AWSをElasticが名指しで非難。ElasticsearchとKibanaのライセンスを、AWSが勝手にマネージドサービスで提供できないように変更へ

2021年1月21日

オランダに本社を置くElasticは、オープンソースで開発してきたElasticとKibanaのライセンスをそれまでのApache License 2.0から、商用サービス化を制限する「Server Side Public License」(SSPL)と「Elastic License」のデュアルライセンスへ変更することを発表しました

その目的は、AWSが勝手にElasticsearchとKibanaをマネージドサービスとして提供できないようにするためであると、同社CEO Shay Banon氏がブログで明らかにしています。

商用サービスを制限するライセンスへ変更

Elasticsearchはログ解析による運用監視やセキュリティインシデントの発見、データ分析などに使われている、この分野でもっとも人気のあるソフトウェアの1つ。そしてKibanaはそのデータをグラフやダッシュボードを用いて可視化する定番のソフトウェアです。

新たにデュアルライセンスで採用されるSSPLは、MongoDBがAWSなど大手クラウドベンダによるオープンソースのサービス化に反発し、商用サービス化を制限するために作成したライセンスです

デュアルライセンスのもう1つのElastic Licenseも、クラウドベンダによる勝手なサービス化を制限する内容になっています。

このライセンス変更による既存のオンプレミスユーザーと同社が提供するElastic Cloudユーザーへの影響はなく、大半のユーザーへの影響もありません。

一方で、Amazon Elasticsearch Serviceのような、ElasticsearchやKibanaを商用サービスで提供しているベンダには影響があります。

今後クラウドベンダはElasticの許可なくElasticsearchとKibanaをサービスとして提供できなくなります。

また、SSPLもElastic Licenseもどちらもオープンソースライセンスとして認められていないため、ElasticsearchとKibanaはコードの公開は継続されるものの、厳密な意味でのオープンソースではなくなります。

AWSはオープンソースの商標を軽視しコミュニティを分断していると非難

ElasticのCEO Shay Banon氏がAWSを名指しで非難した同社のブログ「Amazon: NOT OK - why we had to change Elastic licensing」(Amazonはだめだ - なぜ私たちはElasticのライセンスを変更せざるを得なかったか)では、今回のライセンス変更はオープンソースのバックグラウンドを持つBanon氏にとって非常につらい決断だったとしたうえで、それでもライセンス変更を決心した理由を次のように書いています。

So why the change? AWS and Amazon Elasticsearch Service. They have been doing things that we think are just NOT OK since 2015 and it has only gotten worse. If we don’t stand up to them now, as a successful company and leader in the market, who will?

ではなぜライセンスを変更したのか? AWSとAmazon Elasticsearch Serviceだ。彼らは、私たちが、とにかくそれはだめだ、と考えることを2015年から続けており、しかもさらに悪化している。もしここで、市場で成功しているリーダーとして私たちが立ち上がらなければ、だれがやるというのか?

明確にAWSを名指しし、彼らの振る舞いが問題だからライセンス変更をしたと説明しています。

Banon氏は、AWSがオープンソースのElasticsearchを用いてElasticとは関係なくマネージドサービスの「Amazon Elasticsearch Service」を提供しているだけでなく、サービス名にElasticsearchという名前を使うことでオープンソースの商標を軽視し、さらに独自のElasticsearchの独自ディストリビューションを開発したことでコミュニティの分断まで引き起こしていると強く非難しています。

一部を引用します。まず、そもそもAmazon Elasticsearch Serviceは商標違反ではないかと指摘。

So imagine our surprise when Amazon launched their service in 2015 based on Elasticsearch and called it Amazon Elasticsearch Service. We consider this to be a pretty obvious trademark violation. NOT OK.

Amazonが2015年にElasticsearchをベースにしたサービスを開始し、それを「Amazon Elasticsearch Service」と呼んだときの私たちの驚きを想像してみてほしい。私たちはこれを、相当明白な商標違反と考えている。これはだめだ(NOT OK)。

少なくともオープンソースのElasticsearchという商標を軽視しているとしたうえで、さらにユーザーの混乱も引き起こしていると。

We have seen that this trademark issue drives confusion with users thinking Amazon Elasticsearch Service is actually a service provided jointly with Elastic, with our blessing and collaboration. This is just not true. NOT OK.

この商標の問題は、Amazon Elasticsearch Serviceが実はElasticとの共同で提供されているサービスではないかとユーザーに誤解させている。しかしそれは事実ではない。これはだめだ(NOT OK)。

AWSは2019年、Elasticsearchの独自ディストリビューションを作成し公開を開始しました。Banon氏は、これはElasticsearchコミュニティの分断や混乱を招いたとしています。

参考:AWSが、Elasticsearchのコードにはプロプライエタリが混在しているとして、OSSだけで構成される「Open Distro for Elasticsearch」を作成し公開

When Amazon announced their Open Distro for Elasticsearch fork, they used code that we believe was copied by a third party from our commercial code and provided it as part of the Open Distro project. We believe this further divided our community and drove additional confusion.

Amazonが「Open Distro for Elasticsearch」フォークを発表したとき、それは私たちの商用コードを第三者がコピーしたと思われるようなコードが使用され、それをOpen Distro for Elasticsearchの一部として提供した。このことが私たちのコミュニティの分断や混乱を招いたと考えている。

ブログ中には何度も何度も「NOT OK」と、AWSに対するダメだしが繰り返されています。

ほかのクラウドベンダとは協力関係を結んでいる

その一方で、AWS以外のクラウドベンダとは問題なく協力関係を結んでいることも記しており、問題はクラウドベンダ一般にあるのではなく、AWSにこそあるのだということも浮き彫りにさせています。

We collaborate with cloud service providers, including Microsoft, Google, Alibaba, Tencent, Clever Cloud, and others. We have shown we can find a way to do it.

私たちはマイクロソフト、Google、Alibaba、Tencent、Clever Cloudやそのほかのクラウドベンダとは協力関係を結んでいる。私たちは適切な方法を示すこともできているのだ。

パートナー戦略を具体化させたGoogleと、歩み寄らないAWS

今回のElasticによるライセンス変更は、2018年頃から表面化した、大手クラウドベンダによる「オープンソースのいいとこ取り」にオープンソースベンダが反発した動きに続くものといえます。

参考:Redis、MongoDB、Kafkaらが相次いで商用サービスを制限するライセンス変更。AWSなどクラウドベンダによる「オープンソースのいいとこ取り」に反発

このときにはRedis Labs、MongoDB、Kafkaの開発元であるConfluentなどが相次いでブログで、大手クラウドベンダがオープンソースに大した貢献もしないまま、オープンソースを用いたマネージドサービスで大きな利益をあげていると指摘。

これを不満とするMongoDBやConfluentは商用サービスを制限するライセンス変更に踏み切りました。

こうした動きを察知したGoogleは、2019年4月に開催したイベント「Google Cloud Next '19」で、MongoDB、Redis、Confluent、Elasticをはじめとするオープンソースソフトウェアベンダとの戦略的提携を発表。

オープンソースソフトウェアベンダが提供するマネージドサービスをGoogle Cloudに統合することでビジネス機会を提供するなど、積極的なパートナー戦略をとりはじめました。

参考:[速報]Google、大手クラウドに不満を表明していたMongoDB、RedisらOSSベンダと戦略的提携。Google CloudにOSSベンダのマネージドサービスを統合。Google Cloud Next '19

一方、AWSはこうしたパートナー戦略はとらず、オープンソースベンダがライセンスを変更してくる動きに対して、AWS自身がオープンソースのディストリビューションを作成することで引き続きオープンソースを維持しようとするなど、歩み寄ろうとする姿勢を見せていません。

参考:AWSが、Elasticsearchのコードにはプロプライエタリが混在しているとして、OSSだけで構成される「Open Distro for Elasticsearch」を作成し公開

こうしたAWSの姿勢が、今回のElasticのライセンス変更につながったわけです。

記事執筆時点ではAWSからブログなどでの反応や反論は行われていません(独自ディストリビューションのOpen Distro for Elasticsearchのマネージドサービスと位置付けて継続する可能性が高いのではないでしょうか)。

ただしAWSでAmazon Elasticsearch Serviceを利用しているユーザーは、中長期的なセキュリティパッチの提供やアップデート、本家Elasticsearchとの互換性維持などについて注意しておいたほうがよいかもしれません。

とはいえこのままでは、AWSがオープンソースをベースにした自社のマネージドサービスを維持し展開していくための良好な環境が失われていく可能性が高まることは、AWS自身も理解しているはずです。AWSの姿勢がこの先変わるのかどうか、注視したいところです。

商用サービスを制限するライセンス変更の流れ

オープンソースとして開発されてきたソフトウェアが、クラウドなどによる商用サービスを制限するライセンスへの変更は、2019年以後いくつも行われてきました。下記はそれらを紹介した記事です。この項目は随時更新します。

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Junichi Niino(jniino)
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