破壊的技術に対するシスコの「スピンイン」戦略、あるいはスターエンジニアのつなぎとめ。シスコによるInsieme買収に隠された意味

2013年11月12日

シスコが野心的なSoftware-Defined Networkの新戦略「Application Centric Infrastructure」とその製品群を発表した背後で、もう1つ注目されるべきことが起きていました。

それはシスコがInsieme Networksの買収を明らかにしたことです。

今回発表された戦略と製品は、このInsieme Networks買収によってもたらされたものでした。戦略の詳細と製品についてローンチイベントで説明を担当したのがInsieme NetworksのSoni Jiandani氏だったことからも、それは明らかです。

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新戦略の核となる製品を作り上げたInsieme Networksとはどんな会社なのでしょうか?

スピンアウトではなく「スピンイン」

Insieme Networksは、もともとシスコに在籍していたマリオ・マッゾーラ(Mario Mazzola)氏らがシスコを離れて昨年設立した企業です。設立時からシスコが出資し、シスコCEOのジョン・チェンバース氏は、シスコのSDN戦略の柱となるのがInsieme Networksの製品となることを昨年から明言していました。

つまり、今回の買収と同時に製品発表が行われたのは最初から計画されていたことなのです。

こうした、社員が設立した企業を買収することを、社員の独立を指す「スピンアウト」の連想から「スピンイン」とシスコは呼んでいます。Insieme Networksの設立と買収は、シスコの新戦略と新製品を生み出すために行われたスピンインだったのです。

スピンインで破壊的技術を社内に取り込む

クレイトン・クリステンセンが書いた有名な書籍「イノベーションのジレンマ」には、次のような一節があります。

主流事業の競争力を維持したまま、同時に破壊的技術も追求しようとする。このような努力がめったに成功しないことは、過去の例が物語っている。

シスコは既存のネットワーク市場に君臨する巨人です。それゆえに、その主流事業の競争力を維持したままSoftware-Defined Networkのような破壊的な技術や、新分野の技術を開拓することが極めて難しいことは、この一節が指摘するように容易に想像できます。

しかし破壊的な技術に適応できないままでは、いずれ成長から見放されていくだけです。

そこでシスコが選択したのがスピンインという手段でした。社員が独立して破壊的な技術や新分野に取り組むスタートアップを立ち上げ、それが形になった時点でシスコが買収する。こうしてシスコは社内で取り組むことが困難な技術や製品を、その体内にうまく取り込んでいくことができるのです。

破壊的技術の獲得か、スターエンジニアのつなぎとめか

シスコは以前からこのスピンイン戦略を繰り返してきました。2008年にシスコがNuova Systemsをスピンインで買収したとき、シスコCEO ジョン・チェンバース氏はスピンインが短期間で緊密な技術を獲得する手段だと次のように発言しています

Nuova Systemsのケースにおけるスピンインの利点は、テクノロジーと専門知識、製品ロードマップを緊密に共有することで、十分に統合された製品を共同開発できたことです。スピンインによって獲得したテクノロジーは、従来の買収方法と比べてはるかに短期間でシスコのテクノロジー アーキテクチャの一部になりました。

一方で、スピンインはスターエンジニアをシスコにつなぎ止めておくための、シスコにとっては望まざる選択の結果だ、という指摘もあります。日経コンピュータ2012年6月7日号に掲載された中田敦記者の記事「シスコの不思議な成長戦略『スピンイン』」から引用します。

マッツォーラ氏や、彼に従うスターエンジニアたちは、自身の“市場価値”を知っているので、シスコ社内で新製品を開発するのではなく、独立を志向する。スターエンジニアをライバルに取られたくないシスコとしては、スピンインを選ばざるを得ない。スピンインはシスコにとって、苦渋の選択と言えそうだ。

いずれにせよ、スピンインはシスコが巨人の地位を保ったまま、最新の技術や製品を獲得して戦うための戦略的な手段となっています。果たして、今回のスピンインはシスコをどのように変えていくのでしょうか?

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カテゴリ 働き方 / 給与 / 学び
タグ  Cisco , Software-Defined Network


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