NokiaがMicrosoftと戦略提携、Microsoftにとっては大きなチャンス、Nokiaには大きなギャンブル

2011年2月14日 / 星 暁雄

2011年2月11日、NokiaとMicrosoftは英ロンドンで記者会見を開催し、両社が戦略的提携を結んだことを発表した。発表内容を見ると、この提携はほとんど事業の統合に近い所まで踏み込んでいる。なにしろ発表資料には「経営資源を統合」し「開発ロードマップを共有」する、と書かれているのだ。

fig 握手するNokia CEOの Stephen Elop氏と、Microsoft CEOのSteve Ballmer氏 (ノキア提供)

この提携で、Microsoft側は多くのものを得る。

(1) Windows Phoneのシェア拡大。Nokiaは世界最大の携帯電話メーカーである。
(2) 検索エンジンBingへのトラフィック増大と、モバイル広告収入。NokiaのスマートフォンではBingを主力検索エンジンにすると発表されている。
(3) Nokiaの技術力、販売網、各国に開設済みのアプリマーケット。世界中で、あらゆる価格帯のWindows Phone端末を販売でき、Windows Phone上のアプリも直ちに販売できる。

Microsoftは多くのものを得るが、Nokiaが得るものは分かりにくい

一方、Nokia側が得るものは、発表内容だけでは分かりにくい。Nokiaの株価は前日から14.55%下落した(€8.18から€6.99へ)。投資家から見ても、今回の発表はNokia側のメリットが見えにくかったのだ。

筆者はTwitterで「Nokia側のメリットは何か?」と呼びかけて、何人かの方からご意見をいただいた。それに筆者の考えを合わせたものが、下のリストだ。

(1) Microsoftが抱える開発者コミュニティ。スマートフォンの成功のためには社外の開発者によるアプリはきわめて重要だ。Microsoftは伝統的に開発者支援に熱心な企業である。
(2) Windows Phone上のゲームアプリ群。MicrosoftはXbox向とWindows Phoneを共通のゲームプラットフォームにしようとしている。
(3) 次期モバイルOSの開発投資負担の削減と、次世代機の早期市場投入。

Nokiaはいくつかの選択肢を却下し、最後にWindows Phoneが残ったということなのだろう。NokiaがIntelと開発を進めてきたプラットフォームMeeGoは時期を逸した。かといって、Androidスマートフォンの市場に後発で参入して優位性を発揮することもまた難しい。だが、立ち上げ中のWindows Phoneにコミットすれば、NokiaがナンバーワンのWindows Phoneメーカーになることは可能と考えたのだろう。

この提携が成功すれば、Microsoftは「モバイル×クラウド×ソーシャルメディア連携」という重要分野で、一挙に地位を確立できることになる。Microsoft製のOSを搭載したスマートフォンのユーザーを獲得し、Microsoftのクラウド・サービスへのトラフィックを得ることができるからだ。

一方で、Nokia側にとってはリスクの大きな提携だ。Windows Phoneの立ち上げが失敗すれば、Nokiaには困難が訪れるだろう。

fig Windows Phone 7とクラウド連携の図。2010年9月開催の「マイクロソフトパートナーコンファレンス2010」で使われたスライドから

NokiaのCEOはマイクロソフトから移籍したばかり

Nokiaの現CEOであるStephen Elop氏は、2010年9月にMicrosoftから移ってきたばかりだ(プレスリリース)。Elop氏には、MicrosoftがWindows Phoneにより世界のスマートフォン市場で十分な市場シェアを獲得するシナリオが見えている、ということなのだろう。勝算あっての賭けであるはずだ。

筆者の感想は、「Nokiaはここまで追い詰められていたのか」というものだ。iPhoneやAndroidには業界一位のメーカーに自社プラットフォームをあきらめさせるだけの破壊力があったのだ。とはいえ、MicrosoftとNokiaの企業連合がスマートフォン市場を揺り動かす可能性は十分にある。今回の提携が「英断」と評されるか、愚策と断じられるかは、まだ分からない。

(著者の星 暁雄(ほし あきお)氏はフリーランスITジャーナリスト。IT分野で長年にわたり編集・取材・執筆活動に従事。97年から02年まで『日経Javaレビュー』編集長。08年にインターネット・サービス「コモンズ・マーカー」を開発。イノベーティブなソフトウエア全般と、新たな時代のメディアの姿に関心を持つ。 Androidに取り組む開発者の動向は要注目だと考えている)

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