Publickey Smart Edition β3

金融とテクノロジーの融合によるサービスの革新”フィンテック” ― AIIT起業塾#7 ―[PR]

2017年5月12日


2016年8月28日日曜日、産業技術大学院大学主催による「AIIT起業塾 #7」が産業技術大学院大学秋葉原サテライトキャンパスにて開催されました。7回目となる今回は、「フィンテック」をテーマに、それに携わる4名の登壇者を中心に、50名以上の参加者が熱い議論を交わしました。

fig

Fintechの最新動向と金融機関へのインパクト

株式会社日立製作所金融システム営業統括本部金融イノベーション推進センター部長である長稔也氏は、フィンテックの概要と、企業としてこれにどのように対応しているのかについて講演していただきました。

fig

フィンテックというワードは、従来は金融機関のテクノロジーもしくは金融機関のテクノロジーやサービスを提供する企業を示していました。しかし昨今日本においては金融およびIT業界で活躍するスタートアップ企業を指すことが多くなっています。そこで注目すべきは、非金融業界の企業が金融業界に参入し、直接エンドユーザに金融サービスを提供するようになったことです。これにより、特に日本ではスタートアップ企業と金融機関のサービス協調が進み、今後は業種間でのシームレスな連携が求められているとのことです。

次にフィンテックの企業タイプについて説明がなされました。具体的には次の5タイプに分類されます。

・スー族(独立独歩)型企業
ソーシャルレンディング、クラウドファンディングのように、金融機関が取引の対象としない顧客へのサービス提供を重視する企業

・ゲリラ(攻撃者)型企業
金融企業の非効率性につけ込み、優れたサービスを提供する企業

・サムライ(直接対決)型企業
金融機関の顧客に対し同様のサービスを提供し、直接競合を仕掛ける企業

・二重スパイ(協調)型企業
金融機関の既存インフラを活用する企業

・インベーダー型企業
金融業界そのものを変革するような、破壊的な商品やサービスを提供する企業

金融機関また既存ベンダは、これらの企業に対し、状況に応じて「対抗」「支援」「協業」の3つの選択肢から対応を取る必要があります。また業種単位での協調が進むことで、業種共通の機能が社会全体として共通化していくのではとの意見を述べられました。

次に日立では、「インタフェース」「ビッグデータ・人工知能(AI)」「セキュリティ」「金融インフラ」の4つの領域に注力し、金融システムでの新機能や新サービスを提供していると述べられました。例えば人工知能においては、跳躍学習という手法を用い、金融機関関係者が直感や経験則によって得られた知識に依存しないような重要指標については、ビッグデータから統計的に絞り込んでいます。

更に数値データの解析に対し、より高度なテキストデータの解析を加えることで、新しい価値の創造や経営判断の意思決定の支援を行っていく予定です。こうした日立で開発しているツールを更に活用するとともに、フィンテックの様々なタイプの企業と是々非々で「対抗」「支援」「協業」していきたいと述べ、長氏の講演は締めくくられました。

ブロックチェーンの可能性と課題

fig

日本電気株式会社FinTech事業開発室マネージャーである岩田太地氏には、ブロックチェーンの技術やその課題について講演していただきました。

まずブロックチェーンは、信頼していない人同士でも協働で合意形成をすることができる特徴を持っていると語られました。この技術が進展する背景として、岩田氏は文化的な背景があると述べています。近年、3Dプリンタおよびクラウドコンピューティング等のテクノロジーの進化で、生産者と消費者の垣根が低くなり、起業するコストが低くなっています。

そのようなときに必要なのが、簡単に決済でき、価値を提供するインフラです。現在ブロックチェーンが活用されている分野も、価値の流通とポイント化プラットフォームをインフラとして整備すること、シェアリング、サプライチェーン、プロセス・取引の全自動化および効率化などを行う場となっています。

次にブロックチェーンの技術的な特徴について解説されました。ブロックチェーン同士の相互連携によりデータベースには、データのみならず、プログラムやその入力、自動的に実行した結果などが入っており、それぞれのデータベースのセキュリティレベルが異なっていてもネットワーク全体でデータベースが一意に保たれるようになりました。

そのブロックチェーンの構成要素のひとつとしてデータ構造があり、ブロックのハッシュ値を次のブロックに含めるハッシュチェーン構造とし、更にブロックに含めるデータに対し、データ発行者の電子署名を付与しています。また、ネットワークは中央サーバを用意せず、ネットワークに参加するノード間の通信でデータを管理するP2Pネットワーク構造を取ります。このP2Pネットワークで真正なデータを一意に管理するために、ネットワーク参加ノード間で合意形成をするアルゴリズムも持っています。

しかしながら、ブロックチェーンには技術的課題も存在しています。データ容量の増大および検索や抽出の課題と、機密性の高いデータもネットワーク全体で共有され削除や変更が困難であるというデータ構造に起因する課題があります。また、ブロックチェーンへのアクセス制御設定や、設計やルール、ポリシーを誰が設計するのかといった、P2Pネットワークに起因する課題もあります。更に、単位時間あたりに処理できるデータ量が少ない点や、参加できるノード数の限界、また合意に至る電力消費量などの合意形成アルゴリズムに起因する課題も存在します。

これらの課題を解決することで、氏は「Inclusive Growth」を引き起こしたいと考えています。Inclusive Growthとは皆で生産性を高めるという取り組みで、消費者と生産者を直接ブロックチェーンでつなげることで、生産者が市場の価格を知り、「Fair Trade Blockchain」を実現できます。このような社会課題を起点とすることで、技術および社会の発展に寄与したいと述べられました。

Fintech×知的財産戦略

fig

TIS株式会社決済ビジネス企画部主査である富沢真沙刀氏は、フィンテックビジネスにおけるオープンイノベーションおよび知的財産戦略の側面からの考察について講演していただきました。

現在のシステムインテグレーション分野においては、一から組み立ててビジネスを起こすのではなく、存在している機能やサービスを標準化された通信技術で呼び出して利用することが主となっています。現在富沢氏が勤務するTIS株式会社では、このようなビジネスの背景にあるWeb API、Open APIといった技術が金融機関において利活用され、ビジネスとして発展すると信じ、フィンテックでのオープンイノベーションに取り組んでいると語られました。

このようなフィンテックビジネスを考えるにあたり、展開するサービスは生まれては消え、消えては生まれる流動的なものになると氏は述べています。したがって、従来のようにじっくり時間をかけて作り込んだサービスを提供するのではなく、とにかくまず動くサービスを提供して稼働させることが重要となります。また企業が巨大化すると、自社が持つ情報資産の様々な価値に気づくことが困難になり、斬新なアイデアが出なくなるということが往々にして問題となります。こうした悩みを抱える企業と斬新なアイデアを持つフィンテック企業との連携や、連携するための価値を創造する場を提供したいと述べられました。そのために、顧客視点を意識させるためのハッカソンの開催や、Open APIを活用した新プロダクトの開発に注力しているとのことです。

次に、TIS株式会社の取り組みとして、フィンテックと知的財産戦略との関係について述べられました。日々生み出される知的財産を守り経済の発展につなげるため、TISがプラットフォームとなり特許権者とそれを利用するライセンシーをつなぐパテントプールの役割を担いたいと考えています。更に、フィンテックプレイヤーが持つ知的財産についても、金融機関とのライセンスをうまくつなげ、契約などの手続きの支援、適切なロイヤルティの配分、またアイデアの海外展開のサポートを目指していると述べられました。

フィンテックの最先端技術、MT LINKの可能性

fig

マネーツリー株式会社取締役兼MT LINK開発責任であるマーク・マクダッド氏からは、フィンテックを切り開く新技術についての紹介と、氏が開発するMT LINKがフィンテックでどのように利用されているかについて紹介していただきました。

マーク氏は、フィンテック自体は新技術ではなく、既存の技術を金融業界で利用し、アンバンドリング(バラ売り化)を加速化するものだと述べられました。具体的には、「決済、資産管理、業務効率化、投資信託、融資、セキュリティ、ブロックチェーン」の分野でフィンテックの技術が使われており、顧客が自分の情報を自由に売ってサービスを受けることができるようになりました。特にブロックチェーン以外は、個人や法人が金融機関を通さずに使うことができる点が大きな変化となっています。

金融業界では、このようなフィンテック技術をうまく取り込み、ユーザが欲しいサービスを提供するカスタマーマインドにシフトできる企業が勝つと考えられます。また、従来の金融機関はハードからソフトまで幅広くビジネスを展開していましたが、フィンテックでは特にソフトウェアの開発が重視され、優れたソフトウェア会社に近いマインドを持つ企業が成功すると考えられます。

次に、フィンテックが近年急速に発展した3つの理由について述べられました。1つめは、データ環境がデータセンターからクラウドコンピューティングに進展し、比較的低コストで冗長性と拡張性の高いインフラを利用し、開発を加速することができるようになったことです。2つめは、PCよりもパーソナルなサービスを提供するスマートフォンが普及することで、金融機関を利用する顧客がより簡単明瞭で手間をかけないサービスを求めるようになっていることがあります。3つめはAPIによるデータ連係が簡単になり、アンバンドリングが進んだという点です。

氏が開発しているMT LINKは、銀行、銀行法人、クレジットカード、ECポイント、証券を連携するAPIを提供しており、別の会社のサービスとして提供できるようになっています。ここで問題となる個人情報については、利用者自身が個人情報を管理し、どのサービスに情報を提供するかを選択することができるようになっています。これによりクレジットカードの明細を確認する際に、MT LINKのAPIを利用することで銀行の口座残高を確認することができたり、銀行がクレジットカードの利用状況を確認して融資の情報を提供することができます。このように、金融機関も従来のように個人の記録を重視する「Systems of Record」という考え方から、このユーザの興味に沿ったサービスを提案・提供する「Systems of Engagement」の考え方に変わっていくのではと述べられました。

最後にマーク氏から、スタートアップを目指す方に対して、自分の目で今の世界を見て、利用者として「無駄、めんどくさい、高い、サービスが良くない」と思う所をよく考え、アイデアを出すことが大事であるとのアドバイスを頂き、講演を締めくくられました。

フィンテックの課題と今後を語るパネルディスカッション

パネルディスカッションでは、4名の登壇者がパネラーとなり、フィンテックについての疑問や課題、展望など、様々な話題について意見が交わされました。

fig

まず司会の産業技術大学院大学教授 小山裕司氏から、フィンテックは顧客にどのようなメリット・デメリットを与えるのかという議題が出されました。

日立製作所の長氏は、「金融機関はフィンテックの技術を取り込めなければ破壊的な攻撃を受ける可能性があるが、一方でエンドユーザは今まで敷居が高いと感じていたサービスが使いやすくなるといったように、メリットが大きいはずである」との意見を述べられました。マネーツリーのマーク氏からは、「金融機関もフィンテック企業との協働で新しいサービスを提供できるはずである」と述べられました。

TIS富沢氏からは、「フィンテックは利益提供サービスであり、これまで多くの金融サービスの恩恵を受けてきた富裕層以外の個人にもサービスを提供する可能性を持っている」と述べられました。NEC岩田氏からは、「恩恵の一方で詐欺に対する対策や生体認証の保護などのセキュリティ対策が重要であり、特にセキュリティに対するわかりにくさを顧客にどのように説明するのかが重要である」と述べられました。

次に、フィンテックによって金融サービスがドラスティックに変わるのかという議題が出されました。

長氏からは、「ブロックチェーンなどの新しい技術は発展途上であり、今後の技術の進化に伴い企業の投資も増える。またユーザも新しいサービスを受けると新しいサービスを求めるようになり、それによりサービスの向上も期待される。一方で、現状ではインターネットバンキングの利用状況は低いため、アグリゲーションのようなサービス利用の拡大を図るためには、まずはその課題を解決することが必要である」と述べられました。

マーク氏からは、「フィンテックはこれからの技術なので、まずはマクロ的な視点で研究開発をするべきで、ミクロな変化はその後になると考えられるが、現状ではそのマクロな開発をするための政府の投資は小さいのではないか」と述べられました。富沢氏は、「今後投資は増えると考えられ、特にヨーロッパで行われているように個人財務管理をしている企業が成長し、個人に対するサービスが拡大するのではないか」と述べられました。

岩田氏は、「現状ではフィンテックを含め日本には起業家が少なく、新しいアイデアを出す人材を育成していかないと業界として活性化しないのでは」と述べられました。

更に産業技術大学院大学亀井氏から、フィンテックが提供することができる究極の価値とは何かとの議題が出されました。

長氏は、「エンドユーザ、企業等に対して様々な形で経済合理性が高まり、正のスパイラルが生まれるのではないか」との意見を述べられました。

マーク氏は、「MT LINKにより個人事業主がサービスを受け、労働コストを下げることで自由な時間を獲得することができている」と述べられました。富沢氏は、「商品開発までのスピードが高まることで、これまでのような金融商品開発の横並びが変わるのでは」と述べられました。岩田氏は、「Financial inclusionが進み、富裕層だけでなく一般の顧客にとってメリットが得られ、すべての人にとってフェアな成長ができるのでは」と述べられました。

最後に現在の金融業界で課題だと認識している点について議論が行われました。

岩田氏は本人確認の問題を挙げ、様々に存在する証明手段をどのように利用することで、ユーザにとって本当に便利な本人証明を実現できるのか、という課題を述べられました。

富沢氏は、現在の金融サービスを体験した時に不便さを学び、新しいアイデアを出すきっかけになった経験を語られ、既存のサービスを体験することで得られるビジネスチャンスがあるのではないかと述べられました。

マーク氏は、日本の金融業界の問題として、自分の信用情報を個人が確認できない点を挙げ、自分の情報をどれだけ提供すればそれに対する信用が得られるのかを個人が理解するべきであると述べられました。

長氏は、現在スマートフォンなどの普及で個人がリアルタイムで情報を受け取ることができる一方で、金融機関から適切なタイミングで適切な情報が提供されていないことを挙げ、顧客をより理解し、個人にとって意味のある情報を提供できるようになって欲しいと述べられました。

最後に小山氏からパネラーの皆様に講演の御礼が述べられ、今回の起業塾は締めくくられました。

AIIT起業塾について

産業技術大学院大学が主催する「AIIT起業塾」は、広く一般の方々が参加できるオープンな勉強会です。IT・デザイン・マネジメントなどを活用し、様々な産業分野で新しい事業構築や問題解決をしている先駆者達が登壇し、講演します。また、自由なディスカッションする機会も設けられています。

Twitterの ハッシュタグ「#aiit_startup」では新しい情報だけでなく随時質問や要望を受け付けています。今後も引き続き開催予定ですので、ぜひご参加ください。

また、この「AIIT起業塾」は、文部科学省の「高度人材養成のための社会人学び直し大学院プログラム」に採択された産業技術大学院大学「次世代成長産業分野での事業開発・事業改革のための高度人材養成プログラム」の一環として開催されました。

(執筆:渡邊 紀文=産業技術大学院大学 情報アーキテクチャ専攻 助教)

AIIT起業塾バックナンバー

産業技術大学について

(本記事は産業技術大学院大学提供のタイアップ記事です)



≫次の記事
マイクロソフトは「Windows Subsystem for Linux」を強化し、Windowsを「WindowsとLinuxのどちらのバイナリも開発、実行できるプラットフォーム」にするつもりだ
≪前の記事
Windows Serverにも「Bash on Windows」搭載へ。Windows Serverも仮想マシンを使わずにLinuxバイナリが実行可能に。Build 2017


新着記事

Home PC版Homeへ

お知らせ:Publickey Smart Editionは、現在ベータ版として無料で試験運用中です。