情シス部門の存在意義を問うクラウドサービス。米国では2割が導入の相談せず

2011年6月10日

クラウドで提供されているエンドユーザー向けサービスのほとんどは、ブラウザから利用でき、使い方も簡単で、容易な導入が大きな特徴です。例えばグーグルのGoogle Appsやセールスフォース・ドットコムのSalesforce CRM、マイクロソフトのOffice 365など、どれも使いやすさなどを前面に出しています。

【Kelton Research調査】2割の企業がIT部門を通さずにクラウドを導入――おエライさんの独断で決定 : クラウド・コンピューティング - Computerworld.jp

そうしたクラウドサービスの導入に当たり、米国では約2割の企業が「情シス部門を通すと時間がかかる」といった理由で、経営陣が情報システム部門に相談せずに導入を決めている、という調査結果がComputerworld.jpの記事「2割の企業がIT部門を通さずにクラウドを導入――おエライさんの独断で決定」で紹介されています。

記事では、米国企業の役員や部門長など573人に対する調査で、

回答者の20%が、IT部門を通さずにクラウド・サービスを導入したと答えた。

とのこと。そしてIT部門(情シス部門)を通さなくても導入には問題なかったし、逆にIT部門を通すと時間がかかりすぎる、といった回答が集まっています。

回答者のうち61%が、クラウド・サービスは容易に導入できたと答えており、50%が、IT部門を通すと時間がかかりすぎると答えている。また、60%が、IT部門を通さないIT導入を禁止する企業ポリシーがあると答えている

これまでも同じことが起きていた

「従来の新しい技術の受け入れ過程でもよく見られたパターンと同様だ」と記事内でも指摘されているように、情シスを通さずに製品やサービスを導入する動きは、かつてサーバの値段が劇的に下がったおかげで各部門ごとにファイルサーバが乱立したり、グループウェアの普及時期には各部門が独自にグループウェアの導入を始めたり、といったことがありました。

クラウドサービスは価格的にはサーバのハードウェアやグループウェアのパッケージの値段よりもさらに安価で、しかも保守も不要で導入も簡単なので、こうした草の根的な導入は今後さらに広がっていくことでしょう。おそらく日本でも同様だと思います。

ブログナレッジ!?情報共有・・・永遠の課題への挑戦の吉川日出行氏も、エントリ「クラウド・サービスの無秩序的導入が進んでいるらしい」で同様の指摘をしています。

そういえば10年以上前に同じようにバックログへ忙殺されるIT部門に愛想をつかしてEUC(エンドユーザコンピューティング)が急速に普及した時期があったが、その後その弊害が無視できなくなってゆり戻しが起きた。クラウド・コンピューティングも同じ歴史を繰り返すような気がしてならない。

個人にもクラウドサービスが浸透すると、後追いでは対応できない

しかしクラウドサービスがこれまでの例と違うのは、これらのクラウドサービスが個人でも利用可能になっていて、部門での勝手導入と同じことが個人でも起きている、ということです。

個人でもGmailなどのクラウドサービスを利用し、さらにEvernoteやFacebookやTwitterのようなサービスも利用し、スマートフォンなどを活用して仕事をしている人は、もう珍しくありませんよね?

これまで部門レベルで勝手に導入されてきたファイルサーバやグループウェアは、吉川氏が指摘するように、部門ごとの運用負担が面倒だったり、運用効率が悪かったり、情報共有の壁になるといった理由でゆり戻しが起きて、徐々に情シス部門に巻き取られて行き、全社での統合が行われてきました(この動きは仮想化によるサーバ統合などにより現在も進行中です)。

しかし、いま社員個人が仕事で使い始めているクラウドサービスは、個人の権利で利用していること、サービスがあまりに細かく分かれていること、運用の手間がそもそも存在しない、などの理由から、おそらく企業がそれを全部巻き取ることはできないでしょう。

これだけクラウドサービスが個人に普及し、そして個人がそれぞれに自分の生産性をあげるためにさまざまなサービスとPCやスマートフォンやタブレットといったデバイスを活用しようとする動きは、広がることはあっても止めたり、巻き戻したりといったことは困難です。それを無理にやろうとすると、社員の生産性を会社が落とすことになり、ひいては社員離れを引き起こしたり、影でこっそり使われることでセキュリティの問題を引きずることになるでしょう。

となると、情シス部門はこれからどうすればよいでしょうか?

個人にまでクラウドサービスが普及していく状況を考えると、これまで行ってきたような「後追いでサービスの全社的巻き取りを考える」という手は良策ではないと思われます。それに、歴史的に何度も同じことが繰り返されるのは「やはり情シス部門は役に立たないなあ」という印象を強めるだけです。

ですから、情シス部門がこの状況に対応するための正攻法として考えられるのは、経営陣からも部門からも個人からも「導入時に相談される相手になる」ことです。

そのために具体的になにをするべきか、ここで書くにはあまりにも大きなテーマなので、それはまた別の機会に書きたいと思います。でも、わざわざそれを論じるまでもなく、おそらく情シス部門や、そのパートナーであるシステムインテグレータの方々の多くは、「分かっている、でも、できてない」という心境ではないかと想像します。

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