アメリカ国立標準技術研究所による、クラウドコンピューティングの定義

2010年11月11日

クラウドとは何なのか? にはさまざまな議論があります。最近では、セールスフォース・ドットコムのマーク・ベニオフ氏が「偽のクラウドに気をつけろ!」と言えば、オラクルのラリー・エリソン氏が「セールスフォース・ドットコムはクラウドではなく単なるアプリケーションホスティングだ」と反論するなど、人により立場により、その定義には大幅な違いがあります。ある意味でそれぞれが都合のいい解釈をしているといってもいい状態です。

NIST.gov - Computer Security Division - Computer Security Resource Center

その中であえて「クラウドの定義とは何か?」について、もっともコンセンサスが得られる定義があるとすれば、アメリカ国立標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology:NIST)による定義でしょう。クラウドとは何か? を考えるときには必ず参照することになる定義です。

すでにNISTのクラウド定義については、Hadoopユーザー会による訳Agile Cat氏による訳IPA市川氏の訳(PDF)などがネットを検索すると見つかるので、あらためてここで紹介するのはいまさらではあるのですが、今回僕もある仕事のために参照する機会があり、上記の訳も参考にさせていただきつつ全文を訳してみました。せっかくなのでここで掲載したいと思います。

以下の文については、どなたでもご自由にお使いいただいて結構です。可能なら出典を明記していただけると幸いです。また、訳に対するアドバイス、ご指摘などあれば歓迎します。

アメリカ国立標準技術研究所(NIST)によるクラウドの定義

The NIST Definition of Cloud Computing
Authors: Peter Mell and Tim Grance
Version 15, 10-7-09

National Institute of Standards and Technology, Information Technology Laboratory

クラウドコンピューティングとはモデルであり、構成変更が可能なコンピューティング資源(例としてネットワーク、サービス、ストレージ、アプリケーション、サービス)の共有プールを、オンデマンドなネットワークアクセスで可能にする。

それはわずかな管理の手間、もしくはサービスプロバイダとのやりとりによって迅速に準備され、提供される。

このクラウドモデルは可用性を促進するものであり、5つの本質的な性質と、3つのサービスモデル、そして4つの配備モデルから構成される。

■本質的な性格:

オンデマンドセルフサービス
利用者は自身で、コンピューティングの能力、すなわちサーバの利用時間やネットワークストレージといったものを、サービスプロバイダの人手を介することなく必要に応じて準備できる。

幅広いネットワーク経由のアクセス
クラウドの能力はネットワーク経由で利用でき、標準的な機構を持つさまざまなシンクライアントやそうでないクライアント(携帯電話やラップトップPC、PDAなど)からアクセスされる。

リソースプール
クラウドを提供するプロバイダのコンピューティングリソースは、マルチテナントモデルを用いて複数の利用者へ提供すべくプールされている。それは利用者の要求に従って、物理的にあるいは論理的に区別されたリソースをダイナミックに割り当て、あるいは再割り当てする。
利用者は提供されているリソースが物理的にどこにあるかは一般に認識せず、関知も管理もしないが、(国や州あるいはデータセンターなどの)抽象化の高いレベルにおいてその位置を特定することができるものもある。リソースの例としては、ストレージ、計算処理、メモリ、ネットワーク帯域幅、そして仮想マシンなどがある。

迅速な伸縮性
クラウドの能力は迅速に伸縮する。あるときにはそれは自動的に行われ、すばやくスケールアウトし、あるいはスケールインのためにすぐに解放される。利用者にとって、その能力はほとんど無制限であり、いつでも、いくらでも購入できるように準備されているように見える。

計測されるサービス
クラウドのシステムは自動的に管理され、リソース利用の最適化が行われる。それはいくつかのサービスの種類(ストレージ、計算処理、帯域幅、アクティブなユーザーアカウントなど)に応じた適切な抽象レベルの計測能力による。
リソースの利用は監視、管理され、利用されたサービスは顧客とプロバイダーの双方に対して透過的にレポートが提供される。

■サービスモデル:

Cloud Software as a Service (SaaS).
クラウドの能力は、クラウドインフラストラクチャの上で実行されるアプリケーションとして利用者に提供される。アプリケーションは、Webブラウザのようなシンクライアントインターフェイスを通じて、さまざまなクライアントデバイスからアクセスできる。
利用者は、ユーザーに特化したアプリケーションの設定以外は、クラウドインフラストラクチャであるネットワークやサーバ、OS、ストレージあるいはそれぞれのアプリケーションの能力について管理することはない。

Cloud Platform as a Service (PaaS).
クラウドの能力として提供されるのは、プログラミング言語やツールによって開発、もしくは取得したアプリケーションを、クラウド上でデプロイすることである。利用者はクラウドインフラストラクチャとしてのネットワークやサーバ、OS、ストレージなどを管理しないが、アプリケーションのデプロイもしくはアプリケーションをホスティングする環境の構成を制御することはできる。

Cloud Infrastructure as a Service (IaaS).
クラウドの能力として提供されるのは、利用者がデプロイし適切にソフトウェアを実行するための処理能力、ストレージ、ネットワークそのほかの基本的なコンピューティングリソースの事前準備などであり、OSやアプリケーションなども含むことがある。
利用者はクラウドインフラストラクチャを管理しないが、OS、ストレージ、デプロイされたアプリケーションなどの制御や、限定された範囲のネットワークコンポーント(ファイアウォールなど)の制御が可能。

■デプロイメントモデル:

プライベートクラウド
クラウドインフラストラクチャーは単独の組織によって運用される。その組織、あるいはサードパーティによって管理され、オンプレミスもしくはオフプレミスとして設置される。

コミュニティクラウド
クラウドインフラストラクチャーはいくつかの組織によって共有され、同じ意識(ミッション、セキュリティ、要件、ポリシー、コンプライアンス)を持つコミュニティをサポートする。その組織、あるいはサードパーティによって管理され、オンプレミスもしくはオフプレミスとして設置される。

パブリッククラウド
クラウドインフラストラクチャーは、誰でも、あるいは広い範囲の業種に対して利用可能となる。クラウドサービスを販売する組織によって所有される。

ハイブリッドクラウド
クラウドインフラストラクチャーが、2つかそれ以上のクラウド(プライベート、コミュニティ、あるいはパブリック)から構成されるもの。個別の実体を残しつつも、標準もしくは独自技術によるデータやアプリケーションの可搬性(クラウド間のロードバランスなど)によって結合されている。

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Junichi Niino(jniino)
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