ニューヨーク証券取引所がクラウドサービスを開始した理由

2011年6月7日

ニューヨーク証券取引所は6月1日、世界最初の証券取引のためのクラウドサービス「Capital Markets Community Platform」を開始すると発表しました。現在、ベータ版としていくつかの企業が利用を開始しています。

NYSE Technologies Introduces the World’s First Capital Markets Community Platform

このクラウドサービスを利用することで、証券会社や投資家は迅速にコンピュータリソースを調達し、インフラの運用をクラウドにアウトソースできるだけでなく、取引のための高速なアクセス、分析のための大規模な市場データへのアクセス、証券取引に関するさまざまなアプリケーションへのアクセスが可能になります。

クラウドの構築はニューヨーク証券取引所とVMware、EMCの3社によって行われ、主な製品としてVMwareのvSphere、vCloud Director、vShieldと、EMCのVNXユニファイドストレージなどが用いられています。

コミュニティクラウドを始めたところが主導権を握れる

証券取引市場はすでにコンピュータ同士が超高速で取引を行うシステム性能の競争となっています。東京証券取引所も2010年には「Arrowhead」と呼ばれるシステムを構築、以前のシステムと比較してレスポンスを1/1000にまで向上させていると同時に、東証のコンピュータに近接した場所にコンピュータを設置できるコロケーションサービスも提供し、投資家の「より高速に取引したい」というニーズに応えています。

ニューヨーク証券取引所がクラウドサービスの提供を開始する背景には、こうした取引市場におけるさらに高度なサービス提供へのプレッシャーがあるといえます。ニューヨーク証券取引所は今後、クラウドサービス「Capital Markets Community Platform」を世界中に拡大していく意向を示しています。

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ニューヨーク証券取引所がクラウドサービスの提供を開始した理由はもう1つあるはずです。証券取引という同じ目的の顧客はシステムに対する要件も基本的には同一になるため、目的に特化した1つのインフラを共有しやすいという事情があります。それぞれの顧客にとっては、個別に自分のためのインフラを構築するよりも、大規模なインフラを共有する方が規模の経済が働いてインフラコストが安く済みます。

このような、システムに対する要件をほぼ同一にする企業や組織をターゲットにしたクラウド(=コミュニティクラウド)がいったんできあがると、そこに参加せず自力でインフラを構築しようとする企業はより高いコストを負担することになるため、必然的にその業界の参加者はすべてコミュニティクラウドに集まってきます。

つまり特定の業界で最初にコミュニティクラウドを提供したところが、その業界のインフラに関する主導権を握りやすい構造になっているのです。ニューヨーク証券取引所が世界で最初に投資家向けのクラウドを立ち上げたことは、この市場でこれからも影響力を発揮するのだという意思の表れでしょう。

今後は証券業界以外の業界でもコミュニティクラウドが登場し、規模の経済を競いつつクラウドを軸にした業界内の主導権争いが始まるものと予想されます。

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