グーグルのAndroid戦略の変化を示す、Nexus OneからNexus Sへの変化

2010年12月14日

(本記事は、ゲストブロガーのITジャーナリスト 星暁雄氏による投稿です)

2010年12月6日、米GoogleはAndroidの新バージョンであるAndroid2.3、コード名「Gingerbread」と、この新OSを搭載したAndroidスマートフォン「Nexus S」を発表した(Google Official Blogのエントリ)。Nexus Sの発表から読み取れる事を書き留めておきたい。

トラフィックの主流はいずれモバイルになる

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グーグルにとってモバイル分野は重要なテーマだ。この2010年2月にスペイン・バルセロナで開催された2010 Mobile World Congressの基調講演で、グーグルCEOのEric Schmidtは「Mobiile First」というスローガンを紹介した。モバイル向けを優先してグーグルのサービス群を提供していくとの意思表示だ。

トラフィックの増加という観点でも、HTML5の普及という観点でも、モバイルはPCを上回る勢いを持つ。やがてグーグルのトラフィックの主流は、つまり主要な収入源はスマートフォンなどモバイルデバイスからのアクセスとなる。同社は、モバイルの時代に対応する必要性を痛感しているのだ。そして、グーグルのモバイル戦略で最も重要な要素となっているのがスマートフォン向けOSのAndroidである。

グーグルブランドの最初のスマートフォンとしてAndroid2.0搭載のNexus Oneが発表されたのは2010年1月のことだ。そして2010年12月にAndroid2.3搭載のNexus Sが発表された。この間にAndroid事情は激変した。

激変したAndroid事情

最も象徴的な数字はAndroid端末の増加率だ。2010年2月時点では、増加ペースは世界中で「1日6万台のアクティベーション」だった。それが5月には1日10万台、8月には1日20万台、12月の時点では1日30万台にまで増えた。1年足らずの間に増加率が6倍に増えたのだ。

端末の種類も急激に増えた。2010年5月のGoogle I/Oでは54機種のAndroid端末が展示されていたが、いまや160機種以上の端末が出回っている。日本国内を見ても、この2010年秋冬発表のAndroid端末の種類は4キャリア合計で18機種に及ぶ。

ざっくり言って、2010年初頭のグーグルのAndroidに関する課題は「Androidの普及と推進」だったが、現在の課題は単なる普及促進ではなく「Androidの洗練と利用範囲の拡大」に変化しているようだ。Nexus OneとNexus Sを比べると、この変化が見えてくる。

2010年1月のNexus Oneの発表では「スーパーフォン」という言葉を使い、次世代のデバイスという点を強調していた。実際、Nexus Oneは最も早い時期に1GHz動作プロセッサを搭載したスマートフォンで、登場時点での性能は明らかに「次世代」と呼べるものだった。Nexus Oneを開発した台湾HTCにとっても、それまでの市販機に比べ段違いの性能を持つこの機種の開発は大きなチャレンジだったはずだ。

そしてNexus Oneには、新たな世代のAndroidの開発標準機としての役割があった。グーグル社員は全員Nexus Oneを持っている。またGoogle I/Oに参加した多くの参加者もNexus Oneをもらうことができた。今のAndroid OS、それに多くのAndroidアプリがNexus Oneをターゲットとして作られているのだ。

これに対してNexus Sは、すでに市販されている韓国サムスン電子製のスマートフォンGalaxy Sをベースにしている。プロセッサなど基本部分の性能は変わらない。Nexus SのPRムービーを見ると「Pure Google」というキャッチフレーズが使われている。キャリアやメーカーの色が付いていない、グーグル仕様のAndroid端末という意味合いと考えられる。

Nexus Sの役割とは?

Nexus Sは、性能面からは次世代機とは呼べない。そして「Pure Google」であることが強調されている。これは興味深い変化だ。Androidはカスタマイズが自由であることが「売り」の一つなのだが、現状はキャリアやメーカーによるカスタマイズされた端末があふれていて何がAndroidの標準的な環境なのかが分かりにくい状況となっている。Nexus Sは、そんな状況でのリファレンス機として企画されたものだということが、このキャッチフレーズから想像できる。

Nexus Sが搭載するAndroid2.3の特徴の中で、目立つのは2点。1点目はUI(ユーザー・インタフェース)の細かな改善、特に大画面への対応だ。もう1点、IP電話機能(SIP)を標準搭載する点も要注目だ。前者はタブレット型端末やテレビのようなデバイスへの対応を良くするため。後者はワイヤレスの世界でも、次世代の通信方式LTEではパケット通信が中心となることを見越して、IP電話向けの機能を積極的に構築していく必要があるということなのだろう。また、Google Voiceのような「インターネット側から考えた電話サービス」の構築にも使われていくのではないだろうか。

アプリ開発者にとって、Nexus Sの意味は次期OSのGingerbread(Android2.3)を最初に試せる実機であること、そしてNFC(Near field communication)やジャイロという新しいデバイスを最初に評価できる端末ということが大きい。その意味では、新たなOSやデバイスを使ったアプリをいち早く開発したい開発者向けの端末としての性格がある。一方で、米国でのNexus Sの販売ルートはコンシューマ向け電子機器販売大手のBest Buyであることから、幅広いユーザー層にPure Googleのケータイを使ってもらいたいという意図も読み取れる。開発者向けなのか、コンシューマ向けなのか、ちょっと性格がはっきりしないところがある。Nexus Sが一般ユーザーに受け入れられるかどうかはまだ分からないが、次期開発標準機としての役割を果たすことは間違いない。

それにしても、Nexus Oneの発表とNexus Sの発表は、共に同じ2010年の出来事だ。今見ると、Nexus Oneははるか以前の出来事のように思える。それだけAndroidの世界の進展は急激だったのだ。これだけ短期間で普及した技術はIT分野の歴史でも珍しい。Androidの今後は要チェックである。

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タグ : Android , Google , モバイル



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