ねとらぼ」が「コンシューマー」分野。

組み込みシステムやエレクトロニクスの話題が多い「MONOist」や「EETimes」「EDN」などは「産業テクノロジー」分野ですね。

2014年度(2014年4月から2015年3月まで)の売り上げは31億6300万円。前年比+9.4%で、過去5年で最大の売り上げ、成長率も過去5年で最大と、非常に良い結果となっています。

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売り上げの半分以上を占めているのが、IT&ビジネス分野。ITmediaニュースやITmediaエンタープライズ、@ITといったメディアの売り上げです。これは同社の現在の主力メディアがまさにこれらのメディアであることも示しています。

デジカメやパソコンといった情報を扱っているコンシューマ分野のメディアは全体の16.9%で、メディアの存在感と比べると小さいなと思われる方が多いかもしれません。

以下は営業利益のグラフです。2014年度の売り上げはここ5年で最大の売り上げとは言うものの、実は10年のスパンで見るとリーマンショック前の水準までようやく戻した、という感じです。景況感を知る上で、これは1つのポイントだと思います。

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バナーもゆっくり成長、タイアップも成長、もっとも成長したのは?

メディア関連のビジネスに興味がある方は、次のグラフが非常に興味深いのではないでしょうか。アイティメディアの売り上げを商品タイプ別に分類したものです。

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下から見ていくと、「ディスプレイ型」はバナー広告のことですね。売り上げ構成比は25.7%、前年比+0.8%ですから、まだゆっくりと成長している状況です。

「タイアップ型」は、いわゆるタイアップ記事、記事体広告で、一般に記事の形式で広告を作成するというもの(読者には広告であることは明示されます)。売り上げ構成比はディスプレイ型よりも大きくて33.5%、前年比+7.0%ですから成長率もディスプレイ型より高いですね。

下から3番目の「ターゲティング型」は、アイティメディアが戦略的にいちばん力を入れている商品でもあります。これはメディアを使って集めた読者プロフィールのリストを、(読者の同意の下に)クライアント企業に提供するというもの。「TechTarget」というメディアがこのビジネスの中心です。

ターゲティング型の売り上げ構成比は33.6%とタイアップ型をわずかに上回り、しかも前年比+17.9%と大きく成長しています。

一般に、バナーやタイアップ広告はマーケティング予算が使われるのに対し、ターゲティング型の商品はクライアント企業がリストを元に顧客候補に直接コンタクトできるため、販売促進などの予算が使われるとも言われています。そのためにメディアとしてはクライアント企業の財布が広がり、販売機会が増やせるというわけです。

キーマンズネット統合でさらに成長。みんな大好き「ねとらぼ」の挑戦

そのターゲティング型(下記の図では「リードジェン」と示されていますが)の成長をさらに加速する目的で、アイティメディアはリクルートからキーマンズネットの事業譲渡を受けました。同社のメディアビジネスは今後、バナーとタイアップという軸と、ターゲティング/リードジェンという軸の2つによって支えられるようになるというのが戦略として示されています。

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メディアビジネスをさらに伸ばしていくために、ターゲティング/リードジェンにさらに注力するわけです。

ただしターゲティング/リードジェンはITやビジネス分野に絞られているため、コンシューマ分野はどうやって成長させるのか、という戦略の中で示されているのが、みんな大好き「ねとらぼ」です。

これまでアイティメディアは例えばポータルやソーシャルメディアなどの広告の単価と比べるとずっと高い単価で広告を販売してきました。それができたのは、基本的にITの専門家やガジェットが好きなギークといった人たちに支持されるような焦点がはっきりした記事を編集部が作り、その記事の価値を説明できる社員の営業担当がきちっとクライアントに売ってきたためです。

一方で「ねとらぼ」は、上の図でも「PV重視の新モデル」とあるように、若者などに受ける面白い記事をたくさん投入して大量のPVを稼ぎ、営業の労力は掛けずにアドテクノロジーによって効率的に配信される広告を大量に掲載することで売り上げを上げていくモデルだと説明されています。

「ねとらぼ」は月間5000万PVに到達して急成長中とのことですが、この1年の通期はまだ赤字。今年にも黒字の計画ではあるものの、大槻社長は、もっとPVを伸ばすためにリソースを投入して黒字化は先送りする可能性もあるとしています。

一般のメディアビジネスの議論との相違

ざっくりとですが、アイティメディアの決算資料から、特に商品別の売り上げと成長戦略を中心に見てきました。

一般にバナーはもう下火になるという議論もある中で、アイティメディアとしてはまだゆるやかながら成長できると考えているようですし、タイアップ型は最近になってまた注目度が高まっていることもあり、バナー以上にまだ成長することは確実のようです。

そしてターゲティング型はすでに売り上げ構成比で3分の1を獲得するまでになっており、さらに成長が期待されている商品となっている点は、一般のメディアビジネスの議論からすると意外性のあるところではないでしょうか。

また、読者への課金という点も一般的にはよく話題になりますが、少なくともアイティメディアの成長戦略の中で、課金というのは大きな話題になっていないという点も注目すべきかもしれません(もちろん社内では検討されてきているはずですが)。

こうした特長は、僕の個人的な意見ではテクノロジー系のメディアには方向性としておおむね共通する、といってもいいのではないかなと思います(異論ももちろんあると思いますが)。おそらくこの先3年くらいのスパンではこの方向性に大きな変化はないのではなかな、とも思っていますが、みなさんはどう思われますでしょうか。

ちなみに、アイティメディアは2014年度が設立15周年(1999年12月にソフトバンク・ジーディーネット株式会社が設立)。先日15周年記念パーティも社内で行われたようで、心からお祝いを申し上げます。

そして今日5月22日はWebサイト「@IT」の公開日からちょうど15年。15年前にサイトをオープンさせたのは僕なので、個人的にも大変思い入れがあります。こちらも「15周年おめでとう!」とお祝いを申し上げます。おめでとう!

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タグ : メディアの未来



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IT系の雑誌編集者、オンラインメディア発行人を経て独立。新しいオンラインメディアの可能性を追求しています。
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